第552話 逃走戦

「くそ、どうしてこんな時にドリスの姉ちゃんがいないんだよ!?姉ちゃんの魔法ならこんな奴等いくらでも倒せるのに!!」

「くっ……せめて魔銃さえあれば」

「僕も槍さえあれば……」

「私も万全な状態なら……なんて泣き言は言ってられない、今は逃げる事に集中して」

「ウォンッ!!」



街道を駆け抜けながらレナ達は追跡してくるカマギリの様子を伺い、空を飛びながら追いかけてくる巨大蟷螂の光景を見て背筋が凍り付く。小さい蟷螂ならば平気でも、並の人間よりも大きくなった蟷螂はグロテスクで見るに堪えない。


この場にドリスが存在すれば彼女の扱う「火炎槍」や「螺旋氷弾」でカマギリを蹴散らしてくれるだろうが、生憎と裏街区にいる限りは彼女の助力は期待できない。ちなみにデブリやナオの場合は相性が悪いかもしれず、生身で鋭利な刃物の如き鎌を持つカマギリに挑むのは無謀過ぎる。



「ギィイッ!!」

「うわっ、危なっ!?」

「キシャアッ!!」

「ひゃあっ!?」



背後から鎌を振り下ろしてきたカマギリに対してコネコとミナはどうにか回避するが、背中にシノを背負っていたミナは体勢を崩しかける。それを見たレナはカマギリに対して殴りつける。



「このぉっ!!」

「ギシャアッ……!?」




耐久力の方も意外と高いのかレナが殴りつけるとカマギリは吹っ飛ぶが、すぐに起き上がって追跡を開始する。やはり生半可な攻撃ではカマギリを倒す事は出来ず、付与魔法を重ね掛けしなければ損傷を与えるのも難しい。


カマギリは上空からだけではなく、先回りや左右から襲い掛かってくるため、一瞬の油断も許されない。このままでは奴隷街に辿り着く前に殺されるため、どうにか敵の数を減らすしかない。



(くそ、こんな時に俺もドリスさんみたいに遠距離に攻撃できる魔法があれば……!!)



反発や衝撃解放の場合は衝撃波を拡散するという性質上、実を言えば至近距離からの攻撃でなければ威力は低い。なのでカマギリが近づいてきたところを攻撃するしかなく、遠く離れている個体を倒すのは難しかった。


それでも衝撃波を打ち込めば相手を怯ませる効果ぐらいはあるが、先ほどからカマギリは執拗にレナを狙っている節があり、他の物達よりも優先して襲い掛かってきた。



「「キシャアアアッ!!」」

「こいつら……やっぱり、飛竜の時と同じように操られているのか!!」

「多分、間違いない。明らかに私達だけを狙っている……でも、この近くには魔物を操っている奴は近くにいない」

「どうしてそんな事が分かるんだよ!?」

「レナに頼まれて私が尾行した相手は、魔物使いじゃない。只者ではなかったけど、少なくとも魔法使いじゃなかった」



シノの言葉にレナは自分を暗殺しようとした存在を思い出し、飛竜との戦闘の時にシノに頼んで正体を確かめようとしたことに気づく。シノによれば彼女が見つけた暗殺者は手練れではあったが、飛竜を操作しているようには見えなかったという。


彼女によればシノが戦った相手は相当な達人らしく、魔術師では到底あり得ない腕前を誇った。シノの怪我に関してもカマギリにやられただけではなく、その手練れに手傷を負わされ、その後にカマギリの大群に襲われたらしい。



「このカマギリを操っている奴は少なくともここにはいない……それにゴブリキングに命令を与えていた奴もゴブリンキングを放置して姿を消した。だから、何処かで私達の様子を見て魔物たちを襲わせているわけじゃない」

「そういう事か……!!」

「じゃあ、どうするんだよ!?このままだとあたし達、細切れにされるぞ!?」

「ウォンッ!!」



逃走の最中、先行していたクロが立ち止まると彼は大きな建物が並び立つ路地の方へ駆けつけ、全員を誘導するように鳴き声を上げる。敢えて逃げ場が少ない路地に向かうなど危険に思われたが、シノは相棒を信じた。



「皆、クロの方へ走って!!」

「ええっ!?」

「ほ、本気で言ってるのか!?」

「クロ君とシノを信じよう!!」



戸惑うミナとコネコに対してレナは真っ先にクロとシノを信じて路地裏に飛び込み、クロの後に続く。それを見たミナとコネコも信じて進むと、予想以上に狭い横幅が狭い路地を通る。


このままカマギリが追いかけてくれば逃げ場はないと思われたが、ここで追跡を行おうとしたカマギリの群れは狭い路地裏では羽根を開いた状態では通り抜けられない事に気づき、カマギリ同士で路地の出入口に衝突してしまう。



「ギシャアッ……!?」

「あっ、そうか……あいつら、羽根を広げてないと移動できないのか!?」

「じゃあ、狭い道に入る事は……」

「……いや、無理そう」



これまでのカマギリの移動は羽根を使っての飛行しかなかったが、カマギリ達は羽根が邪魔して入れない事に気づくと羽根を戻して今度は足を使って入り込む。当然の判断だが、ここでカマギリ同士は我先にと入り込もうとしてきた。

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