第585話 オリハルコンの弾丸

――無事に空中戦艦フライングシャーク号の浮上が確認されると、その後は船が最高速度を計り、どの程度の時間で火竜が潜む湖に辿り着けるのかを計算する。そして出発は本日の夜と決まり、到着時には恐らくは夜明けを迎えるだろうと予想された。


今回船に搭乗する人数は魔術師が200名、更に兵士が400名、同行するのは竜騎士隊となる。搭乗者の中には大魔導士のマドウ、彼の片腕のサブも含まれ、他には将軍としてカイン、ジオ、ゴロウも乗り込む。


また、冒険者も多数同行してもらい、彼等には主に魔術師の援護を行う。出来るならばもう少し戦力を集めたい所だが、下手に人数を増やしても人的被害を増加させる恐れもあり、不用意には人数は増やせない。


それと今回の件とは別にレナはダリル商会の専属鍛冶師であるムクチとゴイルを呼び出し、ワドルフにも協力してもらってとある武器の製作を依頼する。



「つまり、このオリハル水晶を加工して作り上げたオリハルコンを……この「弾丸」とやらの形状に作り替えればいいのか?」

「はい、お願いできますか?」

「……正直に言えば不可能だろう。前にオリハルコンを加工するだけでも相当な手間と時間が掛かった」

「しかも今回は半日で6つの弾丸を作り出せというのか?いくらなんでもそいつは無理があるぞ……」



レナはワドルフの工房にムクチとゴイルを呼び出し、どうにか前に大迷宮に挑んたときにブロックゴーレムから回収したオリハル水晶の加工が出来ないのかを尋ねる。このオリハル水晶は皆で冒険した時に手に入れた代物なのだが、今回は事情が事情のために仲間達に申し訳ないと思いながらも持ち出して来てもらう。


オリハルコンの素材となるオリハル水晶は滅多に手に入る代物ではなく、非常に貴重な魔法金属である。伝説の聖剣の素材にも利用されるため、これをもしも「武器」として加工すれば火竜との戦闘で役立つのではないかと考えた。


だが、回収したオリハル水晶の量から考えても闘拳などの武器の類は作り出せず、それならば魔銃の弾丸として利用すればいいのではないかと考えたレナは3人に相談するが、ゴイルとムクチはオリハルコンの加工には時間が足りないという。



「今日の夜に出発するまでにオリハル水晶を加工してオリハルコンを作り出し、更にそいつをこの弾丸とかいう奴に作り替えろか……確かに普通に考えたら無理な話だな」

「そうですか……すいません、無理なことを言って」

「だが、時間が半日じゃなければどうにかなるかもしれねえな」

「何?」

「ん?そいつはどういう意味だ?」



ワドルフの言葉にゴイルとムクチは訝しみ、レナが飛行船を出発させるまでの時間は半日しか存在しないのは事前に決まっている。いくら何でもレナの一存で出発を後らせる事は出来ない事はワドルフも知っているはずだが、彼は笑みを浮かべる



「ついてきな、俺の新しい工房を見せてやるよ」






――ワドルフの案内の元、レナ達が連れてこられた場所は現在は大勢の兵士が荷物を運び込んでいるフライングシャーク号だった。そして彼は船の奥の方に移動すると、そこには鍛冶師の工房が存在した。


純度の高い火属性の魔石も搭載された魔炉、ワドルフが現役時代に扱っていた道具一式、更には様々な素材が保管されていた。この工房を見た瞬間にゴイルとムクチは呆気に取られ、一方でワドルフの方は自慢げに答える。



「がっはっはっ!!どうだ、俺の作り上げた工房は!?」

「し、信じられねえ……こんな船の中にこれだけの工房があるなんて」

「こ、これは……まさか、レアメタルか!?こんな金属まであるとは……」

「はんっ!!お前らみたいなひよっこでも見れば分かるだろう?これだけの設備を整えられるのは王都でも俺だけだ!!」

「凄い……という事は、飛行している間もこの船の中で作業が続けられるんですか!?」

「ああ、そういう事だ。お前さんがこの船を空に飛ばしている間も俺達は作業に集中できるというという事だ。おい、ガキども!!しっかりと俺の助手を務めろよ!!」

「「が、ガキ!?」」



ムクチもゴイルも若いとは言えない年齢だが、王都で最年長者であるワドルフから見れば二人ともまだまだ子供同然の存在だった。そして彼はレナに親指を突き立てると、火竜の到着前にはどうにかオリハルコンの弾丸を作り上げることを約束した。



「安心しろ、お前さんが火竜の馬鹿と戦う前には必ず武器を仕立ててやる!!ついでにお前さんの装備も見せな、徹底的に鍛え上げてやるぜ!!」

「あ、ありがとうございます!!」

「よし、お前ら!!ここまできてやっぱり出来ないとか言い出すなよ!!俺達の手で火竜をぶっ殺す武器を作り上げるんだ!!」

「ちっ、調子のいい爺だぜ!!やってやらぁっ!!」

「……いいだろう、俺の腕を見せてやる!!」



3人の鍛冶師の名工が集まり、彼等ならば本当にオリハル水晶を加工してオリハルコンの弾丸を火竜との決戦前に作り上げられるかもしれないと思ったレナは、彼等に任せて工房を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る