第二部

第702話 魔拳士と呼ばれる付与魔術師

――学園の卒業から1年の月日が経過した頃、黄金級冒険者に昇格を果たしたレナは16才の誕生日を迎えた。正確に言えばレナの生まれた日は分からないが、育ての親である彼がレナを見つけた日を誕生日の基準にしている。


学園を卒業してから1年の月日が経過し、現在のレナは金色の隼の冒険者の中でもトップクラスの実力者であると認識されていた。王都での盗賊ギルドを壊滅させた一件でヒトノ国の領地どころか、他国にもレナの名前は伝わっていた。


有名になったレナの元には各所から依頼が殺到し、王都に滞在する黄金級冒険者の中でもレナの知名度は高かった。学園の卒業後はレナは冒険者活動に専念し、指定された依頼を引き受ける日々を送る。


そんなある日、レナは王都から離れたナカノという街に辿り着き、今回の依頼人は街を治める街長だった。ヒトノ国では村を治める人間が村長と呼ばれるように街を治めるに人間は街長と呼ばれている。今回の依頼は街長からの指定依頼のため、レナは街長からまずは直接話を伺う。



「初めまして、黄金級冒険者のレナと申します」

「おお、貴方がお噂の魔拳士殿ですか!!ささ、どうぞどうぞ!!中へお入りください!!」



レナが訪れると街長は非常に喜んで彼を屋敷の中に案内し、手厚く歓迎する。レナが食事を取っていない事を知ると街長はすぐに使用人に料理を用意させ、豪勢に振舞う。


まだ年齢が若いとはいえ、黄金級冒険者の資格を持つレナは国にとっても重要な存在である。だからこそ街長も無下にする事は許されず、丁寧な態度で対応を行う。一方でレナの方は依頼を早く終わらせたいがために食事を早急に済ませると、早速本題へと入った。



「今回の依頼内容に関してなんですが、何でも街の近くに存在する鉱山に本来ならば生息するはずがない魔人族が現れたという事ですが……」

「ええ、その通りです。我が街の最大の収入源である鉱山に実は魔人族が住み着きましてな、それで困っているのです。生憎とこの街に所属する冒険者ではどうしようもないほどに危険な相手らしく、黄金級冒険者のレナ様に捕獲をお願いしたいのです」

「捕獲、ですか?討伐ではなく?」

「はい、捕獲を希望します」



街長の言葉にレナは疑問を抱き、街に暮らす人間の収入源である鉱山に住み着いた魔人族を討伐するのならばともかく、敢えて捕獲を依頼してきた事を不思議に思う。街にとっては重要な鉱山を独占する魔人族をわざわざ殺さずに捕まえろという指示にレナは疑問を抱き、いったいどんな魔人族が現れたのかを尋ねる。



「その魔人族の正体は判明していますか?」

「はい……魔人族を見た者によると、外見は岩石を想像させる色合の皮膚で覆われた巨人で、眼球は一つしか存在せず、それでいながら顔の半分近くは存在する巨大な眼らしいのです」

「となると……サイクロプスですね」



レナは街長の話を聞いて魔人族の正体が「サイクロプス」と呼ばれる魔物だと判断し、魔人族の中ではミノタウロスに並ぶ戦闘力を持つといわれている。だが、ここで疑問なのはサイクロプスは基本的には大人しく、滅多な事では人間を襲わない性質を持つ。


サイクロプスは本来は緑豊かな山や森の中で暮らす大人しい生物であり、ミノタウロスのように気性は激しくはなく、基本的には人間に襲い掛かる事はない。但し、一度切れると見境なく暴れ出すため、危険種に指定されている。



「そのサイクロプスが現れたせいで鉱山に入れないんですか?」

「ええ……最初にサイクロプスを発見した鉱夫が馬鹿だったんです。発掘作業中に現れたサイクロプスを恐れて、混乱してサイクロプスに攻撃を仕掛けたのが原因です。運悪く、鉱夫が投げつけた石がサイクロプスの眼に衝突し、その時に怒らせてしまって……」

「なるほど……」



一度頭に血が上ったサイクロプスほど手が付けられない存在はおらず、不用意に手を出してしまった鉱夫のせいでサイクロプスは暴れ狂い、鉱山に赴いていた鉱夫は全員が追い散らされたという。



「幸いにも重傷人は多数出ましたが、死傷者は現れませんでした。黄金級冒険者様に依頼したい事は我々を襲ったサイクロプスを捕獲し、鉱山を取り戻してほしいのです」

「それは構いませんが、どうして討伐ではなく捕獲なのですか?」

「それが……怪我をした鉱夫達がどうしてもサイクロプスに復讐したいといって聞かず、何としても殺さずに捕まえるように申し込んできたのです」

「……なるほど」



レナは街長の言葉を聞いて顔を顰め、要するに鉱夫達が自分を汚させたサイクロプスを許す事が出来ず、自分達の手で復讐を果たしたいという。だが、討伐ならばともかく、捕獲となると仕事の難易度は一気に上がり、レナは仕方なく条件を付けくわえて今回の依頼を引き受けることにした。



「事情は分かりました。ですが、討伐ではなく捕獲の場合だとこちらも色々と準備をしなければなりません。最悪の場合、捕獲が出来ない状況に陥れば討伐の形になります。その時は依頼を不達成という形で処理しますので依頼の報酬は受け取れません」

「いえ、無理を言っている我々の方です。最悪の場合、捕獲が無理ならば討伐でも構いません。その時は私の方から鉱夫には説明しておきますので……」



街長は申し訳なさそうにレナに頭を下げ、彼自身も相当に無茶な依頼を要求している事を自覚している様子だった。レナはそんな街長の姿を見て仕方なく、捕獲の準備を整えてからサイクロプスが住み着いたという鉱山に向かう事にした――





※連載再開!!

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