第412話 怪力無双

ゴブリンキングは草原に存在する全ての生物を敵と認識し、真っ先にゴブリンキングが標的に定めたのは「人間」であるレナ達であった。幼少期から人間を侮るなと教育を受けてきたゴブリンキングだが、今は怒りに我を忘れて襲いかかる。



『グガァアアアッ!!』

「なっ!?全員、僕の後ろに下がれ!!」

「デブリ君!?」



右腕を大きく振り翳したゴブリンキングに対してデブリは両手を構えると、しっかりと足の指を地面に食い込ませて正面から受け止めようと構える。彼の言う通りに全員がデブリの後ろへと避難すると、ゴブリンキングは右拳を打ち抜く。



『フゥンッ!!』

「ぐぅっ……ああああっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」



デブリはゴブリンキングの右拳を受けた瞬間、あまりの強烈な衝撃に身体が浮き上がり、そのまま10メートル以上も吹き飛ばされてしまう。デブリの体重は軽く見積もっても100キロは超えているが、そんな彼を吹き飛ばしたゴブリンキングの腕力にレナ達は背筋が凍り付く。


恐らくはミノタウロスやブロックゴーレムを上回る膂力を誇るゴブリンキングに対し、もしもデブリが盾とならなければ今の一撃でレナ達は戦闘不能に陥っていたかもしれない。だが、ゴブリンキングはすぐに体勢を立て直すと、今度は左腕を上空に掲げて拳を上から叩きつけようとした。



『グガァッ!!』

「レナさん、危ない!!回し受けっ!!」

『グギャッ!?』



レナに目掛けて拳が振り落とされ、その攻撃速度を見てレナは避けきれないと判断すると一か八か受け止めるために両手を構えた。しかし、拳が振り下ろされる前にナオが駆けつけ、彼女は両手を構えて正面から受け流す。


ナオは上空から繰り出された拳に対して右腕を「円」を描くように動かすと、振り下ろされた拳を横方向へと攻撃を反らす。その結果、受け流された拳は地面へとめり込み、周囲に地震を想像させる振動が走った。



「す、すげぇっ!!ナオの姉ちゃん!!」

「流石はナオですわ!!」

「本当に凄い……けど、喜んでる場合じゃなさそう」



コネコ達はナオが攻撃を受け流した事に驚くが、一方でナオの方は右腕を抑えて苦痛の表情を浮かべていた。その腕にはくっきりと痣が残っており、完全には攻撃を受け流せずに負傷したらしい。


一方でゴブリンキングの方はめり込んだ拳を引き抜くと血走った目を見せつけ、今度は右足を振り翳す。それを見たレナは咄嗟にナオの身体を掴んで瞬間加速を発動させて回避行動に移る。



「危ないナオ君!!」

「あうっ!?」

『グガァッ!!』



ゴブリンキングの前蹴りから回避する事に成功したが、攻撃が空振りするだけで砂埃が発生し、レナ達の視界を奪う。見た目通りの凄まじい攻撃力を発揮するだけではなく、移動速度も素早いゴブリンキングに対してレナ達は防戦を強いられた。



「くそ、このデカブツ!!」

「ヒリュー!!行くよ!!」

「シャアアッ!!」

「待ってください!!迂闊に近づくのは危険過ぎますわ!?」



コネコがバトルブーツを発動させて加速し、ミナは飛竜に乗り込んで挑もうとするとドリスが慌てて引き留めようとした。しかし、砂煙を振り払いながらゴブリンキングは今度は両腕を振り上げて拳を叩きつけようとする。


正面から向かってきた飛竜に対してゴブリンキングは腕を振り下ろそうとすると、咄嗟にミナは飛竜を離れさせようとした。しかし、その前に加速したコネコがゴブリンキングの裏側に移動すると、右足の膝裏に向けて飛び蹴りを喰らわせた。



「喰らいやがれっ!!秘技、膝かっくん!!」

『オオッ!?』



飛竜に拳が衝突する寸前にコネコが飛び蹴りを喰らわせた事により、ゴブリンキングは体勢を崩して攻撃の軌道が大きく変化する。その結果、拳の先が飛竜を掠めた程度となり、ゴブリンキングは膝を付く。



「うわぁあああっ!?」

「シャアアッ!?」



しかし、拳を掠めただけとはいえ、想像以上の衝撃が飛竜とその背中に乗るミナに襲いかかり、二人はそのまま地面に墜落してしまう。それを見たドリスは目を見開き、同時に怒りを抱く。



「このっ……いい加減にしなさい!!これ以上に私の仲間は傷つけませんわ!!」

「ドリス!!こいつの視界を封じて!!」

四重強化クワトロ……!!」



先ほど攻撃を回避したレナとナオもゴブリンキングの左右から接近し、攻撃の準備を行う。二人の行動の意図を読んだドリスは自分にゴブリンキングの注意を引くために両手に炎を纏わせ、合成魔術を発動させる。



「火炎槍!!」

「崩拳!!」

「昇撃!!」

『ッ……!?』



ドリスは顔面、ナオは右足、レナは跳躍して腹部に狙いを定め、同時に三方向から攻撃を仕掛ける。その攻撃に対してゴブリンキングは躱す事が出来ずに直撃した。

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