第553話 下水道を通じて

「キシャッ!!」

「ギャアッ!?」

「ギシシシッ!!」

「な、なんだこいつら……仲間割れか!?」



入口の付近にカマギリは自分こそが先に追いかけようとして他の仲間を踏み台にしたり、あるいは邪魔者として切りかかる。いつしかカマギリ同士で争い合い、その様子を見ていたレナ達は足を止めてしまう。



「……思い出した、昆虫種は厄介だけど知能に関してはそれほど高くない。だから魔物使いも複雑な命令を与える事が出来なかったのかもしれない」

「ど、どういう意味?」

「きっと、このカマギリは私達を殺すように仕向けられた。だけど、それぞれが仲間同士と意識しているわけじゃなく、私達を殺すのを邪魔しようとする存在も一緒に排除しようとしている……つまり、邪魔者なら味方でも殺す」

「じゃあ……このまま放っておけばあいつら自滅するんじゃないのか?」

「いや、そこまで上手くはいかないと思う。だけど、攻撃の好機チャンスだ」



入口付近で争い合うカマギリを確認してレナはシノたちを後ろに下がらせると、闘拳を構えた。この場所ならば周囲から襲われる心配もなく、正面から来た敵だけに集中できる。


ここでレナは持参した雷属性の魔石を取り出し、ダリルから選別品として一つだけ服の中に仕込んでいた。雷属性の魔石を握りしめたレナはやがて仲間の血で真っ青に染まったカマギリ達に向けて拳を構えた。



(魔石を破壊して魔力を取り込んだ後、闘拳ごと吹き飛ばす……!!)



試した事はないがレナは雷属性の魔石を握りつぶすと、闘拳に纏わる紅色の魔力に取り込み、重力と電撃の魔力を付与させた。そして拳を振り抜き、カマギリの集団に狙いを定めて放つ。



「飛雷拳!!」

『ッ――!?』




一筋の雷撃のように変化した闘拳が放たれると、入口付近に集まっていたカマギリの大群が吹き飛び、そのまま衝撃波と電撃を同時に浴びて身体が粉々に砕け散る。しかも砕けた肉体は電流によって黒焦げと化し、十数体存在したカマギリを一撃で吹き飛ばす。


その光景を見てミナ達はおろか、レナ本人もあまりの威力に動揺を隠せない。あれほど苦戦したカマギリを一撃で全員片づけた事に動揺を隠せず、街道に転げ落ちた闘拳の元へ歩む。



「な、なんて破壊力だ……凄い」

「うへぇっ……あんなにいたのに一発で倒しちまった」

「流石はレナ……でも、派手にやりすぎたから急いで離れた方がいい」

「確かにここに残るのはまずそうだね……あ、皆!!あそこに城壁が見えるよ!!」



ミナが指し示す方向に城壁が存在し、逃げるのに必死で気づかなかったがいつの間にかレナ達は城壁の近くまで移動していたらしい。最初に侵入した場所とは異なるが、城壁さえ潜り抜ければ安全圏のため、急いで脱出の準備を行う。



「そういえばあたし達は城壁を乗り越えてきたけど、皆の姉ちゃんはどうやって裏街区に入ったんだ?やっぱり、忍者だから鉤縄とか、でっかい布を使って空から入ったのか?」

「……私は地下からこの中へ入った。監視が厳しいのは地上だけ、下水道を使えばいくらでも中へ入り込むことが出来る」

「あ、その手があったか!?」

「それなら僕達も下水道を通れば外に出られるの?」



前にシノはカーネ商会に忍び込むときに下水道を使用した事もあり、どうやら裏街区の方も下水道を通じて他の区へと移動できるらしい。監視の目はあくまでも地上だけで実際の所は裏街区へ侵入する方法はいくらでも存在した。


ならばレナ達も下水道を利用して戻るべきかと考えたが、シノは首を振って下水道から帰還する方法に反対した。下水道を通る場合は今よりも危険な状況に陥る可能性があるという。



「下水道の方は迷路みたいに複雑な構造だから、道を覚えないとすぐに迷う。それに下水道からの侵入に備えて見張りも存在するし、下水道に住み着く魔物も存在する。だから下水道から侵入する方法はお勧めしない」

「げえっ……マジかよ。ていうか、なんで魔物がいるんだよ!?」

「侵入対策、裏街区の人間が下水道に魔物を放ったと聞いた事がある」

「ええっ……じゃあ、シノはここまでどうやって来たの?」

「私の場合は暗殺者を追ってきたらここに辿り着いた。相当な手練れだったけど、隠密行動なら私の方が優れていたから運が良かった。でも、深手を負って動けなくなったからクロを先に脱出させた」

「なるほど……じゃあ、クロ君は下水道を使って逃げてきたの?」

「うえっ……マジかよ。臭くないだろうな」

「ガブッ!!」

「あいてぇっ!?」



コネコの発言に機嫌を損ねたのかクロは彼女の尻に噛みつくが、クロ本人は得に臭くもなければ酷く汚れている様子もない。シノもクロがどのような手段で裏街区を抜け出したのかは分からないらしく、なんにしろクロのお陰でシノの危機をレナ達に伝える事が出来た。



「この子は優秀だから、きっと何らかの手段で自力で裏街区を抜け出したと思う。この子がいなければ私は今頃はカマギリの餌食になっていた」

「ウォンッ(褒めて褒めて)」

「よしよし……クロ君は偉いね」

「なんだよ、こんな場所を抜け出す事なんてあたしだって簡単に出来るっての」

「よしよし……痛かったね~」



レナがクロの頭を撫でるとコネコは拗ねたように噛まれたお尻を撫で、ミナが代わりに彼女の頭を撫でる。だが、今は呑気に話している場合ではなく、一刻も早く裏街区から抜け出す必要があった。

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