第540話 裏街区
「うん、凄くしっくりくる!!これなら隠しやすいし、持っていけるかも……借りてもいいんですか?」
「ああ、むしろ持って行ってくれると助かる。そいつは依頼品なんだが、出来上がった後に依頼を取り消されて困っていた」
「手槍を扱う奴なんて滅多にいないからな。まあ、槍騎士の嬢ちゃんなら使いこなせるだろう。俺達の合作だ、武器の性能は保証するぞ」
「ありがとうございます、凄く気に入りました!!」
ミナは素直に感謝するとゴイルとムクチは照れたように鼻を掻き、二人からすれば折角作り上げた武器を保管するより、誰かに使って欲しいと思っていたからこそ彼女に託した。これで全員の装備は一応は整うと、レナ達は地図を手にしてシノが目印を付けた場所に向かう事にした。
「じゃあ、行ってきます。出来る限りは急いで戻ってこれるように頑張ります」
「晩飯までには帰ってくるからな!!」
「き、気を付けろよ……絶対、無茶をするなよ!!」
「大丈夫です、レナ君もコネコちゃんも僕が守って見せます!!」
皆に見送られてレナ達は裏街区の方へ向けて出発し、今回は目立たないように移動するためにスケボなどの乗り物は使用できない。3人は街道を走って移動するしかなく、今までに一度も入った事がない裏街区へと向かう。
――王都の南西に存在する裏町区は他の区画と分け隔てるため、大きな煉瓦の防壁が築き上げられている。区画全体が煉瓦の壁で取り囲まれているといっても過言ではなく、出入りが出来る箇所は数か所存在し、どこの場所も見張りの兵士が建てられていた。
裏街区は王都の中でも警戒が厳重で隔離されているといっても過言ではなく、この煉瓦の壁はヒトノ国の警戒心の強さを示している。万が一にも裏街区の住民が暴動を引き起こす事も考慮して裏街区の周辺には多くの警備兵が配備されているが、裏街区の内部に関しては警備隊でさえも立ち寄る事が出来ない。
煉瓦の壁で覆いこまれた裏街区に入るため、レナ達は正規の出入口は利用せず、煉瓦の壁を乗り越えて街の中に入る事にした。どうやって煉瓦の壁を乗り越えたのかというと、レナが誰も使っていない廃屋から人間が乗り込めるほどの大きさの板を用意し、それに付与魔法を施して空中に浮かばせ、浮揚する板に乗り込んで壁を乗り越える事にした。
「よっと……侵入成功だな」
「意外とあっさり入れたね」
「警備が硬いのは出入口だけだったね……城壁の上には兵士が配備されてないみたいだ」
城壁を乗り越えたレナ達は裏街区の中に入り込むと、街の様子を伺う。時間帯は既に夜を迎えているが、殆どの建物は明かりをともしておらず、暗闇に覆われていた。その光景を見て異様な不気味さを覚え、レナ達は慎重に先に進む。
気配感知が扱えるコネコを先頭にレナ達は街道を歩き、ミナは周囲を警戒しながら進む。だが、予想に反して街の住民たちは特にレナ達を見ても大きな反応を示さず、街道には浮浪者らしき者たちが多く徘徊していた。
「ああっ……」
「うあっ……」
「はら、へった……」
「……おっちゃんの言う通りだな、こいつらなんか変だぞ」
「うん……まるで生気を感じないね」
生きる気力を失ったかのように街を徘徊する浮浪者達は虚ろな瞳で歩き回り、もう何日も碌な食事にありつけていないのか殆どの人間が異様にやせ細っていた。そんな彼等を見てレナ達はこんな場所にシノが忍び込んだのかと考えながら進んでいると、後ろから足音が近づく。
「ウォンッ!!」
「わっ!?く、クロ君!?付いてきたの?」
「ガウウッ!!」
「ちょ、落ち着けよ……置いて行かれたのがそんなに気に入らなかったのか?」
「クゥ~ンッ……」
どうやらクロもレナ達を追いかけてきたらしく、どうやって煉瓦の城壁を潜り抜けてきたのかは不明だが、レナ達を発見すると自分も連れて行けとばかりに服の裾に噛みつく。
クロを落ち着かせながらもレナはよくよく考え、手紙を運んできたクロならばシノの居場所を知っているのは当たり前だと思い、クロに頼み込む。
「クロ君、君の主人の元まで案内してくれる?」
「ワフッ?」
「兄ちゃん、いくら何でも犬に言葉が通じるはずないだろ……あいてっ!?」
「ガウッ!!」
レナがクロに語り掛ける姿を見てコネコは呆れるが、彼女の言葉を耳にしたクロは怒りを露にしてコネコのお尻に噛みつく。どうやら言葉は理解できるらしく、レナはクロにシノがいる場所まで案内してほしい事を伝える。
「クロ君、シノと別れた場所まで俺達を連れていってくれる?」
「ウォンッ!!」
「いててっ……あたし、犬嫌いだ」
「まあまあ……同じ動物同士、仲良くしなきゃ」
「どういう意味だよそれ!?名前がコネコだからって、あたしは猫じゃないぞ!?」
「いいから静かにして。ほら、行くよ二人とも」
コネコは噛まれた尻を痛そうに摩りながらも渋々と従い、ミナもレナの言う通りにクロに付いていく。クロは3人が付いてくるのを確認すると迷いない歩き方で街道を進んでいく。
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