第692話 ヒトラの危機感
『おの、れぇっ……この、虫けらどもがぁアアアッ!!』
「来るぞ!!全員、覚悟を決めるんだ!!」
ヤマタノオロチが遂に動き出し、八つ首の一つが動き出すと大口を開いてレナ達の元へと向かう。その光景を確認してレナは咄嗟に両手を地面に押し付け、付与魔法を発動させて「土壁」を作り出す。
「
『ガアアアッ!!』
まるで本物の竜種のように鳴き声を放ちながらヤマタノオロチは土壁に喰らいつき、破壊しようとした。レナの付与魔法で作り出した土壁は全体が紅色の魔力で覆われ、ヤマタノオロチは最初にその魔力を吸収しようと試みる。
しかし、ここで異変が発生した。今まではレナの手元から放たれた物体の魔力は闇属性の魔力によって取り込まれたが、今回の場合はヤマタノオロチが喰らいついても土壁から魔力が引き剥がされる様子はなく、それどころか反発するように闇属性の魔力で構成された牙を押し返す。
『グゥウッ……!?』
「な、何だ!?あいつ、ずっと噛みついたまま動かないぞ!?」
「これは……レナ君、何をしたんだ!?」
「あいつが俺の魔力を吸収できないように抵抗してるんです……!!」
レナは土壁に掌を押し付けた状態で魔力を維持させ、奪われようとする魔力を引き留める。その結果、ヤマタノオロチは魔力を奪うどころか重力の力によって引き剥がされ、跳ね返される。
『グアッ!?』
「弾き飛ばした!?」
「そうか……付与魔法、つまり物体に魔力を付与させるという行為は魔力を物体に宿して維持する力を持つ。だからこそ魔力を奪おうとする力にも対抗できるのか……」
「くっ……でも、手元を離れた魔力に関しては俺もどうしようも出来ません」
ルイは付与魔法ならばヤマタノオロチに対抗する力を持つ事を見抜くが、一方でレナの方が現時点では自分の手元に存在する物体しか魔力を留める事が出来ない事を告げる。だからこそ魔銃の類で弾丸を撃ち込んだとしても、レナの元から離れた弾丸の魔力は吸収されてしまう。
牙を弾かれたヤマタノオロチは改めてレナを見下ろし、超越者となったはずの自分に対して対抗するレナに激しい怒りを抱く一方、危機感を抱く。この場の誰よりもレナの事を恐れたヤマタノオロチは今度は三つの首を上空に伸ばし、空から叩き込む。
『オノレェエエエッ!!』
「今度は上から来たぞ!?」
「大丈夫だ、任せろっ!!」
「僕も手伝うよ!!」
空から接近するヤマタノオロチの首に対してシュリが結界魔法陣を発動させ、ルイも咄嗟に補助魔法を発動させて彼女の魔法の強化を行う。上空に魔法陣が展開すると、ヤマタノオロチの攻撃を防ぐ事には成功するが、結界魔法陣は衝突の際に亀裂が広がる。
『オロカモノガァッ……ソンナモノデフセゲルトオモウカァッ!!』
「くぅっ……!?」
「畜生、こいつは結界魔法陣まで取り込むのか!?」
シュリの生成した結界魔法陣にヤマタノオロチの牙が食い込み、徐々に魔法陣に亀裂が広がっていく。その様子を見てブランは結界魔法陣の魔力さえもヤマタノオロチが奪っている事に気付き、このままでは魔法陣が崩壊してレナ達は押しつぶされてしまう。
打開策を考えようにもヤマタノオロチに対抗できる力を持つのはレナだけであり、そのレナも同時に三つのヤマタノオロチの首を相手に対処は出来ない。万事休す化と思われた時、ドリスがある事を思い出したようにレナに語り掛ける。
「そうだ……レナさん、魔法拳ですわ!!魔法拳ならば通じるはずですわ!!」
「魔法拳!?でも、魔法拳を使っても俺だけの力じゃ……」
「いいえ、違いますわ!!私に考えがあります、ミナさん、ナオ!!二人とも集まって!!」
「ぼ、僕!?」
「ドリス、何を思いついたの!?」
ドリスの言葉にレナは驚き、仮にこの状況で魔石を破壊して魔法拳を発動させても三つの首を防ぐ事は出来ない。だが、ドリスは名案が思い付いたとばかりにミナとナオを呼び集め、レナの元に移動する。
彼女は手短に自分の考えを告げると、レナ達は驚いた表情を浮かべたが、他に方法などはなく、試すしかなかった。レナは二人に振り返り、覚悟を決めた様に呟く。
「二人とも……俺の命を預けてくれる?」
「……うん!!レナ君を信じる!!」
「僕達の命、預けます!!」
「お、おい!?お前ら、何か手を考えたのならなら早くしろ!!もう持たねえぞ!!」
「くっ……もう、駄目だ……!?」
シュリの結界魔法陣も限界を迎え、やがて全体に亀裂が走るとヤマタノオロチの三つ首は上空へ移動すると、再び勢いを増した状態で突っ込む。その光景を目にしたレナはヒリンに呼びかける。
「ヒリンさん!!この二人に回復魔法を!!」
「えっ!?」
「いいから早くっ!!」
「え、ええっ!!」
ヒリンはこの状況下でミナとナオに回復魔法を施すように告げたレナに驚くが、彼は慌てて両手を伸ばすと魔法を発動させる。その直後、三つ首が魔法陣に衝突して完全に魔法陣が崩壊した。
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