第648話 支配者となり得る権利
「ジャック、お主の目的は儂に最上級魔法を発動させぬために自らを犠牲にしてまで訪れたのだろう。違うか?」
「…………」
「その沈黙は肯定と受け取るぞ。なるほど、確かにお主を倒すには儂も相応の魔法を発動しなければならん。しかし、それをすれば儂は最上級魔法に必要な魔力を失ってしまう……敵ながら主君のために命を捨てる、か。大した忠義心じゃのう」
「フンッ……」
マドウの予想は図星だったらしく、ジャックは戦闘態勢を解除すると黙って向かい合う。その様子を見たカインとイルミナはジャックの目的が自身を犠牲にしてまでマドウの魔力を消耗させるため、一人で戦闘を挑んだことを悟り、驚きを隠せない。
ジャックは数十年以上も盗賊ギルドの七影の長に仕え、彼のためならば自分の命さえも差し出す。シノとの戦闘で命を失いかけていた彼を死霊人形へと変貌させたのも七影の長であり、彼は人間に戻れない事を承知で自身を「
自分が化物へと変貌した事にジャックは後悔はなく、七影の長の命令を受けて彼はマドウの暗殺を試みる。仮にマドウを殺せずとも、魔力を消耗させれば結果は上々であり、最上級魔法を発動できないほどに彼を消耗させるだけで十分な役目を果たせるはずだった。
「ジャックよ、いくらお主が主人のために忠義を尽くして戦おうと、儂は最上級魔法を必ず発動させ、火竜を道連れにして見せよう。それが大魔導士としての儂の役目、この国を守る家臣の責務じゃ」
「ナルホド……ダガ、オマエニカリュウヲタオセルチカラハ、ノコッテイルノカ?」
「必ず倒す。例え、この命が引きかえになろうとな……」
「……ナラバ、セイゼイアガケ」
ジャックはマドウの意思が固いことを知ると、彼はこのまま戦っても無駄死になると判断して退散する事にした。その場を立ち去ろうとするジャックに対し、マドウはどうしても盗賊ギルドの目的を問うために引き留める。
「待て!!ジャックよ、お主の主人は何を考えている!!この王都を殲滅したとしても、この国を支配できると思っているのか!?」
『……支配する、だと?何を勘違いしている?』
「なっ!?」
「声が……」
先ほどまでとは異なり、ジャックの声が変化した事にカインとイルミナは戸惑う。一方でジャックの方は自身の肉体に視線を向け、大分身体が馴染んできたことを察する。
全身から闇属性の魔力を迸らせながらもジャックはマドウに振り返り、これが最後の彼との会話になると判断したジャックは自分達の目的を話す。
『敵同士とはいえ、お前とは長い付き合いだったな、マドウ……いいだろう、ならば答えてやる。そもそもお前達は勘違いしている……この国の王となれる資格を持つのは一人だけではない!!』
「何だと!?」
「貴様、何を言っている!?」
ジャックの発言にマドウとカインは反応し、一方でイルミナは疑問を抱く。ジャックはそんな3人の反応を見て余裕の笑みを浮かべ、天を指差す。
『忘れたわけではあるまい、盗賊ギルドはこの国を影から支えてきた存在……コインの表と裏のような関係だ。この国が国家として成り立っているのは盗賊ギルドが裏から支援してきたからだ!!だが、そのコインを裏返したらどうなる?そう、今度は我々がこの国を管理する立場に立つべきだ!!』
「何を訳の分からんことを……貴様等の害虫にこの国を支配できるはずがない!!盗賊ギルドが仮にヒトノ国が作り出した存在だろうと、お前達はもう必要はない!!この国の敵だ!!」
『ふん、散々使いまわした挙句に我々を犯罪者として見捨てるつもりか?』
「黙れ!!貴様等の仕出かした行為を思い返してみろ!!貴様等を野放しにしたせいでこんな結果になってしまった!!お前達はこの国の害だ、同情の余地などないわ!!」
カインは昆虫種やケルベロスによって破壊された城下町の様子を振り返り、こんな非道な真似を実行する盗賊ギルドを許せるはずがない。いくら盗賊ギルドを作り出したのがヒトノ国だとしても、現在の盗賊ギルドは明確にヒトノ国に対して敵対していた。
盗賊ギルドの存在があったからこそヒトノ国は国家として成長したのも事実だが、その反面に盗賊ギルドの存在によって国家は何度も危機に瀕したのも事実である。最初に盗賊ギルドが作り出された頃は義賊として取り扱われていたが、盗賊ギルドの長が代わってからは方針が変更し、もう盗賊ギルドは国の害悪でしかない。
「お前達はもう義賊ではない、ただの害虫となり下がった!!」
『害虫と来たか……確かにお前のような若造には我々の行動など理解できないだろう。だが、マドウよ……お前ならもう気づいているはずだ。あの御方の存在も知っているはずのお前ならば……俺の言っている言葉の意味が分かるな?』
「…………」
「マドウ大魔導士?」
ジャックの言葉にマドウは表情を険しくさせ、彼の言葉からやはり自分の最悪な予想は当たっていたことを悟る。まさかとは思っていたが、盗賊ギルドの長の正体を予測していたマドウはゆっくりと口を開く。
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