第523話 黒幕は……
――その日以降、アイーシャは二人組の姿は見なかった。最後に告げていた会話の通りにもう彼等はゴブリンキングの存在などどうでもいいのか姿を現す事はなく、時間だけが過ぎていった。
謎の二人組が消えた後もゴブリンキングは毎日のように食事を用意したが、それ以降は新しい冒険者を捕まえて檻の中に閉じ込める事はなかった。食事を用意し続けるのも最後に青年が食事を与えるのを止めるように告げなかっただけが原因かもしれないが、結局出される食事に関して口にした者は食中毒を引き起こし、無残な死を迎える。
結局は最後に生き残ったのはアイーシャ達と最後の最後に脱走を計ろうとした男女だけであり、どうして彼等が脱走に踏み入ったのかというと、偶然にも転移台が広場に現れた事が原因だった。
『ああっ……かえ、れる……!!』
『もど、れるわ……』
『おい、止めろっ……殺されるぞ!?』
『落ち着きなさいよあんた達……』
『うるさい、どけっ……!!』
『きゃっ!?』
気が狂った男女は痩せ細った肉体で骨の檻の中で暴れ、引き留めようとするアイーシャ達を振り払い、骨の格子の隙間から抜け出す。
もう何日もまともな食事を得ていなかったので身体がやせ細っていたお陰か抜け出すこと自体は成功した。だが、抜け出す際に鋭利に尖った棘によって血塗れと化す。
『へへっ……もど、れる……おれだけでも、いきのびて……!!』
『ああ、帰れるわ……』
『グガァッ!!』
『えっ……うわぁあああっ!?』
『ひいいっ!?』
しかし、檻から抜け出した瞬間にゴブリンキングが男性の足を掴み、そのまま勢いよく持ち上げて地面へと叩きつける。その光景を見たアイーシャ達は目を逸らし、男性は粉々に砕け散ってしまう。
女性はその光景を見て悲鳴を上げ、そのまま走り去ったという。ゴブリンキングの方は逃げようとする女性に対し、特に関心を抱く様子もなく、その代わりに配下のゴブリンが後を追う。恐らくはこの女性がレナ達が途中で遭遇した女性冒険者で間違いなかった。
ゴブリンキングは男性の死体を見て何を思ったのか、その場で男性の死体を食らいつく。その光景を見ていたアイーシャ達は最早逃げ出す希望も失い、意識を失いかけた。しかし、その時にレナ達が現れた事で彼女達は生き延びる事が出来たという――
「……以上が、我々の知っている全てです」
『…………』
アイーシャの話を聞き終えた誰もが黙り込み、あまりの内容にどのように反応すればいいのか全員が分からなった。今まで大迷宮の異変はゴブリンキングの仕業だと思い込んでいたレナ達だが、彼女達の話を聞く限りでは裏でゴブリンキングを操っていた存在がいた事になる。
「……その、二人組の容姿は分かるのかい?」
「はい、若い男の方は残念ながら顔を見る事は出来ませんでしたが、もう一人の男の顔はしっかりと覚えています」
「そうか……なら、悪いが特徴を教えてくれるか?」
「特徴ですか……分かりました、そういう事なら羊皮紙とペンを用意してください。今ここで似顔絵を描いた方が分かりやすいと思うので……」
「描けるのかい?」
「お姉様は「模写」の技能を持っているんです。凄いですよね~」
ルイがすぐにベルを鳴らして手の空いている団員を呼び寄せると、すぐに羊皮紙とペンが用意され、アイーシャは似顔絵を描き始める。彼女は迷いのない手つきでペンを羊皮紙に走らせ、瞬く間に似顔絵を完成させた。
「出来ました。これが私の見た男です」
「え、もう!?」
「凄い……まだ1分ぐらいしか経過していないのに」
「ふふん、うちのお姉様は凄いのよ!!」
「流石は模写の技能持ちだね……見せてくれるかい?」
アイーシャが絵を描き上げるとルイに手渡し、レナとドリスも左右から覗き込む。その結果、描かれている顔の人物を見て3人は同時に声を上げた。
「「「ゴエモン!?」」」
「ゴエモン?」
「それってまさかぁっ……」
「あの大盗賊ゴエモンの事!?」
――似顔絵を見たレナ達はその顔を見た瞬間、かつてカーネ商会が開いた競売にて姿を現した「ゴエモン」と全く同じ顔だと気づいた。恐らくはゴエモン本人で間違いなく、七影の一角でもあるゴエモンが大迷宮で起きた冒険者の誘拐事件に関わっている事が判明した。
七影のゴエモンが今回の事件に関わっている以上、裏で盗賊ギルドが動いている事は間違いない。また、ゴエモンの傍に存在したゴブリキングを従えた青年の事も気にかかり、ルイは似顔絵を握りしめる力を強めながら呟く。
「この男が現れたという事は……盗賊ギルドも関わっているという事か」
「まさか、あのゴエモンだったとは……」
「へえ、こんな顔をしてたんですねぇっ」
「し、知らなかったわ……てっきり、もっとおじさんだと思ってたのに」
アイーシャ達はゴエモンの顔を知らなかったらしく、競売の一見でゴエモンの顔は多くの面々に知れ渡っていたので現在は素顔の手配書も発行されているのだが、緑の騎士の3人組は知らなかったらしい。
煉瓦の大迷宮にて発生した冒険者の連続失踪事件に盗賊ギルドが関わっているとなると、今回の事件はヒトノ国側にも報告する必要があった。すぐにルイは立ち上がると、冒険者ギルドだけではなく、王城の方にも連絡を送る事を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます