第697話 絶対に逃がさない
「落ちろ、このクズ野郎!!」
『ッ……!?』
コネコが蹴り込んだ魔石は勢いよく翼を広げて逃げようとするヒトラの背中に放たれ、衝突の寸前に魔石に亀裂が走ると、崩壊して内部から強烈な突風が発生する。
仮に魔石が衝突していればヒトラは取り込んで逆に魔力を吸収していただろう。だが、衝突する寸前に崩壊した事で魔石の内部の風属性の魔力が暴発し、まるで衝撃波のようにヒトラへと襲い掛かった。
『グオオオッ!?』
「今だっ!!ここで奴を倒せっ!!」
「うおおおっ!!」
「秘剣……!!」
「逃すかぁっ!!」
地面に叩きつけられたヒトラの元に全員が向かい、真っ先に飛び込んだのはヒリンだった。彼女は聖属性の魔力を全身から放ちながらヒトラの背中に両足を叩き込む。
「くたばれやぁっ!!」
『グアアッ……!?』
弱点である聖属性の魔力を纏ったヒリンの攻撃にヒトラは悲鳴を上げ、全体の形が大きく崩れ始める。それを見た他の者達も動き出し、続いてシノは妖刀を構えると彼女は同時に切り裂く。
「十字剣!!」
『アアッ……!?』
両手に氷華と炎華を構えたシノは片翼に向けて刃を振り下ろし、全く同時に斬撃を与える。彼女が所持する妖刀は彼女の魔力を吸収して能力を発揮するため、単純な攻撃ではヒトラを傷つけるどころか相手に魔力を奪われてしまう。
しかし、シノは全く同時に斬撃を与える事で刃同士を交わし、火属性と水属性の相反する属性の魔力同士を交わす事で反発作用を引き起こす。結果的にはヒトラの翼に「十」の文字に光り輝く斬撃が生まれ、ヒトラは悲鳴を上げた。
「マドウの仇、生かして帰さん!!」
「これ以上の狼藉は許さんぞ!!」
「貴様だけは逃がさんっ!!」
カイン、ゴロウ、ジオの3人はヒトラの尻尾に向けて同時にランス、大盾、長刀を突き刺す事で切り裂く。切り離された尻尾は瞬時に崩壊して跡形も残らずに消え去り、ヒトラは右の翼と尻尾を失う。
『オノレェッ……チカヅクナァっ!!』
「うおっ!?」
「ぐはっ!?」
「くっ……大人しくしやがれっ!!」
追い詰められたヒトラは無我夢中に身体を震わせ、3人の将軍を吹き飛ばすが、ヒリンは背中から離れずに首元を締め付ける。すぐに他の者達も動き出し、イルミナは自分の杖に取り付けた魔石を取り外すと、先ほどのコネコを見習って投げ込む。
「ファイアボール!!」
『ガハァッ……!?』
「あぢちっ!?気を付けろ、馬鹿っ!!」
「あっ!?す、すいません!?」
火属性の魔石に火球を叩き込む事で爆発させ、ヒトラに損傷を与える事には成功したが、その際に背中に張り付いていたヒリンが文句を告げる。だが、度重なる攻撃でヒトラも肉体を維持できず、徐々に形が崩れていく。
誰の目から見てもヒトラの限界は近く、このままならば倒せるのではないかと思われた時、ヒトラは全体を球体状へと変化させると、背中に張り付いていたヒリンを弾き飛ばす。
「うぎゃっ!?」
「ヒリン!?大丈夫か!?」
「くっ……まだ動くか!?」
巨大な球体に変形したヒトラは身体を回転させ、まるでアルマジロのように逃走を行う。それを確認した者達はヒトラを引き留めようとした時、ドリスが大声を上げる。
「逃がしませんわっ!!」
「うおっ!?」
彼女はルイの魔法によって一時期的に魔力を強化させ、巨大な氷塊の円盤を作り出すとヒトラの進行方向の先へ叩き込む。地面に突き刺さった円盤にヒトラは衝突し、空中へと飛び出す。
空中に飛んだヒトラを確認してレナは見上げると、全ての装備に付与魔法を発動させ、極化現象を引き起こす。身体に身に付けた籠手、闘拳、ブーツが紅色へと変化させると、ヒトラへ向けてレナは飛び込む。
(ここで終わらせる!!)
極化を発動させたレナは全身に魔力を滲ませ、最初に闘拳を叩き込もうとした。だが、球体状の姿に変化していたヒトラは突如として全体を変形させると、無数の触手を生み出してレナに放つ。
『アァアアアアアッ!!』
「うわっ!?」
「レナ君!?」
「まずい、魔力を吸収するつもりか!?」
空中にてレナを捉えたヒトラはもう理性さえも失ったのか大量の触手を生み出し、先端部分を「黒蛇」へと変化させ、他の者にも噛みつかせようとした。
「うおっ!?」
「ま、またかっ!?」
「くそ、近寄んなっ!!」
「レナ君……!!」
空中に囚われたレナを他の仲間達が助ける暇もなく、ヒトラが放つ大量の黒蛇から逃れなければなかった。もしもここで捕まって魔力を奪われればヒトラは復活を果たし、このままでは今までの苦労が水の泡と化す。
これまでの攻防でヒトラ自身も消耗が激しく、多数の黒蛇も作り出したのはいいが移動速度は非常に遅かった。気を付けて対処すれば避けきれないほどではなく、地上の者達は逃げ出す。
「畜生、こいつらが邪魔で兄ちゃんに近付けねえっ!?」
「あわわっ!?来ないでくださいっ!!」
「ヒリン、起きろ!!お前の力で何とかしろ!?」
「ううんっ……も、もう魔力が……」
「くそっ……どうしようも出来ないのか!?」
大量の黒蛇に追い掛け回され、誰もがレナの救出に向かえない。このままではレナの身が危ない事は理解しているが、ここまでの戦闘で全員の疲労も限界まで迎えていた。
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