第388話 金色の隼の判断

「あの馬車……こっちに向かってないか?」

「というか、あの白馬……なんか翼生えてないか!?」



ダリルの屋敷の前に背中に翼を生やした白馬が引いた馬車が停車すると、即座に扉が開かれて金色の隼の団長であるルイ、副団長のイルミナ、そして黄金級冒険者のカツが姿を現した。


3人の登場にレナ達は驚くと、ルイは屋敷の外に待ち構えていたレナ達を見て自分達を迎えるために待機していたのかと判断して頭を下げる。



「遅れて申し訳ありません、イルミナから話は伺い、どうしても待ちきれずに直々に屋敷に赴いた非礼をお許しください」

「えっ!?い、いや……別に気にしてませんよ!?」



迎えの馬車を送ると言われていたダリルは団長のルイ自身が屋敷に訪れた事に動揺するが、慌てて屋敷の中へと案内を行う。ルイ達はそれに続き、レナ達はその後姿を見送って呆然とするが、ダリルは慌ててレナを呼び出す。



「お、おいレナ!!早く来い、お前があれを持ってるんだろうが……!!」

「あ、そうか……ごめん、皆はここで待っててくれる?」

「え、ええっ……分かりましたわ」



ヒヒイロカネのネックレスを預かっているレナも慌てて屋敷の中に入ると、ダリルと共に金色の隼と交渉に参加する――






――屋敷の一室にてレナとダリルは机を挟んで3人と向かい合い、しばらくの間は黙り込む。ダリルは困った表情でレナを見つめるが、そんな視線を向けられてもレナの方も困り、やがて覚悟を決めたようにダリルが話しかけた。



「あ、あの、本日はどのようなご用件で……」

「用件、ですか?勿論、今回の依頼の件を話し合うためです」

「そ、そうですよね!!変な事を言ってすいません!!」



ルイの言葉にダリルは自分でも何を言っているのか分からくなり、一先ずはお茶を飲んで心を落ち着かせる。その間にレナの方はイルミナとカツに視線を向けると、どちらもルイの顔をチラチラと覗き、反応を伺っている様子だった。


2人の反応に違和感を感じながらもレナはルイに視線を向けると、彼女は何故かじっとレナの胸元に視線を向けていた。そのルイの態度にレナは戸惑うが、すぐに自分が身に着けているヒヒイロカネのネックレスを思い出す。



(あ、そうか……報酬の品物を俺が身に着けている事が気になるのかな?まずい、ちゃんと外しておくべきだった)



レナは自分がヒヒイロカネのネックレスを身に着けていた事を思い出すと、慌てて取り外して机の上に置く。その行為にルイは目を見開き、心を落ち着かせるように瞼を閉じてしばらく黙ると、意を決したように目を開く。



「話は副団長のイルミナから伺っている……います、私達にイチノ地方に出現したホブゴブリンの軍勢の討伐を依頼したいという事であっているか……いますか?」

「え、あ、はい!!その通りです!!」

「……?」



ルイの話し方にレナは疑問を抱くが、ダリルの方は彼女のあまりの迫力に圧されて気付いた様子はなく、必死に頷く。そんな彼の言葉を聞いてルイは腕を組み、イルミナに問いただす。



「イルミナ、報酬の再確認を」

「あ、はい……事前の話し合いではダリル様が支払われる報酬は金貨500枚、この屋敷の権利書、そしてヒヒイロカネのネックレスです。事前にゴマン伯爵家のシデ殿から話を伺いましたが、確かにネックレスの所有権はダリル様が預かっているコネコ殿に譲ったと確認が取れました」

「ふむ、つまり私達が依頼を引き受ければ得られるのは金貨500枚、それと権利書を売却して得られる金額を含めれば恐らくは600枚と推定、ヒヒイロカネのネックレス……これらを合わせれば恐らくは金貨1200枚相当の報酬が得られるか」

『おい、団長……地が出てるぞ』

「おっと、これはすまない。久々にやりがいのある仕事が出来そうで素に戻ってしまったよ」

「え、えっ……!?」

「素という事は……それがルイ団長の本当の話し方何ですか?」



カツに指摘されたルイは口元に笑みを浮かべ、その場で足を組む。これまでに何度かレナとダリルはルイと顔合わせしたが、彼女らしからぬ態度と言葉遣いに戸惑う。だが、イルミナとカツは特にルイの変化に驚いた反応を示さず、どうやらこれが彼女の正体らしい。



「申し訳ない、あまりの興奮に演技を忘れてしまったよ。気分を害したようなら謝るよ」

「ルイ団長……とても謝罪する人間の態度には見えません」

『たくっ……団長が時々、二重人格者じゃないかと疑うぜ』

「え、あの……えっ!?」

「ダリルさん、落ち着いて……こっちは気にしてなんかいません。そのまま楽にして下さい」

「ふむ、そういう事なら有難くこのまま話をさせてもらうよ。悪いね、どうも素の私だと中々受け入れてくれない人間が多くて、普段は猫を被って人と接しているんだ」



ルイは正体が判明すると隠すのも面倒になったのかわざとらしいため息を吐き出し、改めて交渉を行う。

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