第598話 城下町の混乱

「せりゃあっ!!」

「ギィアッ!?」



ミナが投擲したヤリは「カマギリ」の頭部を貫通し、一撃で絶命させる事に成功する。それを見ていた母子は茫然とした表情を浮かべるが、そこで金色の隼の冒険者達の存在に気づく。



「ぼ、冒険者だ!!冒険者がいるぞ!!」

「頼む、助けてくれ!!」

「子供が、子供があの化物に……!!」

「お、おい……落ち着けって、あたし達が何とかするからさ!!」



クランハウスの前に大勢の人間が集まり、冒険者達に助けを乞う。そんな彼等にコネコは落ち着かせようと声をかけると、その間にも複数の昆虫種が出現した。


ミナが倒した個体以外にも数匹のカマギリが建物の屋根の上から飛び降りると、人間が多く集まっている場所へと向かう。その様子を見て咄嗟にドリスはクランハウスの前に集まった住民たちを守るため、彼女は初級魔法を発動させる。



「皆さん、落ち着いて!!ここは私達に任せてくださいましっ!!」

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

『ギチギチギチッ!!』



両手に円盤状の氷塊を作り出したドリスは腕を振り払うと、接近してくるカマギリの集団へと放つ。ドリスが得意とする「回転氷刃」は円盤の周端を尖らせ、丸鋸のように高速回転を加えて攻撃を行う。


高速回転した氷の刃はカマギリの頭部や胴体を切り裂き、カマギリ達は悲鳴を上げて倒れ込む。裏街区ではレイナ達を追い詰めた存在だが、ドリスの合成魔術ならば遠距離からの攻撃も可能とするため、彼女は住民を守りながら戦った。



――ギチギチギチッ……!!



しかし、ドリスが応戦している間にも街のあちこちの建物の宿からカマギリが出現し、更にカマギリ以外の昆虫種らしき魔物も存在した。その中には黒蜘蛛ブラックスパイダーも存在し、他にも人間程の大きさの巨大な蜂の姿も見えた。



「くっ……な、何なんだこいつら!?いくら倒しても出てきやがるぞ!?」

「いったい何がどうなってる……おい、誰かイルミナさんに報告しろ!!」

「あたし達もドリスの姉ちゃんを援護するぞ!!」

「くそう、腹が減ってるときに……どすこいっ!!」

「はああっ!!」



住民を守るために金色の隼の冒険者達は奮闘するが、倒しても倒しても次々と新手の昆虫種が出現し、切りがなかった。いったい城下町で何が起きているのかを確かめる余裕もなく、コネコ達は昆虫種の大群と戦闘に突入する。


まずは街の住民を避難させるためにクランハウスの中へと移動させ、冒険者達は住民を守りながら昆虫種の対応を行う。その際にコネコはバトルブーツを使用して空を駆け抜け、周囲の状況尾を伺う。



(いったい何が起きてるんだ……!?)



コネコの視界には城下町の至る箇所で煙が舞い上がり、複数の建物に火が回っている事に気づく。何処の街道にも逃げ惑う人々の姿が確認され、更に恐るべき数の魔物が街中に侵入していた。


ほんの30分前までは平和な街並みだったのに今現在では阿鼻叫喚の渦と化した風景にコネコは動揺を隠せず、屋根の上に飛び乗ってこの大量の昆虫種が何処から現れたのかと確認する。



(こいつら、何処から入ってきたんだ!?王都の警備兵の奴等は何をしてんだよ……あっ!?)



偶然にもコネコは路地裏に視線を見下ろすと、そこには大きな穴が存在する事に気づき、穴の中から昆虫種が出現する光景を確認した。それを見たコネコはすぐに昆虫種が下水道を通じて城下町に入り込んだことを見抜く。



「皆!!こいつら、下水道から這い出てきてるんだ!!穴を塞がないといくらでも出現するぞ!!」

「下水道!?くそ、そんな場所から来てたのか!?」

「穴を塞げと言っても……いったいどうすればいいの!?」

「ドリスの魔法で封じられないの!?」

「駄目ですわ、私の氷塊の魔法は長持ちしません!!氷で塞いだとしても、時間が経過すれば消えてなくなってしまいますわ!?」



コネコの話を聞いた仲間達はどうにか昆虫種の侵入を食い止められないのかを話し合うが、穴を塞いだところで下水道に通じる場所はいくらでも存在するため、仮に穴を塞ぐ方法があっても全ての穴を封じる事は不可能に等しい。


下水道から昆虫種が出現する事見抜いても対処法がなければ意味はなく、戦っている間にも昆虫種の数が増していく。どうやら仲間の血の臭いに反応しているのか倒してもいくらでも新手が出現し、徐々に追い詰められていく。



「火炎槍!!螺旋氷弾!!くっ……流石に魔力がきついですわ。仕方ありません、こうなったあれを……」

「ドリス、危ない!?」

「キキィイイイッ!!」



ドリスは魔丸薬を取り出し、口元に運ぼうとしたとき、一瞬の隙を突いて空中から巨大蜂が接近した。彼女の危機を知ってナオがドリスを庇うために抱き着く。



「きゃあっ!?」

「ぐあっ!?」

「ナオの姉ちゃん!?くそ、よくも姉ちゃんをっ!!」

「キィイッ!?」



巨大蜂が突き刺してきた針がナオの背中を抉り、ナオはドリスを抱えた状態で倒れ込む。その様子を見たコネコは即座に巨大蜂を蹴りつけて吹き飛ばすと、ナオの元に皆が集まる。

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