第768話 獣人国の将軍ガロウ
「いったい何が起きたんだ、詳しく教えてくれ」
「……お前達が出発してからしばらく時間が経過した後、俺達の前に奴等が現れた」
怪我を負いながらも族長の息子であるグランは語り始めた。彼等の身に何が起きたのか、時は遡る――
――グランは族長の息子として彼が不在の間は族長代理として西里のエルフの戦士達を集め、万が一の場合に備えて武装していた。仮に南里との交渉が決裂し、族長が人質に取られる事態に陥った場合を想定して彼等は全面戦争の準備を整えていた。
西里のエルフの戦士が全員集まると、西里から少し離れた場所から煙が上がり、それを確認したグランは煙の正体が狼煙だと気付く。何者かが西里のエルフ達に連絡を取り合おうとしている事に気付いたグランはすぐに警戒態勢へと入る。
「グラン隊長、東の方角からこちらへ近づく集団を発見しました!!数はおよそ……50名弱です!!」
「50名だと……東という事は東里のエルフか!?」
「いえ、それが……確かに東里のエルフもいますが、半分以上が恐らくは獣人族と思われる兵士です!!」
「獣人族だと!?」
「いったいどういう事だ……?」
岩山にて見張りを行っていたエルフの戦士が単眼鏡で様子を観察し、西里に接近する集団の確認を行う。そして集団の正体が東里のエルフと、この島には存在しないはずの獣人族の兵士だと知って戸惑う。
「本当に獣人族の兵士が同行しているのか?」
「間違いありません!!私も見るのは初めてですが、奴等には確かに獣のような耳と尻尾が生えています!!あれはきっと、獣人族で間違いありません!!」
「何だと……どういうことだ?」
見張りのエルフも獣人族の存在は知っているが、見るのは初めてのために動揺した声を上げる。その返事を聞いてグランは混乱するが、更に見張りの兵士は集団の中に巨人族らしき人物も確認する。
「な、何だあのでかい男は!?隊長、集団の最後尾には他の者と倍近くの体躯を誇る大男もいます!!」
「倍近くの体躯だと!?まさか、巨人族か?」
「恐らくは……この者だけはみすぼらしい恰好をしており、恐らくは奴隷のようにあ使われているのかと思われます!!それと、荷車のような物を運んでいますが……檻です!!荷車の上に置いてあるのは檻のようです!!」
「落ち着け!!こちらも姿を確認した、降りて来い!!」
岩山の上にて様子を観察していたエルフの戦士に声をかけると、地上のグランたちも接近する集団の姿を確認した。相手側の目的は不明だが、とりあえずはグランは戦士達に命じて周囲に潜んで攻撃の準備を整えるように指示を出す――
――戦士達を伏せると、グランは十数名の供を連れて接近する集団の前へと移動を行う。相手の方もグランたちの姿を確認すると足を止め、まずは最初に東里のエルフが話しかけてきた。
「……久しぶりですね、アラン」
「お前は……モルドか!?」
「そうだ、こうして会うのは子供の時以来か」
グランの傍に控えていたアランは自分の前に姿を現した人物を見て驚き、東里の族長の息子であるモルドという名前の青年だった。子供の頃に面識があり、顔を合わせるのは久しぶりだった。
族長の息子であるモルドがわざわざ訪れてきた事に驚き、いったい何の用があってここへ尋ねに来たのかとアランは問おうとした。しかし、その前にモルドが話しかける。
「驚くのも無理はありません、私が連れてきたこの方達の事を気にしているのでしょう?」
「モルド、その者達は何者だ!!どうしてこの島に獣人族が……」
「それは俺の方から話してやるよ、西里のエルフさんよぉっ?」
アランがモルドに獣人族の兵士の正体を尋ねようとした時、ここで兵士の中から一人だけ重武装した大男が現れる。身長は2メートル近くも存在し、恐らくは狼型の獣人だと思われるが、片目は見えないのか眼帯で隠していた。
恐らくは兵士の中でも一番偉い立場であると思われるが、外見だけでも荒っぽい雰囲気を纏い、口調も荒々しい。その男を見てグランは警戒するが、その男に対してモルドは少々困った表情を浮かべる。
「将軍、交渉は私が行うはずですが……」
「まあまあ、そう怒るなよ。交渉の前に一応は自己紹介をしておこうかと思ってな。初めまして、西里の田舎共……おっと、失礼」
「貴様……!!」
「止めよ、アラン!!こんなふざけた挑発に乗るな!!」
モルドから将軍と呼ばれた大男はグランたちに対して小馬鹿にするような態度を取り、その様子を見てアランは怒りを抱く。グランはあからさまな挑発を行う大男に鋭い視線を向けると、大男は改めて名乗る。
「これは失礼……じゃあ、今度は真面目に自己紹介といこうか、俺の名前はガロウ!!獣人国の第三将軍を務めるガロウだ!!」
「ガロウ、だと?」
「獣人国?獣人族の国の事か?」
「どうして大陸の国の将軍がこんな場所に……」
獣人国の将軍を名乗るガロウの言葉に西里のエルフ達は戸惑う中、ここでモルドが状況を説明するために前へ出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます