第216話 謎の助っ人

「正義の盗賊、ネココ!!」

「忍ばない忍者、シノビー」

「えっと……と、通りすがりの助っ人、ミーナ!!」

『…………』



屋根の上に唐突に現れ、謎のポーズを行う3人組に対して兵士達は黙り込み、レナも言葉が出ない。一応は正体を隠すために変装をしてきたと思われるが、知り合いからすれば明らかにバレバレの変装だった。


唐突に現れた謎の少女たちに兵士達は唖然とするが、正体を知っているレナでさえも反応に困る。しかし、兵士の一人がやっと侵入者が現れた事を理解して慌てふためきながらも叫ぶ。



「な、何者だお前等!?」

「我等、正義の三人衆……悪徳貴族、ゴマンの不正を正すために訪れた」

「何の罪もないレナ……じゃなくて、そこの男の子を連れ出した事も知っているよ!!」

「さあ、そこの兄ちゃん!!ここはあたし達に任せて早く行きな!!」

「ええっ……」



3人組は屋根から飛び降りるとレナと兵士の間に割って入り、臨戦態勢に入る。唐突に現れた侵入者に兵士達は警戒心を抱くが、やがて一人の兵士がシノに向かう。



「怪しい奴等め、覚悟しろっ!!」

「おっと」

「えっ……うわぁっ!?」



槍を突き出そうとしてきた兵士に対してシノは両手に手にしていた短剣を翳すと、凄まじい速度で槍をバラバラに切り裂く。あまりの手つきの素早さに兵士達は驚き、レナ達でさえも彼女の攻撃に目で追いつくのがやっとだった。


足の早さならばコネコが上回るが、両腕を使った動作に関してはシノの右に出る物はなく、彼女は短剣を両手で構えると素早い動作で次々と兵士達の槍を切り裂く。



「戦技、乱切り」

「うおおっ!?」

「うわっ!?」

「お、俺の槍がぁっ!?」



次々と槍を破壊された兵士達は悲鳴をあげ、最後の一人に関してはシノは槍を奪い取るとミナに手渡し、彼女は槍を受けとった瞬間に手元で回転させながら兵士達の顔面を打ち抜く。



「大車輪!!」

「ぐえっ!?」

「はぐっ!?」

「ぎゃああああっ!?」



過去にムノーのファイアボールやドリスの火球の魔法を防いだ事もある防御用の戦技だが、使い方によっては攻撃にも利用する事が出来るらしく、ミナは次々と兵士達を薙ぎ払う。


恐らくは兵士達は称号持ちの人間はおらず、次々とシノとミナによって打ち倒されていく。その様子を見て感化されたコネコも軽く準備体操を行うと、兵士達に目掛けて駆け出す。



「行くぞ!!回転脚!!」

「ぐへぇっ!?」

「があっ!?」

「ぶへぇっ!?」

「おおっ……いつの間にそんな技を覚えてたの?」



レナの知らない間にコネコも戦技を習得していたらしく、彼女は空中に跳躍すると兵士達の顔面を蹴り飛ばし、蹴りつけた際の衝撃を利用して身体を回転させながら空中を飛ぶ。


体格的にもあまり戦闘には向かないと思われているコネコだったが、彼女の速度から繰り出される蹴り技の威力は決して馬鹿には出来ない。


シノに武器を破壊され、ミナとコネコの猛攻を受けた兵士達は地面に転倒し、だいたい半数近くの味方が倒れたところで兵士達は慌てて距離を取る。そして弓矢を用意すると、レナ達に警告を行う。



「そこを動くな!!動けばこのまま射るぞ!!」

「いくらお前達が強かろうと、この距離でこれだけの数の矢を撃たれればひとたまりもあるまい!!」

「うわっと……流石に調子に乗り過ぎたか」

「レナ君、私達の後ろに下がって!!」

「あ、普通に名前言っちゃったよ……」



弓を構えた兵士達に対してコネコ達はレナを庇う様に前を出ると、兵士達は緊張した面持ちで矢を弦に番え、一斉に放つ。



「撃て!!」

『はっ!!』



年長の兵士の言葉に呼応して弓を構えていた兵士達が次々と矢を放ち、レナ達の元へ向かう。しかし、それを予測していたかのようにミナとシノが動き出す。


シノは短剣を構えると迫りくる矢の鏃の部分を刃で弾き返し、一方でミナの方は槍を回転させて撃ち落とす。一般人が放った矢など戦闘職の人間から見れば止まったように見えるため、迫りくる矢を全て防御した。



「遅いっ」

「はああっ!!」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「ひ、怯むな!!撃ち続けろ!!いずれ体力が尽きるはずだ!!」



大量の矢を全て打ち落とすミナとシノに対して兵士達は驚愕の表情を浮かべ、慌てて弓兵は新しい矢を用意しようとした。しかし、それを見越してレナも動くと彼は先の戦闘で倒れた兵士達の鎧に手を伸ばす。


レナは付与魔法を施して兵士達の鎧に重力を加えると、鎧を身に着けた兵士ごと浮上させ、弓兵に向けて吹き飛ばす。



「喰らえっ!!」

『うわぁあああっ!?』

『ぎゃああああっ!?』



兵士同士が衝突して敷地内に悲鳴が上がり、やがて全ての兵士が倒れるのを確認すると、レナは安堵する。そして助けに来てくれた3人に振り返り、礼を言う。



「ありがとう皆……じゃなくて、通りすがりの助っ人のネココ、シノビー、ミーナさん」

「あ、名前覚えていてくれたんだ……」

「気にしなくていい、私達は通りすがりの正義の味方、礼は不要」

「そうそう、ちなみに助っ人料として今日の昼めしは兄ちゃんの奢りだぞ」

「え、お金取るの!?」



安全を確保した事でレナ達が雑談を行っていると、屋敷の玄関が開け放たれ、汗だくのゴマン伯爵と私兵達の隊長を勤める男が現れる。ゴマンと隊長は倒れている兵士達の姿を見て呆気に取られた表情を浮かべる。



「い、いったい何の騒ぎだ!?」

「こ、これは……!?」

「うわ、なんだこいつ!?オークが現れたかと思ったぞ!?」

「ネココ、それは流石に失礼過ぎるよ……この人がゴマン伯爵だよ」



唐突に現れた二人組にコネコは驚き、レナが説明を行う。そんな彼等を見て状況を察したのか、ゴマンは顔を真っ赤に怒鳴りつけた。

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