第686話 爆炎

「ライトニング!!」

「ぬうっ!?」



イルミナが雷属性の砲撃魔法を発動させ、ヒトラが触れる直前で電撃を放ち、彼と水晶の間に電流を放つ。その結果、ヒトラは魔石に触れる事が出来ずに一瞬の隙が生まれると、ミナが抱えていた槍を放つ。



「このぉっ!!」



電撃が消え去る前にミナは槍を投げ放ち、ヒトラの前に突き刺さる。その結果、槍が避雷針の代わりとなって電撃を浴びた瞬間、周囲に放電が迸った。結果としてヒトラの肉体に電流が走り、彼は呻き声を漏らす。


攻撃を受けた影響でヒトラが操る八つの黒蛇の頭も動作が鈍り、その隙を逃さずにレナは先に火竜の尻尾に近付いて出現した巨大な水晶に手を伸ばす。本能的にヒトラにこれを奪われてはまずいと判断したレナは水晶に触れようとした瞬間、尻尾に宿っていた闇属性の魔力が湧き出す。



「馬鹿め……既にそれは私の手中だ!!」

「なっ!?」



切り離された火竜の尻尾にヒトラは既に自分の闇属性の魔力を送り込んでおり、その魔力を利用して彼はレナが水晶に触れる前に九つめの黒蛇を作り出し、水晶に巻き付かせる。そして自分の元に引き寄せ、彼は水晶を手にした。


その瞬間、ヒトラの全身から出現していた黒蛇が全て消え去り、彼の全体が黒色の炎のような物に包み込まれる。そして水晶を抱きしめたヒトラは笑みを浮かべ、水晶から感じ取れる膨大な魔力を我が物にするために力強く抱きしめる。



「はぁあああああっ!!」

「止めろぉっ!?」



咄嗟にレナはヒトラに駆けつけようとしたが、それよりも早くヒトラは水晶を力強く抱きしめると亀裂が発生し、水晶から赤色の光が零れ落ちる。通常、魔石などの魔力を宿した物体を破壊した場合、魔力が暴発して大惨事を引き起こす。


火竜の尻尾から出現したのは恐らくは火竜が生み出す火属性の魔力の源のような代物で間違いなく、分かりやすく言えば火竜の体内で生成された魔石以上に魔力を宿す物体、いうなれば「魔水晶」といえる代物である。その魔水晶を破壊しようとするヒトラにレナは全身に地属性の魔力を纏わせ、ヒトラに組みこうとした。



「もう遅いっ、ここまでだ!!」

「うわぁっ!?」

「レナ君!?」

「危ない、下がって!1」



接近してきたレナに対してヒトラは魔水晶を抱えた状態で無数の黒蛇を作り出し、まるで鞭のようにしならせてレナの身体を吹き飛ばす。飛んできたレナの身体をミナは抱きとめると、イルミナは危険を察して二人を庇う。


もう魔水晶が破壊される事は防ぎきれず、イルミナは魔水晶が破壊されれば魔力の暴発によって周辺一帯が吹き飛ぶと判断し、完全に破壊される前に二人だけも避難させようとする。



「皆さん、私の後ろに下がって下さいましっ!!」

「ドリスさん!?」

「僕達もいるぞっ!!」



上空から声が響くと、いつの間にか氷の翼を背中に生やしたドリスと、彼女の背後に移動する氷塊の円盤に乗り込んだデブリ達が地上に降り立つ。


即座にドリスは全員の前に巨大な氷塊の盾を作り出すと、シノが氷華を突き刺して氷の盾に更に魔力を送り込んで強化を行う。



「はああっ!!」

「くぅっ……もっと魔力を込めて!!」

「盾を支えるぞっ!!」

「はいっ!!」



作り出した氷塊の盾に対してデブリは両腕で押さえつけると、ナオは彼の背中に自分の背中を合わせて踏ん張る体勢を取り、爆発に備える。そして盾越しに遂にヒトラが魔水晶を完全に破壊した瞬間、水晶の内部から強烈な赤色の光が放たれ、周囲に爆炎が広がった。



「うおおおおおおっ!!」

「くぅうっ……あああっ!!」

「くっ……何としても守りますわ」

「頑張って……皆!!」



爆炎を正面から受け止めた氷塊の盾が解け始め、後方へと押し返されていく。だが、氷塊の盾を維持するドリスはありったけの魔力を注ぎ込み、シノも氷華で援護を行う。デブリとナオも力を合わせて盾を踏ん張り、特にデブリは氷の盾を手にした箇所が凍り付いているにも関わらずに話そうとしない。


このままでは両手共に固まって使い物にならなくなるかもしれないが、仲間を助けるためにデブリは構わずに指に力を込めて氷盾を抑えつける。それでも爆炎は収まらず、徐々に氷塊の大盾が傾き始める。



「くそぉおおおっ……負けるかぁあああっ!!」

「ぼ、僕も手伝う!!」

「俺も!!」



デブリとナオだけでは踏ん張り切れず、氷塊の大盾が押し込まれそうになった時、ミナとレナも力を貸す。ミナはシノを支えると、レナは付与魔法を発動させた闘拳と籠手を利用してデブリの隣で抑え込む。


6人が力を合わせて押し寄せる爆炎を防ぐ中、イルミナは防ぎきれるのかと不安を抱く中、彼女の背後から突風が発生する。驚いたイルミナは振り返ると、そこにはブーツに取り付けた風属性の魔石に手を伸ばすコネコの姿が存在し、彼女は最大限の魔力を発揮させると、勢いをつけた状態で氷塊の大盾にドロップキックを食らわせる。



「これでどうだぁあああっ!!」



全員が力を合わせ、迫りくる爆炎から氷塊の大盾を押し返した瞬間、やがて爆炎は途切れて周囲に広がっていた炎も消え去る。その瞬間、全員が力を使い果たしたように地面に倒れ込み、氷塊の大盾は消失した。

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