第649話 七影の長の正体とは……

「……生きていたというのか、奴は……いや、あの御方は」

「大魔導士!?どういう意味だ!?」

「あの御方……!?七影の長を御存じなのですか!?」



盗賊ギルドの頂点に立つ七影の長の正体を見抜いたマドウは冷や汗を流し、彼の反応に気づいたカインとイルミナは動揺した声を上げる。


一方でジャックの方も隠すつもりはなく、どうせ隠し立てしたところでいずれ正体は明かされるため、マドウの口から七影の長の名前を促す。



『名前を知っているのであれば口にするといい……さあ、答えろ』

「……先々代の国王の兄君、ヒトラ様か」

「ヒトラ……!?」

「そ、そんな馬鹿な……まだご存命だったのですか!?」




――100年以上も前、ヒトノ国では二人の王子が王位を争い、結果的には弟が継承戦に勝利して王位に就いた。その後、兄である「ヒトラ」は姿を消し、後に盗賊ギルドの礎となった組織を作り出した。


当時の盗賊ギルドはまだ「盗賊ギルド」などという不名誉な名前は存在せず、国の陰から支える組織として活躍していた。世間では彼等の事を「義賊」と称し、人気もあったという。


だが、ヒトラが組織を立ち上げてから50年ほど経過すると、彼は死亡したという噂が流れる。それ以降、組織は裏社会を支配するようになり、最初はヒトノ国を支えるために作り上げられた組織がいつの間にかヒトノ国と敵対してしまう間柄になったと伝えられていた。




しかし、現実は違い、盗賊ギルドの創始者であるヒトラはまだ存命し、盗賊ギルドがヒトノ国と対立するようになったのは彼の意思である事をマドウは見抜く。



「儂はヒトラ様とは面識はないが、先々代の国王様から話はよく聞いておる。聡明で自分よりも王者として相応しい御方だったと……だから儂も信じていた。いや、信じようと思っていた……しかし、やはりあの御方が諸悪の根源であったのか」

『ふんっ……あの御方の兄は確かに素晴らしい君主だった。しかし、同時に優しすぎた。本来ならば継承戦で敗れた王族を放置するなど有り得ない話だ。幽閉するか、あるいは人質として他国に送り込めば良かったものを……だが、そのお陰であの御方はもう一度この国を支配する権利を得られた』

「何を馬鹿な事を……仮にヒトラ様が生きていたとしても、年齢的に考えてもこの国を継承できるはずがない!!」



ジャックの言葉にカインは即座に否定し、実際にヒトラが生きているのが真実だとしても、既に100歳以上の年齢に達している。そんな年齢で王位に就こうとしたところで臣下が納得できるはずがない。


だが、カインの言葉に対してジャックは余裕の態度を貫き、確かに今の年齢でヒトラが王位を継ぐのは普通ならば無理がある。順当にいけば次の王位継承者は年齢も若く、現在の国王の息子のアルトである事は揺るぎない事実だった。



『確かにあの御方が王位を継ぐのは簡単な事ではない。しかし、こう考えたらどうだ?この国を告げる王族があの御方を除いていなくなれば、誰もあの御方が王位を継承する事を止める事は出来ないだろう?』

「なっ!?貴様、国王様とアルト王子の命を……!!」

「愚かな事を……そこまで王位に執着するか!!」

『貴様ら如きにあの御方の苦しみは理解できまい……100年だぞ?100年以上もあの御方が耐え続けてきた。この国の王として輝かしい人生を生きるはずだったはずが、日陰者として生き続けなければならぬ運命を強いられた。その気持ちがお前ら如きに分かるまい。なあ、マドウよ?』

「ジャック、貴様……!?」



ジャックの様子がおかしい事に気づいたマドウは目を見開き、すぐに理由を悟る。恐らく、現在のジャックは操られており、都市の何処かに存在するヒトラが自分の死霊人形であるジャックを通して話しかけている事に気づく。



「ヒトラ様、まさか貴方の仕業か?」

『気づいたか、マドウよ。人形越しとはいえ、こうしてお前と相対するのは初めてだな』

「ひ、ヒトラだと……!?」

「まさか……本当に生きていらしたのですか?」

『驚くのも無理はない。普通ならば当に死んでいる年齢だからな……だが、実際に儂はこうして命を繋ぎとめている。お主等は知っておるか?死霊魔術師は命を操る事が出来る……ならば自分の命を操る事も出来るのではないか、そう考えた私は見事に天上に導かれる自分の魂をも封じる事に成功した』

「馬鹿なっ……!!」



ヒトラはジャックを通して自分はどのように100年以上の時を生き永らえる事が出来たのかを話す。死霊魔術を極めたヒトラは自身の命さえも操り、寿命さえも伸ばす力を手に入れたという。


マドウは本当に盗賊ギルドを立ち上げたヒトラが生きており、そして現在のヒトノ国を陥れようとしている事実を知って怒りと悲しみを抱く。実際に顔を合わせた事はないが、それでも彼は先々代の国王からヒトラが立派な人物だと言われ、心の何処かで彼がこのような愚行を犯すはずがないと信じたかった。だが、その儚い希望は消えた。

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