第387話 約束

「……何言ってんの?当たり前だよ、まだ卒業もしていないのに離れるわけないよ」

「そ、そうだよね!!ごめんね、変な事を言って……」

「レナ様が魔法学園に戻らないなどあり得ませんわね!!」

「そうそう、変な事を聞くなよ姉ちゃん!!」



しかし、レナは無意識に王都へ戻る事を口にしていた。その言葉を聞いてミナは安心した表情を浮かべ、普段は無表情のシノでさえも安堵した様に口元を緩ませる。


皆の笑顔を見てレナは安心させるように笑顔を浮かべ、同時にある事に気付く。今までレナは復讐を果たした後の事など敢えて考えていなかった。復讐を果たす事だけに集中し、その先の事など考えもしようとしなかった。しかし、ミナ達と共に過ごす時間が長引くほど、この王都に愛着が湧いてしまう。


今回の一件でレナが復讐を果たしたとしてもイチノには戻らず、魔法学園を卒業するまでの間は王都へ残りたいという気持ちを抱く。色々とあったが、この王都はレナにとってはイチノの街と同じように思い入れがある大切な場所と化しており、必ずここへ戻る事を誓う。



「……レナ、イチノへ向かうなら私達も連れて行って欲しい」

「え?」

「あ、それ良いな!!あたしも兄ちゃんがどんな場所で育ったのか気になってたんだ!!一緒に連れてってくれよ!!」

「そうですわね、微力ながらも私達もレナさんのお役に立ちたいですわ」

「僕も友人として放ってはおけません。一緒に行きます」

「そ、それなら僕も行くぞ!!魔物の軍勢が何だってんだ、僕達が揃えばあのブロックゴーレムやミノタウロスだって敵じゃないんだ!!」

「そうだね……うん、僕達も一緒に行くよ!!それで皆一緒に帰ろうよ、王都に!!」

「お、おいおい、お前等……急に何を言い出すんだよ。そう簡単に連れて行ってくれるかも分からないのに……第一、そんな大事なことを勝手に決めていいのか?親御さんになんて説明するんだ?」



自分達も同行すると言い出したミナ達にダリルは慌てふためくが、彼等の決意は固く、同行する意思を曲げるつもりはなかった。



「僕は誰に何と言われようと付いていくよ!!立派な王国騎士を目指す以上、友達を見捨てるような真似は出来ないもん!!」

「当然、あたしも一緒だな!!兄ちゃんの義兄妹として付いてくぞ!!」

「僕も行くぞ!!魔物の軍勢だろうと何だろうと、親友を見捨てる事なんかできるか!!」

「レナには色々と助けてもらった。だから、今度は私が恩返しする番」

「当然、私もですわ!!丁度新しい魔法を試そうと思っていた所ですから気にしないでくださいましっ!!」

「ドリスが行くなら僕も一緒です。それにレナさんには借りがあるので、その借りを返すまでは逃がしません」

「皆……でも、これから行く場所は危険だよ?もしかしたら命を落とすかも……」

『何を今更?』



何度もレナと行動を共にしている間、命の危機に陥ったミナ達からすればレナの言葉はあまりにも今更感が半端ない言葉だった。全員に言い返されたレナは呆気に取られるが、やがて苦笑いを浮かべる。



「けど、一緒に行けるかどうかは金色の隼の相談次第だからさ、だから無理だと言われたら諦めるしかないかも」

「あ、そっか……断られたら流石にどうしようもないよね」

「でも、兄ちゃんも一緒に行くのは駄目だと言われるんじゃないの?」

「それはないと思うよ。だって、今回の依頼はイチノまで行くんだよ?誰かが確認しない限りは依頼を果たした事は証明出来ないからさ」

「なるほど、言われてみれば確かに……あ、そうだ!!」

「どうした姉ちゃん?」

「ごめん、僕一旦叔父さんの家に戻るね!!すぐに戻ってくるから!!」

「え、ちょっ……どうしたんだよ姉ちゃん!?」



レナの言葉に他の者達は納得する一方、自分達だけが置いて行かれる可能性もある事を知ったミナは眉を顰め、すぐに何かを思い出したのか立ち上がり、玄関へと向かう。


そんな彼女の行動にレナ達は驚いて後を追いかけようとしたが、玄関から外に飛び出したミナは立ち止まらず、そのまま屋敷を抜け出してしまう。その後ろ姿をレナ達は見送る事しか出来ず、ドリスは戸惑う。



「み、ミナさん……急にどうしたんでしょうか?」

「分からないけど……何か急いでいた様子だったね」

「まあ、ミナの姉ちゃんの事だから大丈夫だろ。それより、ちょっとあたしも眠くなってきたな……馬車が来るまで家の中で昼寝するわ」

「今は昼じゃないから朝寝」

「それもそうだな……半端に眠ったせいで余計に眠くなってきた。ふああっ……腹も減って来た」

「それはいつもの事でしょ」



街道を走り去ったミナを見送った後、レナ達は屋敷に戻って身体を休ませようとした時、ミナが走り去った反対方向の道から馬の足音が鳴り響く。全員が振り返ると、そこには全速力で駆けつける馬車の姿が存在した。

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