第592話 ゴロウの意地
「小娘が……調子に乗るな!!」
「お言葉ですが、状況はもう貴方の不利です。その杖では貴方の力を完全には発揮できないでしょう?」
小杖を構えたサブに対してルイは鎖に巻き付いていた魔剣を回収する。サブはルイの言葉に舌打ちし、残念ながら彼が身に付けている小杖はあくまでも護身用の道具でしかなく、火属性の魔石しか取り付けていない。
魔剣が存在すれば魔法剣士としての力を発揮できるが、小杖ではサブの能力が制限されてしまう。そもそも小杖では引き出せる魔法の力も小さいため、砲撃魔法を使用したとしても本来の威力は発揮できない。それを見越したうえでルイは鎖を握りしめると、サブに向けて放つ。
「絡み取れ!!スネイク!!」
「ぬおっ!?」
「や、やった!!」
「捕まえたか!!」
鎖が本物の蛇のようにサブの腕に絡みつくと、そのまま小杖を掴んでいた腕を拘束した。結果的にはサブは腕を締め付けられて小杖を取りこぼしてしまい、苦痛の表情を浮かべる。
これで魔剣も小杖も失ったサブは魔法は扱えず、今の状態ならばゴロウとサブでも十分に捕まえる事が出来た。だが、サブは腕を抑えながらも口元に笑みを浮かべ、ルイに言い放つ。
「くっ……くくっ……小娘よ、惜しかったな」
「何?」
「右腕を拘束したのが貴様の間違いだ!!」
「何だと!?」
サブは苦痛の表情から一変して獰猛な笑みを浮かべると、左肩に手を伸ばして何かを押し込む動作を行う。次の瞬間、拘束されたサブの左腕が地面に落ちてしまう。その光景を見た者たちはサブが腕を切り落としたのかと思ったが、すぐに彼の左腕が義手である事に気づく。
一見するだけでは本物の人間の腕のようにしか見えないほどに精巧に作り出された義手であり、更に切り離された方の部分にサブは右手を伸ばす。そして義手の中に仕込んでいた「魔剣」を取り出した。
「小娘、お前の負けだ!!」
「くっ!?」
「そうはいかんぞっ!!」
「うおおっ!!」
魔剣を手にしたサブが魔法剣を発動させる前にゴロウとジオが動き、サブを抑えつけようとした。だが、それに対してサブは魔剣を構えると、まずは自分に押しかかろうとしたゴロウの腹部に目掛けて魔剣を突き刺す。
「遅いわ!!サンダーブレード!!」
「ぐああっ!?」
「ご、ゴロウ将軍!?」
「しまった!?」
魔剣の刀身から電流が迸ると、ゴロウの腹部に向けて電撃が送り込まれ、彼の苦痛の声が広がる。それを見たサブは確実に仕留めたと思ったが、ゴロウは電流を受けながらもサブに血走った目を向け、両手で抱き着く。
「うおおおおっ!!」
「な、ば、馬鹿なっ!?どうして死なんっ……!!」
ゴロウが自分の魔法を受けながらも覆いかぶさってきた事にサブは目を見開き、すぐに異変に気づく。それはこれまでの魔法の使用で自分の魔力が消耗している事に気づき、本来の魔法剣の威力を引き出せていない事を知る。
魔法剣の威力が弱まった事、盾騎士の耐久力の高さを忘れていた事でサブはゴロウに抱き着かれると、そのまま彼に持ち上げられて押し倒される。背中に激痛が走り、サブは危うく魔法剣を解除しかけるが、それでも意識を取り戻して電圧を上昇させた。
「は、離れろぉっ!!」
「ぐああああっ!?」
「ゴロウ将軍!!やめろ、止めるんだ!!」
「本当に死んでしまうぞ!?」
サブから離れないゴロウにルイとジオは離れるように促すが、ゴロウはそれを聞き入れず、サブを離さない。ここで彼を逃せば死んでしまったレナの仇が取れず、彼は意地でも離さない。
追い詰められたサブは必死に魔力を流し込んで電圧を上げるが、ゴロウに密着されたせいで彼にも電流が流れ込む。この世界の魔法は自分が生み出した魔法は肉体に影響は受けないが、その身に付けている装備品は例外であり、ゴロウが金属製の鎧を身に付けていた事もあって熱を帯びた鎧を押し当てられているサブも無事では済まない。
「うおおおおっ!!」
「ぐああああっ!?」
「ゴロウ将軍!!」
「もう限界だ!!離れるんだ!!」
黒焦げと化しながらもゴロウはサブから離れず、遂にはサブの方も魔法剣を維持できずに白目を剥き、やがて泡を吹いて動かなくなった。だが、ゴロウの方も限界を迎えたらしく、倒れたサブの横に倒れ込む。
その光景を確認してすぐにルイはゴロウの元へ向かい、ジオはサブの様子を伺う。どちらも完全に気絶しており、ルイは急いでゴロウに回復魔法を施す。
「ゴロウ将軍!!しっかりしろ!!」
「ぐっ……れ、レナは……」
「レナ君?レナ君がどうかしたのか!?」
「そ、そうだ……レナ君はどうなったんだ!?」
ゴロウの言葉にルイは戸惑い、彼女はレナの身に何かあったのか知らない。一方でジオはサブが動けないように拘束すると、先ほど彼の攻撃で吹き飛ばされたレナがどうなったのかを確認に向かう。
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