第664話 ヒトラの目的

「くっ……これ、どういう状況?」

「兄ちゃん、目が覚めたんだな!!」

「良かった!!」

「心配させやがって……いや、今は喜んでる場合じゃない!!」

「デブリ君の言う通りだ、今はここをすぐに離れよう」



オーガを倒したレナにミナとコネコは嬉しそうな表情を浮かべて駆けつけるが、ルイはヒトラの死体の残骸を見て嫌な予感を覚え、すぐにこの場を離れることを提案する。


アルトは自分の前に倒れたオーガに視線を向け、冷や汗を流す。もしもレナが助けなければ死んでいたのは間違いなく、彼はここへきて自分の無力さに嫌気を覚えた。



(何をしているんだ僕は……何の役にも立ってないないか)



レナ達と合流してからアルトは自分が何も役に立てていないという事実に悔しい思いを抱き、自分が足手まといだと自覚したアルトは拳を握りしめる。しかし、そんな彼の苦悩の感情を読み取ったかのように背後から何者かが話しかける。



『自分の無力さに嫌気が差したか?』

「なっ!?誰だ!?」



アルトは驚いて振り返ると、そこにはヒトラの頭が転がっている事に気付き、その光景を見てアルトは動揺する。まさか頭だけの状態で自分に語り掛けたのかと思ったが、現実的にそんな事はあり得るはずがない。


しかし、ヒトラの頭部は明らかにアルトに向けて目線を向け、口元に笑みを浮かべた。その光景を見てアルトは驚愕の表情を浮かべ、同時に危機感を覚えて剣を抜く。



「うわぁあああっ!?」

「なっ……止めるんだっ!?」

「アルト君!?」



剣を抜いたアルトの行動にルイとレナは声を掛けようとしたが、混乱していたアルトはヒトラの頭部に向けて刃を振り下ろし、頭部を切断する。しかも一度ではなく、何度も剣を振ってヒトラの頭を切り刻む。


その光景を見たレナ達はアルトが狂ったように死体に無我夢中に切り刻んでいるようにしか見えず、何人かは彼の凶行に怯えてしまう。やがてアルトは落ち着いたのか肉片と化したヒトラの死骸に視線を向け、涙目で身体を震わせる。



「はあっ……はあっ……ち、違う、皆……今のは違うんだ」

「ち、違うって……何が?」

「アルト王子、落ち着くんだ……まずはその剣を戻せ、ゆっくりと深呼吸するんだ」



ヒトラの血を浴びたアルトを見てコネコは怯えた表情を浮かべ、ルイは彼を落ち着かせようとしたとき、ここでレナは嫌な予感を覚えた。



(なんだ、この感覚……まるで泥が身体にこびり付くような嫌な感じだ)



レナは言いようのない不安を覚え、アルトの背後へと視線を向ける。そして、そこには切り刻んだはずの死骸から滲み出した闇属性の魔力が集まり、やがて人の形へと変化していく。


その光景を目撃したのはレナだけではなく、他の人間も見ていたが、アルトの行動に彼等全員が無意識に距離を取っていた。その行動が仇となり、背後からアルトに近付く「影」に対応が遅れた。



『恐怖したな、アルトよ』

「うわっ!?」

「アルト君!!」

「貴様っ……!?」



人型の姿をした闇属性の魔力の塊はアルトの身体を後ろから抱きしめると、彼が剣を手にしたほうの腕を抑え込み、アルトに囁きかける。その様子を見てレナ達は助けに行こうとしたが、その前に「影」の方が早く行動に移した。



『その恐怖こそがお前の心の闇……さあ、闇に飲まれて楽になるがいい』

「ぐぁああああああっ!?」

「アルト君っ!?」

「アルト王子っ!?」




――ヒトラの姿に変貌した「影」はアルトが握りしめた剣を引き寄せ、彼の心臓へ向けて突き刺す。その瞬間、アルトは口元から血を噴き出し、そしてアルトに抱き着いていた「影」は彼の身体の中に飲み込まれるように消えていく。その光景を確認したレナは反射的に手を伸ばすが、アルトの身体は地面に倒れた。




いったい何が起きているのかは不明だが、倒れたアルトを見てレナは助けに向かおうとしが。だが、すぐにルイはアルトの身体から滲み出す闇属性の魔力の正体に気付き、レナを抱きしめて止める。



「駄目だ、それはもう……ではない!!」

「何を言って……!?」



ルイの言葉にレナは彼女に振り返ろうとした瞬間、アルトの身体から闇属性の魔力が噴き出すと、やがて八つの蛇のような形へと変貌し、部屋の中に存在するレナ達に向けて噛みつこうとしてきた。



「うわっ!?」

「いてっ!?」

「ぐあっ!?」

「きゃあっ!?」

「があっ!?」

「くっ!?」

「なっ!?」



ミナ、コネコ、デブリ、ドリス、シデ、ルイ、レナの順に闇属性の魔力で構成された「黒蛇」は噛みつこうとしたが、レナだけは咄嗟にルイが突き飛ばして自分が2匹分噛まれる。


その光景を目にしたレナは何が起きているのかは分からないが、このままでは危険だと判断し、アルトに向けて左手を構える。それを見たアルトは黒く染まった眼でレナを見下ろし、最後の黒蛇を放つ。



『小僧がっ……』

「っ……衝撃解放インパクト!!」



考えている暇もなく、レナは籠手に魔力を込めると衝撃波と変化させて放つ。その結果、アルトは凄まじい衝撃波を受けて吹き飛び、黒蛇に噛まれていた者達は解放された。

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