第416話 その後……

――動かなくなったゴブリンキングからレナは拳を引き抜くと、自分の身体が血に染まっている事に気付く。但し、それは自分の血ではなく返り血である事をすぐに理解した。


限界まで付与魔法を施した影響か、それとも攻撃の際の衝撃のせいか、レナは右腕に激痛を覚える。右腕を抑えながらもレナはゴブリンキングから離れると、周囲に存在するホブゴブリンに気付く。



『ギッ……ギィアアアアッ!?』

「あ、おい!?」

「……逃げた」

「そりゃ、逃げるだろうな……」



自分達の主であるはずのゴブリンキングが倒されたというのにホブゴブリン達は恐怖に怯え、そのまま逃走を開始した。その様子を見ていたコネコ達は呆気に取られるが、今は追いかけるよりも前にレナの安否の心配をする。



「レナ君!?大丈夫!?」

「兄ちゃん、怪我は大丈夫か!?」

「ああ、ちょっと腕が痛むぐらいで……ぐうっ!?」

「……腕が折れてる、すぐに治療が必要」

「なんだって!?お、おい、誰か回復薬は持ってないのか!?」



シノがレナの右腕を掴むと、骨が折れている事に気付いて眉を顰め、慌ててデブリが回復役を誰か所持していないのかを尋ねる。すぐに全員が回復薬を探すが、ここでナオが動く。



「僕に見せてください」

「ナオ君?」

「そうですわ!!ナオは「気功」を使えましたわ!!」

「気功……それって確か、格闘家や拳闘家の人が扱える回復術だったよね?」

「はい、といっても僕の力ではせいぜい打撲程度しか治せませんけど……痛みを抑えるぐらい事は出来ます」



ナオがレナの腕に両手を伸ばすと、彼女は意識を集中させて体内の「気」を放ち、やがて掌から緑色の光が零れ落ちる。治癒魔導士の扱う回復魔法と似通っているが、回復力に関しては劣るらしく、残念ながらレナの骨折は治せない。


だが、気功のお陰でレナは痛み止めを打たれたかのように痛みが治まり、一息を吐く。ナオの気功によって腕の痛みが引くと、レナは冷静に周囲を見渡して状況を確認する。



「……俺達の勝ち、だよね」

「ええ、紛れもなく私達の勝利ですわ!!」

「ゴブリンの親玉は倒した、残りの敵も逃げ出した」

「良かったな兄ちゃん!!街を守れたぞ!!」

「そうだよ、レナ君のお陰で皆が助かったんだよ!!」



仲間達の言葉を聞いてレナはイチノを守るためにここへ訪れた事を思い出す。そして同時に自分の村を支配していたゴブリン達を壊滅させた事を意味した。


ここに集まったホブゴブリンの軍勢はレナの村を支配し、勢力を拡大化させてイチノに攻め入った。だが、レナ達の活躍によってゴブリンキングは討ち取られ、残ったホブゴブリン達も逃げ出した。それを意味するのはレナの「目的」が果たされた事を意味する。



(……やったよ、じーじ、ばーば)



自分を育ててくれた老夫婦、他にも世話になった村人たちの事を思い返しながらレナは座り込む。今までずっと背負ってきた「復讐」という重荷が消えたような感覚に陥り、遂にレナは村を支配した魔物達を打ち倒す事に成功した。



「おい、大丈夫か?無理もないか……あれだけ戦ったんだ、疲れても仕方ないな」

「そういえば私も魔力を使い果たしてしまいましたわ」

「僕達もそろそろ限界……ヒリューも痛かったよね?」

「シャアアッ……」

「はあっ……流石にあたしも走りすぎて足が疲れた」



全員がホブゴブリン達との戦闘で疲労困憊の状態に陥っており、自然と皆で背中を合わせるように座り込む。戦闘時間を考えれば実はそれほど長くは戦っていないが、全員が全力を出し尽くして戦った。レナは座り込んだ仲間達に視線を向け、無意識に呟く。



「ありがとう皆……一緒に戦ってくれて」

『どういたしまして』



レナの言葉に全員が声を揃えて返すと、全員が声をぴったりに合わせた事に驚き、すぐに笑い声をあげる。そんな仲間達を見てレナは安堵感に包まれ、自分が一人ではない事を理解する。


小さい頃に家族を失い、イチノで冒険者になって頑張って一人で暮らし続けたレナは心の何処かで他人に甘えてはならないと考えていた。勿論、子供であるレナは他人に力を借りなければならない場面はあった。それでも殆どの事は自分一人で解決しようと頑張ってきた。


しかし、今のレナには力を借りても文句を言わず、逆に手を差し伸べてくれる頼もしく優しい仲間達に囲まれていた。もしもこの仲間達に出会えなかったらと考えると、レナは自分がきっと復讐だけに捕らわれた人生を生きてきただろうと考える。



(皆がいてくれたから勝てたんだ……じーじ、ばーば、友達ってやっぱりいいものだね)



もしも皆がいなければ、レナが一人で生き抜こうとしていたら、きっと彼の目的は果たされる事は無かっただろう。膨大な数と力を持つゴブリンの軍勢に一人で挑み、殺されていたかもしれない。しかし、現実のレナは友達という仲間を得て目的を達成した。その事実を噛みしめてレナは亡き両親に友達が出来た事を報告した――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る