第201話 魔剣

「ふん、これが気になるのか?まあ、そうだろうな。お前等のような一般人が目にする事がない魔道具だからな」

「それは剣なんですか?」

「違う、「魔剣」だ」

「魔剣?」



レナの言葉にサブの弟子は誇らしげに自分の装備する剣を握り締め、尋ねてもいないのにぺらぺらと説明を行う。その様子をサブは困った表情を浮かべながらも止めはしない。



「魔術師の癖に魔剣の事も知らないとはおめでたい奴だ……いいか、この魔剣というのは剣と杖を組み合わせた完璧な武器だ。名工によって生み出されたミスリル製の刃、更に柄の部分はあの世界樹の枝を利用し、取り揃えられている魔石はどれも最高級品だ!!まさに魔法と武器を組み合わせた究極の魔道具と言える!!」

「でも、レナの魔銃の方が格好いいと思う」

「そうだね、なんか見た目は剣の柄の部分を無理やりに杖に変えたような外見だし……」

「な、何だと!?」

「よさんか、馬鹿弟子がっ」



自分の所持する「魔剣」と呼ばれる魔道具を自慢する男子に対してミナとシノが率直な感想を告げると、彼は憤って二人に近付こうとしたところをサブが握り締めていた杖を頭に叩きつける。


木造製とはいえ、かなりの勢いで殴りつけられたせいか弟子の頭にたんこぶができてしまい、殴りつけられたサブの弟子は涙目になりながらも師に抗議した。



「し、師匠……どうして止めるのですか!?こいつらは我等が扱う魔剣を馬鹿にしたのですよ!?」

「全く、お前は何時まで経っても中身は成長せんのう……すまない、我が弟子の無礼を謝ろう」

「そんな、別に気にしてませんから……」



外見よりも子供じみた性格の弟子の態度にサブが代わりに謝罪を行い、慌ててレナは彼に頭を上げるように促そうと近付くと、サブは自然な動作でレナの胸元に手を伸ばす。



「隙あり!!」

「えっ?」

「……ぬう、顔立ちが女のようだが、この感触はやはり男か」

「な、何をしてるんですか?」



レナは自分の胸元に両手を押し当てられ、わきわきと指を動かしてくるサブに戸惑い、彼は残念そうな表情を浮かべた。その様子を見てレナはサブが自分の事を女だと勘違いしていきなり胸を揉もうとしてきた事に気づく。


公衆の面前で、しかもアルト王子の誕生日パーティーでとんでもない事を仕出かそうとしたサブに慌てて弟子が彼を後ろから羽交い締めして抑えつける。



「し、師匠!!何をしているのですか、またこのような場所でそんなことを……先日も他国の使者を相手に問題を起こしたばかりなのに!!」

「そうはいうがのう、やはり若い女子を前にするとこの両手が勝手に動いて止まらんのじゃ。ぬう、惜しいのう……男でなければ儂の弟子に加えようと思ったが」

「……エロジジイ」

「ちょ、シノ!?そういう事は頭に思っても口に出しちゃ駄目だよ!?」

「その言い方だとミナも同じことを思っていたんだね……」

「…………」



唐突なサブの行為に女性陣は冷たい視線を向け、特にナノに至ってはゴミを見るような目でサブを見下ろす。彼女達の視線は先ほどまでの魔導士に対する尊敬の念は消え去り、目の前に立つセクハラ老人に軽蔑の目を向ける。


最もサブ本人は慣れているのか女性陣に冷たい視線を向けられても特に怒ることも恥ずかしがる事もなく、朗らかな笑みを浮かべながら弟子を引き剥がしてレナに手を伸ばす。



「はっはっはっ、まあ今のは気にせんでくれ。ほれ、仲直りの握手じゃ」

「あ、はい……っ!?」



サブの伸ばした手にレナは反射的に握り返した瞬間、異様な感覚が全身に襲いかかり、ただ掌を握り締めているだけなのにレナは全身に電流でも走ったように身体が麻痺する感覚に襲われた。


何が起きているのかは分からないが、まるで血管の中に何かが入り込んだような気分を覚えたレナは表情を険しくさせ、一方でサブの方は笑みを浮かべながらも手を離さない。



「ほほう、これは……流石はマドウ大魔導士が自慢するだけの事はあるのう」

「何を……」

「離れて!!」



レナの異変を感じ取ったナノが二人の間に割って入り、強制的に二人の手を引き剥がす。その結果、レナは身体の力が抜けて倒れ込みそうになるところをナノに抱えられ、サブの方は引き剥がされた自分の手を見つめる。



「おい、お前!!いったい何の真似だ!!」

「……それはこちらの台詞です。彼に何をしたのですか?」

「ふむ、すまんのう。少々悪戯が過ぎたか」

「レナ君、大丈夫?」

「平気?」

「あ、ああ……大丈夫」



ナノから離れるとレナは頭を抑えながらも自分の身体を確認し、特に何事もない事を調べる。多少、疲労感は残っているがその程度で特に問題はなく、サブに視線を向けて自分に何をしたのかを無言で問いただす。



「いや、本当に悪かった。許してくれ、どうも優秀な魔術師と呼ばれている人間と出会うと資質を調べずにはいられんのじゃ」

「資質……?」

「ああ、儂の特技でな……相手に触れた状態で自分の魔力を送り込むことで、その人間の「器」を計ることが出来る。最もこの場合の器とは別に人格や心の度量を現す言葉ではないがな」

「器?」

「分かりやすく言えば「魔力容量」つまりはどの程度の魔力を所有しているのか儂には把握することができる。今の握手でお主の魔力がどの程度存在するのか、儂は見抜くことが出来たぞ……間違いなく、お主の魔力容量だけならば魔導士級を誇るだろう」

「なっ!?」



サブの言葉にレナではなく、弟子の方が驚いた声を上げ、信じられない表情でレナを見つめる。一方でサブの方は何が面白いのか口元に笑みを浮かべていた。

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