第790話 密林の集落

――魔人の協力を得て無事に東里のエルフ達は密林へ到着すると、すぐに彼等の前に南里のエルフの戦士達が訪れ、密林の中に存在する彼等の集落へと向かう。他の里の集落とは違い、南里の集落に関しては「結界石」は破壊されておらず、魔物に襲われない安全地帯が残っていた。


エルフの戦士達の護衛の元、レナ達は密林の中を突き進んでいくと、やがて遺跡のような場所へと辿り着く。そこは北里の魔人たちが暮らしていた集落と非常によく似ており、結界石と呼ばれる緑色の巨大な水晶玉が取り付けられた石柱が集落の中央に存在した。


この結界石が存在する限りは魔物から襲われることはなく、しかも密林に囲まれているために外部から侵入者に対しては非常に見つかりにくい。実際にレナ達もエルフの戦士達の案内がなければ辿り着く事は出来なかっただろう。


他の里と対立しながらも南里の集落だけは無事だったのは密林に取り囲まれた環境であるため、最も被害が小さかった。また、密林には食用の魔物が多数存在し、更には食べられる野草や怪我を癒す薬草も豊富だった。だからこそ牙竜のせいで島中が食料危機に陥った時も、南里のエルフ達はどうにか自給自足で生活する事が出来た。



「まさかこの集落の結界石がまだ無事だったとは……驚いたぞ」

「とはいっても、3つある結界石の内の2つは壊れてしまってな……そのせいで以前と比べると結界の効力の範囲は弱まり、我々も大分住む場所は失ってしまったがな……」



レナ達は南里の族長が暮らしている大きな建物に立ち寄り、彼にこれまでの話を行う。西里は壊滅状態に追い込まれ、西里のエルフは住む場所を失い、この地に訪れたという話を聞くと西里の族長のライクはあっさりと受け入れる。



「ふむ、事情は分かった。そういう理由であれば好きなだけここで暮らすといい」

「おお、本当にいいのか?お主たちには迷惑を掛けてしまうが……」

「何を言っておる、我々は同盟を結んだのじゃ。それに勇者様の装備品を狙う輩を放置は出来ん、共に戦おうではないか」

「すまぬ、恩に着るぞ……」



東里の族長のアルフはライクの言葉に涙を流し、そんな彼をライクは励ます。その一方で南里の戦士長であるブナンは難しい表情を浮かべ、レナ達から詳しく敵の勢力を尋ねた。



「敵の数は?どのような武器を扱い、敵の大将の特徴を教えてくれると助かるのだが……」

「敵は獣人国から訪れたという獣人族の兵士達だ。奴等は火竜の幼体を操作し、我々の里を強襲した。しかも東里の若手のエルフは奴等に降ってしまった」

「何だと!?あの愚か者共が……誇りを捨てたか!!」

「攻める事は出来まい、彼等も生き延びるために必死なのだろう。そもそも儂等は対立して負ったからのう……他の里に援助を求める事が出来ない状況であれば仕方があるまい」



ブナンは東里のエルフ達が外部から訪れた獣人兵に降った事に激怒するが、話を聞いていたライクは黙って首を振る。東里の若者からすれば古からの伝承に従い、抗い続けて死ぬぐらいならば恥を忍んで敵に従い、生き延びる術を選んだとしても仕方がない話だった。


だが、いくら生き延びるためにとはいえ、島に暮らす他のエルフの殲滅に協力するのであれば彼等を許す事は出来ず、西里と南里のエルフ達は力を合わせて戦う事を決意する。その一方で彼等から勇者として迎え居られているレナはどうするべきか思い悩む。



「団長、無事に戻れたらいいんですけど……」

「転移は成功したのでしょう?なら、あとは団長に任せるしかありません」

「だが、相手が獣人国の軍隊となると俺達はどうすればいいんだ?」

『そんなもん、決まってんだろ。ここの奴等と一緒にあいつらをぶっ飛ばせばいいんだよ!!どうせレナが姿を見られたんだ、だったらもう開き直って戦うしかないだろ!!』



カツは獣人兵と戦う覚悟は決めているが、イルミナは難しい表情を浮かべ、ダンゾウも俯く。一方でレナの方はイレイナの事が気になり、どうして彼女が自分と似ているのか、同じ魔法を扱えるのかが気になっていた。



(俺が捨てられていたのは獣人国とヒトノ国の領地の境目、それにイレイナは獣人族だった……という事は、イレイナは本当に俺の……?)



自分とイレイナに何らかの血縁関係があるのではないかとレナは考えずにはいられず、それがもしも本当ならばレナはイレイナにどう接すればいいのか分からなかった。だが、イレイナの方はレナの事を明確に敵として捉えているのは間違いなく、今度出会った時は命を狙ってくるのは間違いなかった。


暗い雰囲気の中、ここで魔人の代表として建物の中に存在したミノはある事を思い出し、レナ達に話しかける。



「あ、そうだ。長老から遺言を伝えてなかった……レナ、長老の奴がな、死ぬ前にお前に託したい物があるって言ってたんだよ」

「え、長老が……」

「ああ、何でも古くから村に伝わる物だと言ってたぞ」

「村に伝わる……それはまさか!?」



ミノの言葉にアルフとライクが反応し、他の者達も彼に視線を向ける。ミノは何処からか木箱を取り出すと、レナに差し出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る