第659話 逃げられないのなら……
――オォオオオオッ!!
通路内にオーガの咆哮が響き渡り、前方を走るルイ達の鼓膜に尋常ではない刺激を与える。補助魔法の強化で全員の身体能力が上昇したとはいえ、このままでは追いつかれるのも時間の問題だった。
だが、ここで一番後ろを走っていたデブリが立ち止まると、彼は振り返ってオーガと向き合う。全員を先に逃がすため、彼はオーガへと立ち向かう。
「皆、逃げろっ!!僕がこいつを抑える!!」
「あんちゃん!?」
「無茶だ、デブリ君!!」
「殺されるぞ!?」
デブリは両腕を広げると、正面から迫るオーガと向き合う。一方でオーガは追いかけていた獲物の中で特に大きく、肉が付いているデブリが立ち止まったのを確認すると、足を止めて向き合う。
オーガの迫力にデブリは圧倒されそうになるが、それでも彼もここまでに様々な強敵と相対しており、気合の雄たけびを上げてオーガに突進した。
「どすこぉいっ!!」
「ウガァッ……!?」
正面から迫ってきたデブリに対して拳を固めたオーガはかれの頭部を狙うが、普通の人間ならば頭蓋骨が粉砕どころか頭部が砕け散ってもおかしくはないほどの勢いで殴りつけたにも関わらず、デブリの石頭によって逆に弾かれてしまう。
「うおおおっ!!」
「ガハァッ!?」
「す、すげぇっ!?」
「そうか、補助魔法でデブリ君の肉体は既に……!!」
元々肉体の頑丈さと腕力に関してはレナ達の中でも一番を誇ったデブリだが、更にルイの補助魔法の効果で限界以上に強化され、驚くべき事にオーガの拳を頭で弾いて強烈な突っ張りを食らわせる。
人間とは思えぬほどの強烈な一撃にオーガは後退し、叩かれた胸元を抑える。先ほどのドリスの
「そうだ、オーガは血液を凝固する事で傷口を塞ぐ能力はあるが、だからといって怪我が治ったわけじゃない!!先ほどのドリス君の攻撃で傷ついた箇所を狙えば倒せる!!」
「やっちまえあんちゃん!!」
「おっしゃあっ!!」
「ガアッ……!?」
連続でデブリは突っ張りを繰り出すと、オーガは明らかに傷口の攻撃を嫌がるように両腕を重ねて攻撃を防ぐ。残念ながら現在のデブリの攻撃力でも傷口以外の箇所の攻撃は損傷はあまり与えられないようだが、オーガに隙を作り出す事には成功した。
逃げる事だけに集中していた他の仲間達も今が好機だと判断すると、シノとコネコは真っ先に駆けつけ、二人はデブリの援護を行うために壁を駆け抜けて左右から攻撃を仕掛ける。
「乱切り!!」
「連脚!!」
「グアッ!?」
シノは両手の妖刀でオーガの身体を切り刻み、流石に妖刀の切れ味ならば鋼鉄のような皮膚も切り裂けるらしく、しかも傷口から発火と凍結を引き起こす。更にコネコは空中で残像が生み出す程の速度で蹴り込み、まるで彼女の脚が何本も生えたかのようにオーガの顔面を踏みつける。
二人ともデブリと同様に補助魔法の効果を受けて身体能力が強化されているため、通常時よりも強化された攻撃が出来る。さらにミナもコネコが手放した槍を手に取ると、アルトも剣を引き抜いて向かう。
「シデ君、お願い!!」
「頼んだ!!」
「え、ちょっ……うおおっ!?」
駆け出す前に二人は背中に担いでいたレナとドリスをシデに任せると、並走してオーガの元へと向かい、剣と槍を同時に突き出す。
「「刺突」」
「ギャアアアッ!?」
オーガの顔面に剣と槍の刃が突き出され、両目を貫通して視界を奪う。目の前が暗くなったオーガは顔面を手で抑えた瞬間、デブリはオーガの巨体を掴んで渾身の力を込めて壁へと叩きつける。
「どすこいっ!!」
「ガハァッ!?」
「もう一丁!!」
「ウガァッ!?」
壁にオーガの頭部を衝突させた後、今度は反対の壁に連続で頭を叩き込み、確実に止めを刺すためにデブリは抱きしめると、最後は天井に向けて突っ込む。
デブリが渾身の力を込めて天井に叩き込んだ結果、オーガは頭部が天井に埋もれた状態で動かなくなり、やがて重力によって天井から頭が抜け落ちると力なく地面に倒れ込む。
「や、やったのか!?」
「いや……多分、気絶しただけだ」
「ここまでやったのに!?」
「それだけ侮れない相手という事さ……だが、皆よくやった。これでもうしばらくの間は大丈夫だろう」
ルイは額の汗を拭い、完全に気絶したオーガを見て安堵した。この状態ならばオーガが目を覚ますには時間が掛かると思われ、仮に意識を取り戻しても視界が封じられた状態では脅威は半減する。
出来る事ならばもう二度と会いたくはない敵だが、現在の皆の状態では止めを刺すのは難しく、気絶している隙に先に進む事をルイは提案した。
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