第610話 思いもよらぬ再戦
「一先ずは工場区へ向かいましょう!!この事をすぐにレナさんに知らせないと……あ、でも冒険者ギルドへの報告はどうすれば!?」
ドリスがクランハウスを離れたのは冒険者ギルドへ城下町に昆虫種の大群が乗り込んできことを報告し、ギルド側はどのうように対処しているのかを確かめるためだが、シデから話を聞かされた以上はレナの身が危ないと知って放置は出来ない。
冒険者ギルドへ向かうべきか、レナの救援のために工場区へ向かうかを悩んでいると、そんな彼女を見てチョウが声をかける。
「ドリスさん、それならおらが冒険者ギルドへ向かうべ。ギルドの人たちに今の状況を教えればいいんだな?」
「それは本当ですの!?あ、でもチョウ君を一人で行かせるわけには……」
「大丈夫だ、おらはこう見えても魔術師だべ?そう簡単に魔物にはやられないっぺ!!」
「そ、そうでしたわね……では、チョウ君にお任せしてもよろしいですか?」
「んだっ!!友達が困ってるならいくらでも力を貸すべっ!!」
チョウの言葉にドリスは申し訳なさそうな表情を浮かべると、彼は自分に任せろとばかりに頷く。チョウは魔法科の生徒の中でも優秀でサブの弟子達が訪れる前は学内でも5本指には入る生徒だった。
まだ子供ながらに中級の砲撃魔法の扱えるため、仮に昆虫種に襲われたとしてもチョウならば十分に撃退出来る力を持っている。ドリスは金色の隼に所属する団員のみが所持を許された腕輪を渡す。
「チョウ君、これを持っていけば冒険者ギルドの人たちも話を聞いてくれると思いますわ。金色の隼の副団長のイルミナさんの代理として訪れたと言えばきっと通じますわ」
「お、おう。分かったべ、でも後でドリスさんも必ず来てくれるか?」
「はい、すぐに向かいますわ!!」
「話は終わったか!?なら、これも持っていけ!!そいつを持っていれば虫共はおそってこないはずだ!!」
「あ、ありがとう……じゃあ、行ってくる!1」
ドリスが腕輪を渡すと、シデは掌に収まる程の小袋を取り出してチョウに渡す。この小袋こそが「香り袋」と呼ばれる昆虫種が苦手とする香りを放ち、昆虫種を近づけさせない効果を持っていた。
チョウは二人から腕輪と小袋を受け取ると、冒険者ギルドが存在する方角へと駆け出す。その様子を見送ったドリスはシデに振り返って頷き、工場区の方へ向かおうとする。
「では、私達も行きましょう!!」
「ああっ……待てっ!?何か来るぞ!?」
「えっ……きゃあっ!?」
駆け出そうとしたドリスに対してシデは咄嗟に彼女の服の裾を掴んで引き寄せると、ドリスが先ほどまで立っていた場所に「黒炎」が降ってきた。危うく直撃していればドリスの身体は焼き尽くされていたのは間違いなく、彼女は上空から落ちてきた黒炎を見て目を見開く。
彼女の知る人物の中で黒色の炎を操作できる人物は一人しか存在せず、ある意味ではドリスにとっても因縁深い相手であった。やがて街道の方から頭から血を流す一人の青年が現れると、その姿を見たドリスは驚愕の声を上げる。
「ぶ、ブラン……さん!?」
「ちっ……やっぱりお前だったか」
「ブラン……!!」
姿を現したのはたった一人だけ工場区に存在する飛行船に抜け出したブランであり、彼はシデとドリスの姿を確認すると歯を食いしばる。
先ほどの攻撃を行ったのはブランである事に気づいたドリスは慌てて身構えるが、シデの方は冷や汗が止まらない。彼にとってはサブの直弟子であるブランは今までは羨望と嫉妬の対象だった。だが、今はサブの次に相対したくない「敵」であった。
「シデ……お前、こんな所で何をしてやがる?師匠の命令を受けていないのか?ああっ!?」
「くっ……」
「ブランさん……話は全て伺いました。本当にサブ魔導士は盗賊ギルドに加担してこのような騒ぎを起こしたのですか!?」
「ちっ……余計なことを」
ドリスの言葉にブランはシデを睨みつけ、その態度を確認したドリスはシデの話が事実であり、そしてブランは明確にサブの味方である事を知る。彼女は両手を構えると、ブランもドリスと向き合う。
「まあ、いいだろう。そういえばお前との決着がまだだったな……この際、どちらが優れた初級魔術師なのか決めるか!?」
「ブランさん、お辞めなさいっ!!」
「うるせえっ!!行くぞ、金髪女!!」
「うおっ!?」
ブランは両手を構えると「黒炎」を生み出し、それを目撃したドリスは仕方なく自分も合成魔術を発動させる。互いに火炎放射器のように炎を放つ二人を見てシデは慌てて巻き込まれないように距離を開く。
恐らくは闇属性と火属性の合成魔術だと思われる「黒炎」を放つブランに対し、ドリスの場合は風属性と火属性の合成魔術の「火炎槍」で対抗を行う。だが、ブランと初めて戦った時のように単純な火力はブランの黒炎が勝り、徐々にドリスの火炎を押し退けて黒炎が迫る。
※こ、こいつ……チョウ君がいなくなった途端に出てきたぞ!!隠れて見てたんだな!!チョウ君がそんなに怖いのか(; ゚Д゚)
|д゚)←チョウがいなくなるまで覗き見していたブラン
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