第299話 舐めるな

「……おい、もう僕は我慢できないぞ」

「そうですね、僕も限界です」

「よし、やろう」

『おっ?まだやるのか?』



レナは両手を握り締め、ナオとデブリもそれに習うように首の骨を鳴らすと、カツもやっと本気で戦うつもりかと身構える。そんな彼に対して真っ先に動いたのはデブリであり、彼はその場で四股を行う。



「ふんっ!!」

『うおっ!?』



デブリが足を踏みつけただけで軽い振動が走るとカツは驚いた声を、直後にデブリはカツに対して突進する



「どすこいっ!!」

『どす……!?』



突進してきたデブリに対してカツは大盾を構えて受け止めようとした瞬間、予想外の強烈な衝撃が身体に走り、カツの肉体が後方へ押し込まれる。


カツの体重は甲冑と武器を合わせれば軽く100キロは超えるのだが、まるで大型トラックの如くデブリはカツを押し込む。先ほどカツもデブリを吹き飛ばしたときは怪力ぶりをみせたが、今度はデブリの方がカツを上回る怪力で押し込む。



「うおおおおっ!!」

『な、何だと……ぐおっ!?』

「カツさん!?」

「そ、そんな馬鹿なっ!?」



鉄柵に背中から叩きつけられる形になったカツを見て兵士達は動揺し、あの黄金級冒険者が追い込まれているという事実に信じられない表情を浮かべる。


しかもデブリの攻撃はそれだけに留まらず、彼は気合の込めた雄たけびを上げながらカツの身体を持ち上げようとした。



「うおりゃああああっ!!」

『がはっ!?』



今度は地面に叩きつけられたカツは甲冑越しに衝撃を味わい、苦痛の声を上げる。いくら頑丈な甲冑に身を包んでい様と衝撃を与えれば痛みを感じないわけではなく、決して無敵ではない。


自分の力でカツを地面に叩き伏せたデブリは満足した様に鼻息を鳴らし、すぐに起き上がろうとしたカツに対して続けて今度はナオが挑む。



「発勁!!」

『うぐっ!?そ、その程度……』

「連勁!!」

『ぐあっ!?』



発勁によって鎧の内側に存在するカツの肉体に衝撃を与え、更に続けて発勁を繰り出す事で2倍の威力を引き出す。


頑丈な鎧に身を包んでいるカツは久々の肉体への衝撃にふらつき、それを逃さずにナオはカツの腕を掴むと、背負い投げの要領でカツの身体を地面へ叩きつけた。



「ちぇりゃあっ!!」

『ぬあっ!?』

「か、カツさん!!」

「嘘だろ、何だあいつら!?」



デブリだけではなく、ナオによってカツが地面に叩きつけられた事で兵士達は悲鳴を上げ、黄金級の冒険者が動いた事で取り戻した士気も落ちてしまう。一方でカツの方もデブリとナオの予想外の底力に戸惑い、その一方で嬉しく思う。


久々に魔物以外の相手で、自分をここまで追い詰める敵に巡り合えた事にカツは感動を覚えていた。しかも相手は声の質と体格を見ても子供である事は間違いなく、彼は鎧の中で笑みを浮かべて立ち上がろうとした。



『へへ、中々楽しませてくれそうだな……だが、何時までも調子に乗ってんじゃねえっ!!』

「あっ……」

「おい、後ろ……」

『ああっ!?そんな手に引っ掛かると思って……』

「あの~すいません」



立ち上がったカツに対してナオとデブリは彼の後方を指差すと、背後から少年の声が響き、何事だとカツは振り返る。




――カツの視界の先には巨人族のダイゴが所有していた巨大な棍棒を持ち上げたレナが存在し、明らかに自分よりも巨大で重量もある棍棒を軽々と持ち上げたレナを見てカツは呆気に取られ、そんな彼に対してレナは棍棒を抱えたまま跳躍を行う。




空中にて棍棒を抱えたレナはカツに狙いを定め、付与魔法を施す。そして通常よりも重量を増加させた棍棒をカツの頭上から振り下ろした。



「必殺、他人の武器攻撃!!」

『ちょ、おまっ……ぎゃあああっ!?』

「か、カツさぁあああんっ!?」



棍棒を上空から叩きつけられたカツは手にしていた大盾とランスが弾かれ、そのまま地面にめり込む。恐らくは彼の人生の中でも最大級の衝撃を受けた事は間違いなく、レナが棍棒を持ち上げるとそこには地面に埋もれたカツの姿が存在した。


攻撃をまともに受けたカツは気絶したのか動く様子はなく、その間にレナは棍棒を手放すとナオとデブリに頷き、今度こそ逃走を開始した。



『あ、がっ……』

「うわ、えげつないな……あれ?甲冑は壊れてないぞ」

「恐らく、普通の甲冑ではないのでしょう。しかし、あれほどの衝撃を受けて凹んですらいないとは……」

「けど、中の人は気絶したみたいだね」

「よし、じゃあ逃げようか」

「そうですね」

「ふうっ……また走るのか、面倒だな」




3人は同時に駆け出すと屋敷の人間は慌ててカツの元へ駆けつけ、彼がまだ生きている事を確認すると立ち去る3人の後ろ姿を見て追跡しようとした。



「に、逃がすな!!追え、追うんだ!!」

「追えって……追ってどうするんだ?」

「黄金級の冒険者でも敵わない相手だぞ?俺達で何が出来るというんだ……」

「……そ、それもそうだな」



だが、カツがやられた事で心が折れた兵士達は何も出来ず、結局は地面に埋もれたカツを運び出し、彼の治療に専念する事しか出来なかった。


その後、駆けつけてきたカーネに賊を取り逃したという事に激怒し、大量の傭兵と私兵を解雇する事になるのだが、彼等としても得体の知れない輩にカーネが狙われていると知って好きで彼に仕える者はおらず、結局は大勢の人間が自主退職を行う事になる――

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