第611話 黒炎の魔術師
「どうした、どうした!?お前の力はその程度か!!」
「くぅうっ……!?」
「くそっ……調子に乗るなよ!!」
「おっと、お前は後だ!!」
押されているドリスを見てシデはブランに杖を構えるが、それを見たブランは片手を伸ばして黒炎の塊を放つ。それを確認したシデは慌てて身を翻すが、ブランの放った黒炎は途中で降下して地面に衝突すると、広範囲に黒炎が燃え広がった。
シデは炎によって遮られてしまい、これではドリスの援護もブランへの攻撃も出来なかった。彼が得意とするのは火属性の魔法のため、今回は火属性の魔石しか用意してこなかった事が仇となり、仮に黒炎に対してシデが魔法を撃ち込んでも効果は薄い。
「お前はそこで大人しく見ていろ……さあ、これで終わりだ!!」
「くううっ……!!」
ドリスは徐々に黒炎に自分の火炎が押し込まれている事は理解していたが、どうして組み合わせている属性は違えど、ここまで火力に違いがあるのか疑問を抱く。
ブランが発動させている黒炎は闇属性と火属性の魔法の組み合わせだと思っていたが、ここでドリスはある事に気づく。
(まさか……3つの属性を同時に組み合わせている!?)
黒炎の威力の異常さに気づいたドリスは思考した結果、ブランが闇属性と火属性だけではなく、風属性の力も取り込んでいるのではないかと考える。それならば双方の合成魔術の威力に大きな差があるのも納得できた。
合成魔術は組み合わせる属性が多くなるほど取り扱うのは難しいが、その反面に威力や効果に関しても高くなっていく。ブランの黒炎がドリスの火炎を上回るのは3つの属性を組み合わせた合成魔術である事が判明し、ドリスはこのままでは自分に勝ち目がない事を悟る。
(このままでは押し切られますわ……どうにかしないと!!)
ドリスは両手で合成魔術を維持しながらも反撃の手段を考え、ある事を思いつく。はっきり言ってしまえば普通の魔術師ならば考えつかない方法だが、手段を選ぶ暇はなく、ドリスは合成魔術を解除した。
「なっ!?諦めたかっ!!」
「くっ……はああっ!!」
黒炎を抑えつけていた火炎槍が消えた事でブランは驚くが、黒炎が自身の身体を飲み込む前にドリスは両手を下に構え、魔力を集中させて「風圧」を発動させる。その結果、彼女の身体が大きく浮き上がると正面から接近する黒炎を回避した。
「馬鹿なっ!?」
「やああっ!!」
自分の生み出した黒炎を上空に逃げる事で回避したドリスを見てブランは焦り、その一方でドリスは背中に「氷翼」を発動させると、空中を旋回してブランの様子を見降ろす。
ブランは空を飛ぶドリスを見て驚き、彼は舌打ちしながらも地上から黒炎を放って狙い撃ちを行う。但し、空を飛ぶドリスは巧みに翼を操作して彼の攻撃を回避し続ける。
「くそっ!!黒炎流槍!!」
「当たりませんわっ!!」
次々と地上から放たれる黒炎の槍に対してドリスは本物の鳥の様に軽快に空を飛び、回避を行う。両手で風圧の魔法を発動させる事で速度の加速や減速を行い、背中の羽根でバランスを調整する。それを見たブランは自分には到底真似できない方法で空を飛ぶ彼女に嫉妬に近い感情を抱く。
「畜生、降りてきやがれ!!この臆病者!!」
「あら、私が臆病者ならば貴方は何ですの!?何も悪いことをしていない人々をこんなに苦しめて……貴方に正義はないんですか!?」
「だ、黙れ!!」
ドリスの言葉にブランは明らかに動揺を示し、彼としても現在の状況は快く思ってはいない。別にブランは根っからの悪人ではなく、あくまでも彼は師の指示に従っているだけに過ぎなかった。
しかし、いくら命令されたとはいえ、ブラン自身も現在の自分の行動が本当に正しい事ではないのは理解していた。昆虫種に襲われる人々、燃え盛る建物、そして数時間後には火竜が王都へ襲来するという事実にブラン自身も良心の呵責に苛まれていた。
それでもここまで来た以上は退く事は出来ず、彼はドリスを確実に仕留めるために両手を重ね合わせ、大規模の黒炎を放つ準備を行う。
「くたばれっ!!」
「……その攻撃を待っていましたわ!!」
広範囲に黒炎を放とうとするブランに対し、それを見たドリスは両手を重ね合わせると、氷塊の魔法を発動させる。
(規模を小さくすることで密度を高める……レナさんの持つ弾丸のように強力な一撃を!!)
3つの属性を組み合わせた合成魔術であろうと、攻撃の範囲を広げれば当然だが威力も落ちるのは免れない。それを利用してドリスは通常よりも魔力を注ぎ込み、高密度の水属性の魔力を付加させた氷の弾丸を作り出すと、迫りくる黒炎に放つ。
失敗すれば彼女は黒焦げになる事は間違いないが、どうせ逃げる事は出来ず、それならば最後まで戦う事を決めたドリスはレナが扱う魔銃の事を思い浮かべながら魔法を放つ。
「
「なっ……!?」
ドリスが放った氷塊の弾丸はブランの生み出した黒炎に突っ込み、そのまま炎を掻き分けてブランの元へと迫り、彼の右肩に的中した。
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