第660話 隠れ家
「バジリスクにオーガがこの場所に配置されていたという事は、この先に盗賊ギルドの隠れ家が存在する可能性が高い。というよりも、そう考えるのが妥当だろう。敵としてもこれ以上先には近づけさせたくないからこの危険な魔物達を配置させていたと考えるべきだろう」
「という事は、この先に奴等の本拠地があるわけか!!くそ、今まで散々迷惑を掛けた分、きっちり仕返ししてやる!!」
「待ってください、このまま進むのですか?怪我人もいるんですよ、これ以上は……」
「今更、引き返したところで安全に戻れるとは限らないさ。危険かもしれないが、先へ進もう」
アルトはこのまま先へ行くことに異議を唱えるが、先ほどの相談の時に進むのも戻るのも危険がある事はルイも事前に確認した。アルトの不安も理解できるが、引き返したところで安全に地上まで脱出できる保証はない。
仮に盗賊ギルドの隠れ家に辿り着いたとしても、敵の残存勢力がどの程度の残っているのかは分からない。しかし、地上に大量の昆虫種を放ち、七影であるジャックも自らが動いて出てきた事を考えれば盗賊ギルドの戦力の大部分を地上に投入しているのは間違いなかった。
今の盗賊ギルドの隠れ家には通常時よりも戦力が少ないのは間違いなく、レナの力を借りずにオーガを撃退した面子を確認してルイは勝てる保証があると判断した。彼女はシノに視線を向け、敵の気配を感じたらすぐに知らせるように頼む。
「シノ君、ここからは君が頼りだ。どうか皆を誘導してくれ」
「……分かった。全力を尽くす」
「くっ……」
シノの言葉にルイは頷き、その様子を見てアルトは何か言いたげな表情を浮かべるが、何も口に出来なかった。本来であればこの国の王子であるアルトを連れて盗賊ギルドの隠れ家に向かうなど有り得ない事態だとはルイも理解している。しかし、火竜という脅威が地上に出現した以上はもう何処も安全な場所など存在しない。
盗賊ギルドの隠れ家に辿り着き、そこで七影の長か火竜を操る存在、このどちらかを捕縛すれば今回の事態は解決する事を信じてルイ達は先へと進む。
それから通路を歩き続けて数分後、遂にルイ達は通路の終着点へと辿り着き、彼女達の前には漆黒の扉が存在した。扉の表面には髑髏に蛇が巻き付いた紋様が刻まれ、それを確認したルイはこの先が盗賊ギルドの隠れ家に通じていると確信した。
「……皆、覚悟はいいか?」
「問題ない」
「お、おう……大丈夫だ」
「緊張しますわ……」
「この先に黒幕がいるんだよね……」
「兄ちゃんやあたしらをこんな目に遭わせた張本人とやっと会えるのか……」
「ううっ……腹が痛くなってきた」
「…………」
ルイの言葉にデブリ達は緊張しながらも覚悟を抱き、シデとアルトは顔色を青くするが、ここまで来た以上は引き返せない。シノがゆっくりと扉の取っ手を掴み、罠がない事を確認するとゆっくりと押し開く。
――扉の先に広がっていた光景は大きな広間が存在し、広間の中心には円卓と七つの椅子が存在した。そして一つだけ黒塗りされた椅子の上に座り込む老人の姿を確認すると、コネコ達は息を飲む。
その老人はかつて廃墟街にてレナとコネコとミナが遭遇した老人で間違いなく、先ほど黒兜をケルベロスへと変貌させ、地上に大きな被害を与えた老人で間違いなかった。その姿を見てルイは無意識にマドウから教えられていた七影の長の名前を告げる。
「……ヒトラ」
「ほう……儂の名前を知っているか、そうかお主がマドウの弟子か」
「ええ、昔はあの方に教えを受けていた時期もありました」
「ルイ、さん?」
ヒトラと呼ばれた事を否定しなかった老人を見てルイは彼がマドウの推測が当たっていた事を悟り、彼が先々代の国王の実の兄であるヒトラだと確信を抱く。一方でヒトラの方はルイ達に顔を向けず、机の上に置かれている王都の地図に視線を向けていた。
地図上には白と黒のチェスの駒が置かれており、王城には白のキングの駒が置かれていた。一方でヒトラの手には黒のキングの駒が握りしめられ、彼は自分の持っていたキングの駒を机の上に置くと、王城に立っていたキングの駒を指先に触れる。
「来るのが少々遅かったな……もう、この国の王の命は尽きる」
「なっ!?貴様、何を言っている!!」
「落ち着くんだアルト王子!!挑発に乗るな!!」
王城のキングの駒に人差し指を押し当てるヒトラの姿を見てアルトは激高するが、それをルイが抑え込む。一方でヒトラは彼に顔を向け、ぽつりと呟く。
「似ているな、弟に……流石は子孫と言ったところか」
「何を言って……」
「アルトよ、ここへお前が来たのは偶然ではない。そうなるように儂が仕向けたのだ」
「なっ!?」
ヒトラの言葉にアルトは目を見開き、他の者達も驚愕の表情を浮かべるが、すぐにルイが否定を行う。
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