第217話 念書
「こ、これは貴様等の仕業か!!許さん、絶対に許さんぞ!!」
「へえ、許さないって、どう許さないんだよ?おっさんもこいつらみたいになりたいのかこらぁっ!?」
「ひいっ!?」
「ネココ……なんかこっちが悪者みたいな気分になるから辞めなさい」
倒れている自分の部下の姿を見て隊長の男は怖気付き、倒れている兵士を見て勝てない相手と理解した様子だった。
しかし、ゴマン伯爵の方は自分の立場をまだ理解していないのか、レナ達に対して唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。
「よ、よくも我が屋敷でこんな真似を……許さん!!貴様等、全員捕まえて牢獄送りりにしてやる!!おい、警備兵を呼んで来い!!」
「それは辞めた方が良い、警備兵を呼び出して困るのは貴方の方だから」
「な、何だと!?」
ゴマンの言葉に対してシノは懐から鍵を取り出すと、彼に対して見せつける。最初は何事かと思ったゴマンであったが、彼はその鍵を見てゆっくりと青ざめる。
「そ、それは!?馬鹿な、どうして貴様がそれを持っている!?」
「さっき、屋敷に侵入した時に回収した。ちなみに金庫の中身も確認している、中に入っていた宝石は既に私が隠している」
「な、何だとぉっ!?」
「宝石?」
鍵をゴマンに放り投げるとシノは自分を捕まえれば彼が保管していた宝石の在処が分からなくなることを告げる。ゴマンは投げ渡された鍵を確認して本物である事を確かめると、顔を青ざめさせた。
どうやら余程大切な宝石が保管されていた鍵らしく、彼はシノの言葉を聞いて先ほどまでの偉そうな態度はどうしたのか身体を震わせる。そんな彼にシノは宝石の隠し場所を教えて欲しければこのまま自分達を見逃すように告げる。
「私達が警備兵に捕まれば宝石の居所は分からなくなる。警備兵に賄賂を渡して宝石の居所を吐かせようとしても無駄、私は絶対に口を割らない」
「き、貴様!!あの宝石が我が伯爵家に残された最後の家宝なんだぞ!?その価値が分かるのか!?」
「なら私達の言う事を聞くしかない。宝石を返して欲しいのならレナにはもう二度と関わらない、そう約束しないと宝石の居場所は教えられない」
「ぐぬぬっ……」
シノの言葉にゴマンは悔し気な表情を浮かべて黙り込み、金庫に保管していた宝石が余程大切な物なのか、悩んだ末に彼は渋々とシノの要求を受け入れた。
「わ、分かった……もう二度と、そこにいる小僧には関わらない。これでいいか!?」
「口約束なんか信用できない、ちゃんと念書を用意して」
「くそっ……おい、羊皮紙を持ってこい!!」
「わ、分かりました……」
ゴマンに命令された隊長の男は慌てて屋敷の中に戻り、すぐに羊皮紙を手にして戻って来た。彼は羊皮紙に今後ゴマン伯爵家はレナに関わらない事を誓うという内容の文章を書き記し、最後に自分の署名と印鑑を押す。
念書を受け取ったシノは内容を確認して特に問題はない事に気付き、伯爵家の証である印鑑もしっかりと刻まれている事を示しながら注意を行う。
「この念書がある限り、貴方達はレナに関わる事は出来ない。もしも約束を破ればこれを大魔導士に提出する。そうなれば伯爵家はどうなるかぐらいは分かる?」
「うぐっ……!!」
「伯爵家の印が押されている以上、この念書が本物である事は証明される。そして内容に反した行為をすれば貴方達は約束を破った只の犯罪者、最悪の場合は貴族の位を剥奪される。もしくは被害者に対して多大な罰金を支払わなければならない」
「わ、分かっておる……!!」
ヒトノ国では貴族だから言っても一般市民に対して非道な行為が許されるわけではなく、罪を犯せば当然だが一般人と同じく罰せられる。だからこそ本来は貴族のゴマンの言う事であろうがレナは彼の言葉に素直に従う道理はない。
念書に署名と印鑑を押した時点でゴマン伯爵はもう二度とレナと関わる事は出来ず、内容を確認したうえでシノも約束通りに宝石の在処を話した。
「宝石を隠している場所は金庫の中、実は鍵を開けたけど中身は取ってない。これも返す」
「なぁっ!?」
「は、嵌めたな貴様!?」
「失礼な、嘘は言っていない。私は確かに金庫を開いて宝石を手に取った後、元の場所に隠している。だから宝石の居所を知っているのは私だけだし、貴方達もそれを信じた」
「うわぁっ……」
「姉ちゃん、やるな……」
「というか、あんな短い間にそんな事をしてたなんて……」
シノの言葉を聞いてゴマン達は呆気に取られ、レナ達も呆れてしまう。しかし、彼女の機転のお陰でレナは念書を手に入れ、これがある限りはゴマン伯爵はレナに手出しは出来ない。
仮にゴマンが脅されたと供述しても念書には彼の署名と侯爵家の証である印鑑が押されている以上は言い逃れは難しい。
念書を受け取ったレナ達は早々に立去ることを決め、レナは自分が所持する懐中時計を確認すると急げばまだ遅刻しない事に気付き、ゴマンに頭を下げて堂々と引きさがる。
「それじゃあ、息子さんにはよろしく伝えておいてください」
「うるさい、早く行けっ!!」
「覚えていろよ……今回の事、絶対に忘れんからな」
「脅しても無駄、この念書がある限り貴方達は何もできない」
「じゃあな、馬鹿貴族!!お尻ぺんぺんだっ!!」
「ちょ、コネ……じゃなくてネココちゃん、行儀が悪いよ」
「「ぐぎぎっ……!!」」
堂々と門から立ち去っていくレナ達に対してゴマンと隊長、そして倒された兵士達は悔しげな表情で見送ることしか出来なかった。
一方でレナは部屋に引き籠ったというシデの事は気になったが、今の自分が何をしても彼のプライドを傷つけるだけだと判断して立ち去ることしか出来なかった――
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