閑話 他の城壁では……

――時は遡り、レナ達が南側の城壁に攻め寄せ来たホブゴブリンの軍勢と交戦していた頃、他の城壁でも激しい戦闘が繰り広げられていた。最も攻め寄せられていたのは南側である事は事実だが、他の城壁でも激しい戦闘が繰り広げられていた。



『おらぁあああっ!!その程度かゴブリンどもがぁっ!!』

「グギィッ!?」

「ギャアッ!?」

「ギギィッ!?」



西側の城壁では黄金級冒険者のカツが戦斧を振り回し、次々とホブゴブリンを薙ぎ払う。その強さは正に一騎当千であり、その光景を見ていた城壁の兵士達は唐突に現れた謎の援軍に驚く。



「す、凄い……なんて強さだ!!」

「何者なんだ!?」

「さっき、空を飛ぶ馬に乗っていたように見えたが……」

『おいおい、味方が来たからって安心してるんじゃねえよっ!!あんたらも戦いなっ!!』

「お、おう!!誰だか知らないが、助かったよ!!」



カツは戦斧でホブゴブリンを薙ぎ払いながら兵士に注意すると、慌てて他の者達も武器を取って最後まで抵抗を行う。その一方でカツと共に城壁に降り立ったイルミナは両手の人差し指に嵌めた「指輪」に視線を向けると、指輪に装着させた魔石を利用して魔法を発動させる。



「ダブル・マジック……マジック・アロー!!」

『グギャアアアッ!?』



イルミナが両手を伸ばした瞬間、二つの魔法陣が掌の前に現れ、複数の属性の魔力の塊が放たれる。砲撃魔法の中でも「連射」に優れた魔法であり、その1発の1発の威力はホブゴブリンの肉体を軽く吹き飛ばし、次々と地上の軍勢を蹴散らす。


黄金級冒険者であるイルミナは「砲撃魔導士」であり、彼女の魔法の才能は団長であるルイにも劣らない。世間の間ではイルミナこそがヒトノ国の中でもマドウやサブに次ぐ魔術師だと認識され、実際に彼女の扱う魔法の威力は並みの魔術師の比ではない――






――同時刻、北の城壁においても異変が起きており、突如として上空に現れた馬車から巨人族のダンゾウが地上へと降りる。彼の体格と威圧感だけでもホブゴブリン達は恐怖を抱き、碌に身体が動けずにいた。だが、いくら相手が恐ろしい風貌をしていると言っても数は一人にしか過ぎず、意を決したホブゴブリンの1匹が号令を行う。



「ギギギギッ!!」

『グギィイイッ!!』

「……来るか」



周囲から押し寄せて来たホブゴブリンの軍勢に対し、ダンゾウはゆっくりと背中に装備した巨大な二つの棍棒を構えると、目元を鋭く変化させて一気に振り翳す。




――があっ!!




まるで獣の咆哮の如き声を上げた瞬間、ダンゾウの両腕が消えてなくなる。正確に言えばあまりの速度で目視出来ず、次の瞬間には振りぬかれた棍棒がホブゴブリンの大群を吹き飛ばした。



『グギィイイイッ……!?』



攻撃を受けたホブゴブリン達は何が起きたのかが理解出来ず、攻撃を受けた後に自分達が攻撃を喰らった事を認識した。あまりの攻撃の速度に避けるどころか身体が反応も出来ず、数十体のホブゴブリン達は一撃で吹き飛ぶ。


そのあまりのダンゾウの強さに襲いかかろうとした他のホブゴブリン達は止まり、下手をしたら自分達が主人と認める「ゴブリンキング」に匹敵するかもしれない力を持つダンゾウに恐れおののく。その姿を見てダンゾウは困り果てたように鼻を鳴らす。



「ふうっ……向かってくるものならば遠慮なく倒せるんだが、怯えている奴を倒すのはどうもやりにくい」



ダンゾウは上空に視線を向け、こちらの様子を伺う魔術師達に合図を行う。すると天馬に乗っていた二人の魔術師はダンゾウの意を汲み取り、城壁の防衛へ向かう。そしてダンゾウ自身は怯え切って碌に動こうとしないホブゴブリン達と向かい合う。



「悪いが、お前等は逃す事は出来ない……人に手を出した事を後悔して逝け」



それは事実上のホブゴブリン達の「死刑宣告」であり、ダンゾウは言葉通りに1匹も残さずにホブゴブリンを殲滅した――






――その一方、最後の東側の城壁では6名の魔術師が降り立ち、彼等は次々と押し寄せてくるホブゴブリンの大群に対して必死に対応していた。



「くそ、どんだけいるんだこいつら!?」

「喋っている暇があったら、攻撃に集中しろ……!!」

「も、もう無理だ……魔力が、もう限界だ……!!」



城壁ではブラン、シュリ、シデの3人がそれぞれの魔法を発動させ、城壁を登ろうとするホブゴブリンを蹴散らす。一方で地上の方ではツルギとヒリンがホブゴブリンを相手に剣と拳で相手をしていた。



「ひゃっはぁっ!!丁度いい練習相手だ!!新技の練習台にうってつけだなおい!!」

「グギギギッ……!?」

『……相変わらず、態度の変化が凄い奴だ』



ヒリンは服を脱ぐと獣人族顔負けの身体能力を発揮し、巨人族を思わせる腕力で捕まえたホブゴブリンの頭を両脇に抱えると、そのまま首をへし折る。その様子を魔剣を装備したツルギが魔法剣でホブゴブリンを切り捨てながら呆れた表情を浮かべる。


一方で城壁の別の場所ではヘンリーが意識を集中させ、広域魔法の発動の準備を行う。彼は十分に魔力が蓄積したのを確認すると、杖を掲げて雷を放つ。



「い、いきます!!サンダーレイン!!」

『グゲェエエエッ!?』



戦場の上空に黄色の魔法陣が展開され、無数の雷が降り注ぐとホブゴブリンの大部分を蹴散らす。だが、地上に存在したヒリンとツルギも巻き込まれ、二人の身体にも電撃が降り注ぐ。



「「あばばばっ!?」」

「おい待て!!ツルギとヒリンも巻き込む奴があるか馬鹿!?」

「はわっ!?ま、また僕なにかやらかしちゃいましたっ!?」

「やらかしたんだよ馬鹿野郎!!」

『なんだこいつら……(城壁の兵士達の心の声)』



ブランのツッコミが戦場に響き渡り、結局は街の防衛には成功したが、尊い犠牲が2名も出てしまった……

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