第595話 救助

「レナの闘拳……この近くにいる!!」

『何処だ!!何処にいる、返事を知ろ坊主!!』

「レナ!!」

「坊主!!」

「レナ……!!」

「ウォンッ!!」



大樽の下から現れた闘拳を見てシノとカツ、更にムクチ達も交じって全員が周囲の捜索を行う中、クロが何かを見つけたの鳴き声を上げる。二人は視線を向けると、そこにはレナの籠手を口に咥える姿のクロが存在した。


間違いなくこの近くにレナがいる事を察すると、全員が協力して探し出す。荷材を掻き分け、必死に呼びかけながら捜索を行う。



「レナ、返事をして……レナ!!」

「くそ、何処にいるんだ!!」

「ウォンッ!!」

『坊主、生きてんのか!?生きてるなら返事をしろ!!』

「……そこだ!!その木箱の下から魔力を感じる!!」



ゴロウの治療を行いながらもルイは魔力感知を発動させ、レナの居場所を探すと彼女は先ほどの天井が崩壊した時に瓦礫に挟まった木箱を指差す。すぐにカツとジオが二人で瓦礫を持ち上げ、木箱を持ち上げてレナの姿を探す。



「同時に持ち上げるぞ!!」

『おしっ!!いっせぇのっ……せいっ!!』

「レナ!!」

「うっ……」



瓦礫を退かして木箱を払いのけると、下の方から意識を失ったレナの姿が確認できた。身体の方を確認すると皮膚が所々火傷を負っているが命に別状はなく、その姿を確認したシノは安堵した。


どうやら魔法耐性も高い「退魔のローブ」を装備していたお陰で一命をとりとめたらしく、どうやら闘拳と籠手に咄嗟に付与魔法を施してサブの魔法剣の威力を弱めていた事で助かったらしい。だが、吹き飛ばされた際の衝撃で気絶し、更に天井が崩れて落ちてきた瓦礫に挟まれて様子だった。



「ふうっ……どうやら木箱が上手く瓦礫を防いでくれたから無事だったようだな」

『おい、大丈夫か坊主?意識はあるのか?』

「駄目、酷い怪我……火傷自体はそれほどでもないけど、あちこちに骨に罅が入っていると思う」

『なんだと!?おい、何とかならないのか!?」

『団長、早く回復魔法を!!』

「駄目だ、ゴロウ将軍の治療が先にする!!こっちも危険な状態なんだ、手を抜けば死んでしまう!!」



カツはルイにレナの治療を頼むが、彼女は脂汗を流しながらゴロウに回復魔法を施す。残念ながら彼女の回復魔法は治癒魔導士の物と比べると回復速度が遅く、速効性はないため、危篤状態のゴロウの治療を中断すると彼の命が危ない。



『くそ、なら誰か回復薬を持ってないのか!?』

「そ、それが……荷物の中には確かに回復薬も含まれていたのですが、この有様では何処にあるのかも分からず……あったとしても壊れているかと」



カツの言葉に荷物の運搬を行っていた兵士は申し訳ない表情を浮かべ、船に乗せるはずだった薬品の類の木箱もサブが魔法剣を発動した時の攻撃で破壊されてしまう。


改めてドッグの中はサブの仕業で荒れ果てた状態であり、船内に運び込む予定だった荷物の大半は破壊され、瓦礫に押し潰されてしまう。しかもこの場に存在する者の中には回復薬を持ち合わせている人間はおらず、このままではレナの治療は出来ない。



「すぐに治癒魔導士を呼び寄せろ!!船内に運び込んだ荷物の中に回復薬があるかもしれん、探し出せ!!」

「はっ!!」

「レナ……頑張って、すぐに治して見せる」

「畜生、どうしてレナがいつもこんな目に……くそったれ!!」

『ちっ、こいつらのせいで大変な目になっちまった……団長、この爺さんとガキどもはどうする!?』

「……拘束した状態でとりあえずは閉じ込めておくしかない。ジオ将軍、任せてもいいですか?」

「あ、ああ……分かった。部下に見張らせよう」



拘束したサブと4人の弟子達に関してはジオに任せると、カツは全員をまずは縄で縛りつけようとしたとき、サブが激しくせき込む。



「がはぁっ!?はぁっ……げほっ、うぐぅっ……!?」

『うおっ!?この爺さん、目を覚ましたぞ!!』

「くっ……き、貴様ぁっ……」

「大人しくしろサブ!!下手な真似をすればその首を切り落とすぞ!!」



意識を取り戻したサブにジオは剣を構え、彼に動かないように注意する。一方でサブの方は自分の怪我と武器を取り上げられた事に気づき、忌々し気な表情を浮かべてルイとゴロウを睨む。


まさかゴロウがあのような行動を取るとは思えず、怪我のせいで身体は上手く動かない。それどころか魔力も使いつくしてしまったため、もうしばらくの間は魔法も使えない事を知ると、サブは抵抗するのを諦めた様に床に身体を預けた。



「くっ……まさか、この儂がお主等如きに敗れるとは……つくづく、年は取りたくないものよな」

「それは違う、貴方の敗因はマドウ大魔導士を甘く見ていた事です。マドウ大魔導士は全てご察しでした」

「ふん、聞こえておったわ……確かに儂は結局、あの方を超える事は出来なかったか」



ルイの言葉にサブは感慨深そうな表情を浮かべ、結局はマドウの掌の上で転がされていたという事実に悔しく思う。だが、それでも彼は口元に笑みを浮かべ、痛みに耐えながらも上半身を起こし、ルイ達に告げた。

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