第594話 シノの助太刀

「……どうも」

「ウォンッ!!」

「君は……まさか、シノ君か!?」

「そう、彼女が僕の助っ人だ」



カツの背中から現れたシノにジオは驚き、しかも彼女の傍にはクロの姿も存在した。ルイは彼女にサブの様子を監視させていた事を告げる。シノは忍者の称号を持ち、彼女の隠密の技能によって常にサブの行動を監視し、逐一報告をルイに送っていた。


普通の暗殺者よりも隠密行動に優れる彼女だからこそ、サブに気づかれる事もなく監視する事が出来た。そして連絡役はクロが行い、ルイはいち早くサブの弟子達の行動に気づけたという。



「サブ魔導士がブラン君達に奇妙な命令を与えたと聞いた時点で僕達は動いたんだよ。船内で彼等が設置された魔石を起爆させる前に捕まえる事が出来たのは運が良かった」

「そ、そうだったのか……だが、どうしてサブ魔導士に監視を付けていたのですか?」

『前々からサブ魔導士には気を付けろと言われてたんだよ……あの、マドウ大魔導士からな』

「マドウ大魔導士が……!?」



サブの動向が怪しい事を知らせたのは彼の上司であるマドウである事が判明し、ルイ達は少し前から彼に依頼を受けてサブの様子を監視するように頼まれていた。


まさかのマドウの指示にジオは驚き、どうして自分達ではなくルイ達に彼の監視を任せていたのかと戸惑うが、その点に関してはルイが補足を行う。



「マドウ大魔導士はサブ魔導士の様子がおかしい事は前々から気づいていたが、彼以外の人間に知らせるのを伏せていたのはサブ魔導士に怪しまれないためです。ヒトノ国の関係者ならサブ魔導士と繋がっている可能性がある以上、彼とは縁がない冒険者である僕達に協力を依頼したというわけです」

「な、なるほど……そういう事だったのか」



ルイの説明にジオは納得し、確かにヒトノ国に属する人間ならばサブと繋がっている可能性も高い。彼は表向きはマドウの片腕の魔導士として働いているため、人脈は広い。そのためにマドウも迂闊に他の人間に彼が怪しいことを告げる事が出来ず、ルイに協力を依頼したという。


その後はルイはシノに直々に依頼して彼の動向を監視させ、自分達はいつでも動けるように船内に潜伏していたという。結果的にはこれが功を奏してシノはいち早くサブの行動に対処できた。



「しかし、マドウ大魔導士がサブ魔導士の事を疑っていたとは……」

「かなり前からマドウ大魔導士はサブ魔導士の動向を疑っていました。特に対抗戦が行われた日以降、サブ魔導士の様子がおかしい事を見抜いていたようです」

「そうだったのか……」



マドウもサブの異変に気づいて行動していたという話にジオは安心したが、同時に彼は意識を失ったサブを見て哀れに思う。結局はサブはマドウの事を出し抜く事は出来ず、逆にマドウはサブの行動を予想して既に対策を打っていた。


先ほどのサブの告白を聞かされた時にジオは彼がマドウに対して大きな劣等感を抱いていた事を知った。その劣等感を振り払うためにサブは今回の騒動を引き起こしたようだが、結局はマドウは先手を打っており、サブは彼の掌に転がさていた事に等しい。



(哀れ男だ……結局はマドウ大魔導士に敵う魔術師はいないという事か)



サブが自分の立場を失う事を理解した上で行動を起こしたにも関わらず、結局はマドウが不在の間にも彼は行動を阻止され、こうして倒れてしまう。仮に意識を取り戻してもこの怪我の状態では反抗する事も出来ず、もう彼に打つ手はない。


愚かにも自分の弟子を犠牲にしてでも船を爆破させようとしたサブに対してジオは剣を握りしめ、いっその事ここで彼の命を絶つべきかと考えた。もう抵抗する力も残っていないとはいえ、このままサブを放置するのは危険だと判断し、止めを刺すべきかと考えると、ここでシノが船から降りてルイに話を伺う。



「レナは?何処にいるの?」

「あっ……そ、そうだった!!レナ君は無事か!?」

「探しています!!探してはいますが……」

「くそ、何処にいるんだ!?」

『おいおい、それはどういう意味だ!?まさかあの坊主、やられたのか!?』

「……退いて、私が探す!!」



ここでルイはレナがまだ見つかっていない事を思い出し、それを聞いた者たちが慌てて甲板から降りてレナの捜索を手伝う。シノもレナを見つけるために彼女は気配感知を発動させ、破壊された荷材の中からレナの気配を探す。


シノは瞼を閉じて気配を感じる事に集中すると、ほんの微かではあるが気配を感じ取り、その場所に向かう。その後ろにクロも続き、嗅覚でレナの臭いを察知したのか鳴き声を上げる。



「ウォンッ!!」

「分かってる……この大樽の下にいる!!」

「何だって!?」

「すぐに退かすんだ!!」

『おっしゃあ、俺の出番か!!』



大きな樽が重なって倒れている場所からレナの気配をシノが感知すると、すぐにカツが駆けつけて持ち前の怪力を発揮して樽を退かしていく。その結果、樽の中からレナの闘拳が出現した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る