第748話 エルフの襲撃

「カツ!?いったい何を……」

『構えろ、来るぞ!!』

「何っ!?」



カツがレナ達の前に出た瞬間、何処からか矢が放たれ、イルミナの元へと迫る。その矢に対してカツは戦斧で弾き返すと、矢が放たれた方向を見て大声を放つ。



『出てきやがれ!!』

「……やれ!!」

「はっ!!」



矢が撃ち込まれたのは転移の台座の裏側からであり、どうやら最初から隠れていたのか二人組の金髪の男達が現れる。片方は青年、もう片方は中年男性のような外見をしていた。


どちらも耳元が尖っている事から長老と同じくエルフだと思われ、彼等は弓矢を構えてカツの元に構える。再び矢を撃ち込むつもりかと思われたが、ここで彼等の手元に風の魔力が宿ると、弓に番えた矢に変化が生じる。それを見たリルはカツに警戒するように声をかける。



「カツ、その矢を正面から受けるな!!」

『何だって!?』

「遅いわっ!!」

「喰らえっ!!」



矢が撃ち込まれた瞬間、凄まじい速度で二つの矢はカツの甲冑に的中し、まるでダンプカーに衝突したかのようにカツの肉体は吹き飛ばされた。



『うおおっ!?』

「カツ!?」

「そんなっ!?」

「今のは……!?」



カツの体重は甲冑の重量を含めれば軽く100キロは超えるため、いくら勢いがあるといっても矢に当たっただけで吹き飛ばされるなど有り得ないはずだが、事前にエルフ達は矢に風の魔力を込めて撃ち込んだ事で衝撃を強化したように見えた。


エルフの攻撃を見てレイナは驚き、まるで自分の付与魔法のように彼等が矢に風の魔力を纏わせたという事実に動揺を隠せない。しかし、カツを吹き飛ばした二人組は今度はルイとイルミナに弓を構えたのを見てレナは動く。



「「はっ!!」」



同時に矢を撃ち込んだ二人に対してレナは籠手に付与魔法を発動させると、矢が放たれる寸前で腕を伸ばして籠手に付与させた魔力を解放して重力の衝撃波を繰り出す。



衝撃解放インパクト!!」

「ぐあっ!?」

「うあっ!?」

「きゃあっ!?」

「くぅっ!!」



レナが魔力を解放した瞬間、強烈な衝撃波が周囲に広がり、迫りくる矢は吹き飛ばされてあらぬ方向に飛んでいき、エルフの二人組も後方へと吹き飛ぶ。一方でイルミナとルイは互いに身体を支え合い、どうにか持ちこたえる。



「二人とも、大丈夫ですか!?」

「え、ええ……助かりました」

「それよりもあの二人は……」

「はい、すぐに捕まえます!!」



倒れた二人を見てレナは接近し、相手が動く前に取り押さえるために闘拳と籠手の金具を外すと、二人に目掛けて構える。その光景を見てエルフ達は慌てて逃げようとするが、レナは抵抗できないように両腕の闘拳と籠手を射出した。



「飛来拳!!」

「ぐはぁっ!?」

「うごぉっ!?」



闘拳と籠手が腕から離れると二人の元へと向かい、額に衝突してどちらも気絶させる。その様子を見てレナは安堵すると、武器を引き寄せて腕に装着しなおす。


突如として襲い掛かってきたエルフの二人組を気絶させる事に成功したレナは彼等の元に赴き、様子を伺う。気絶しているだけの様子だが、この時に彼等の首元に掲げられているペンダントに気付く。



「リルさん、このペンダント……」

「ああ、長老から貰った物と似ているな。紋様は少し違うが……」

『いててっ……くそ、油断しちまったぜ』

「カツ、無事でしたか……良かった」



先ほど吹き飛ばされたカツも起き上がると、その様子を見てイルミナは安心した表情を浮かべる。派手に吹き飛ばされたようだがカツ自身は大した損傷は受けておらず、彼は矢を拾い上げてルイ達の元へ向かう。



『団長、これを見ろよ。ただの木製の矢だ、なのに俺を吹き飛ばす程の衝撃を与えたのに壊れてもいねえ』

「ああ、見ていたよ。こんな魔法は見た事がない……狩人や弓兵の戦技を使ったようには見えない」

「まさか、付与魔法ですか!?」

「その可能性もある。だが、希少職の付与魔術師の称号を持つ者が二人も居合わせたとは考えにくい。恐らく、何か仕掛けがあるはずだ」



カツが拾い上げた矢は別に特別な素材で作り出されたわけでもなく、彼が力を込めるだけで簡単に折れてしまう。その様子を見て先ほどの強烈な攻撃の正体は矢に秘密があるのではなく、エルフ達の方が何かを仕掛けたと考えたルイは二人の様子を伺う。


彼等がレナのような付与魔術師で「風属性」の付与魔法を矢に込めて撃ち込んだと考えれば先ほどの攻撃も納得できる。しかし、希少職の付与魔術師の称号を持つ者が二人も同時に現れるなど有り得る事なのかと疑問を抱いたルイは二人の手元を確認すると、指輪のような者が取り付けられている事に気付く。



「きっと、この指輪に秘密があるんだろう。恐らくは魔道具の一種だ、試しに使ってみるか」

「だ、大丈夫なのですか?」

「彼等を起こして無理やりに聞き出すという手もあるが、しばらくは目を覚まさなそうだからね」



ルイは完全に伸びてしまった二人組を見て今のうちに彼等から指輪を奪い取り、確認を行う。ルイは指先に指輪を嵌め込むと、試しに落ちている弓と矢を拾い上げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る