第543話 大通り
「ウォンッ!!」
「クロ君、ちょっと早いよ!?おいてかないで!!」
「このワンコ、普通の狼より早いな!!」
「普段から放し飼いされてるみたいだからね、きっと街中を移動する事は慣れてるんだよ」
先行するクロに置いて行かれないようにレナ達は後を追うと、やがて大通りへと出た。地図によればここを通り過ぎれば教会が存在する建物に辿り着けるのだが、ここでクロは立ち止まってしまう。
レナ達も大通りに辿り着いて違和感を感じ取り、先ほどまで生気を失ったような顔つきをしていた人間達が徘徊していたが、この大通りには人気が全くない。だが、クロは警戒するように周囲を見渡し、牙を剥き出しにする。
「兄ちゃん、気を付けろ……あちこちから気配を感じる。ここから先はやばそうだぞ」
「……でも、ここを通らないと教会にはたどり着けない」
「ど、どうするの?」
「ガアッ!!」
レナ達が相談している間、クロが鳴き声を上げる。その直後にあちこちの建物から人影が現れ、ボーガンを装備した男たちの集団が現れた。彼等全員が黒色のパンダナ
を身に付け、その中でも一番の年長者らしき男が前に出てきた。
「へへへっ……珍しいな、こんな場所にガキがくるとは」
「しかも中々の上玉揃いだ。こいつは外の連中に高く売れそうだな」
「へへへ、大人しくすれば傷つけはしねえよ。安心しろ、商品は手を出さないさ」
「ん?ちょっと待て、良く見たら黒髪の方は男じゃねえのか?」
「男だろうがなんだろうが顔が良ければいいんだよ、むしろ男の方が好きという変わり者も多いからな!!がっはっはっはっ!!」
「……急に現れたと思ったら何を言ってんだこいつら?」
自分達を見て勝手に話を行うパンダナの集団にコネコは訝しむが、話を聞く限りではどうやら人攫いの集団らしく、その人数はかなり多い。恐らくは30人近くは存在し、全員がボーガンを所持していた。
パンダナの男達は相手が子供だと思って完全に油断しているが、その中の一人がクロを連れているレナ達を見て驚きの声を上げる。
「えっ!?ちょっと待て、あの狼は……頭、こいつら昼間に現れたあの女が連れていた狼を連れてますぜ!?」
「何だと!?くそ、俺達を虚仮にしやがったあの女の仲間か!?」
「女?」
「それって……むぐっ!?」
パンダナの男達の言葉を聞いたコネコが危うくシノの名前を語りそうになったのでレナは口止めすると、男達は怒りの表情を浮かべてボーガンに矢を装填した。
「くそ、あの女……あいつのせいで盗賊ギルドに売り込むはずだった俺達の商品が台無しになったんだ!!折角見つけた希少種だっていうのに……おい、撃て!!あの女の仲間なら容赦しねえ!!」
「い、いいんですか?相手はまだ子供……」
「うるせえっ!!そんなの関係あるか!!」
どうやら昼間にシノと彼等の間に何か一悶着があったらしく、パンダナの集団のリーダー格と思われる40代の男性が部下からボーガンを奪い取る。男は真っ先にレナに狙いを定め、笑みを浮かべて撃ち抜く。
「恨むならあの女を恨め坊主!!」
「っ!?」
ボーガンから矢が放たれると、レナの頭に目掛けて真っ直ぐに向かってくるが、その矢に対してレナは何事もないように腕を伸ばして掴み取る。その行動に男性は呆気に取られ、一方でレナの方は小馬鹿にするように矢を手元で回す。
戦闘職ほどではないが、幼少の頃からキニクやバルに鍛え上げられ、魔法学園では訓練を受け続けてきたレナの身体能力は高い。さらに彼の場合は生まれ持った優れた動体視力を持ち、素手で魔物と戦い続けた事で反射神経も磨かれ、普通の人間の放つ矢など簡単に受け止められる。目の前で挑発するようにレナは矢を折ると、その場に放り捨てた。
「誰を恨めって?」
「な、なっ!?ば、馬鹿なっ……あり得ない、矢を受け止めただと!?」
「そんなまさか、兄貴こいつ戦闘職の称号を持っているんじゃないですか!?やばいですよ、称号持ちの相手に戦いを挑むなんて!!」
「お、怯えるな!!いくら称号持ちだろうが、これだけの人数の矢を受けきれるはずがねえ!!全員、一斉掃射だ!!」
レナが簡単に矢を受け止めたのを見て男性は危機感を抱くと、部下たちに命じて今度は全員で打ち込むように命じた。流石に複数人に打ち込まれればいくらレナでも避けきれる自信はなく、その代わりにコネコとミナが前に出た。
コネコもミナもレナを庇うように立った事に男達は戸惑い、外見は少女のようにしか見えないのだが、二人の放つ雰囲気が只者ではない事を嫌でも思い知らされる。
「へへへ、兄ちゃん下がってろ。久しぶりの人間相手の喧嘩だな」
「この槍も試し相手には持って来いだね」
「か、頭!!近づいてきますぜ!!」
「ば、馬鹿野郎!!見ればわかる、さっさと狙いやがれ!!」
自分達の元に駆け出してきたコネコとミナを相手にパンダナの男達は慌ててボーガンに矢を装填しようとするが、先にコネコが迫ると彼女はリーダー格の男性の顔面に目掛けて飛び蹴りを放つ。
「おらぁっ!?」
「ふげえっ!?」
「「「か、頭ぁっ!?」」」
見事にコネコの踵が男性の顔面にめり込み、そのまま顔を足場にしてコネコは浮き上がると、後からやってきたミナは手槍を構えて柄の部分を叩き込む。
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