第178話 個人戦 〈レナVSウカン〉

「ウカン君はこう言っているが、レナ君はどうかね?君が承諾するのであれば団体戦の規則の変更を行うが……」

「俺は……出来れば試合に出たいです。この日のために頑張ってきましたから」



マドウの言葉を聞いて、レナは自分が引きさえすれば対抗戦は滞りなく行われる事は理解していた。しかし、この日のために皆と共に訓練を重ねてきたのに自分だけが何の役に立てないままに終わることは嫌だった。


ウカンの要望に対してレナが拒否を示すと、マドウはしばらく考え込んだ後、やがて二人の意見を取り入れた折衷案を口にする。



「では、こうしよう。団体戦に関してはウカン君の要求に従って4対4で行う。しかし、除外されたレナ君とウカン君には特別に新しい試合を組もう」

「新しい試合?」

「団体戦にお互いの大将格同士が試合を行わずに欠場するのは残念だからのう、だからこそ個人戦をもう一度行い、互いの力量を競い合うのはどうかね?」

「なるほど……」

「ふむ、確かにそれは興味がありますな」



教師たちはマドウの言葉に頷き、彼等も個人的には魔法科と騎士科の大将格同士の試合は興味があった。他の生徒達も騎士科でも有名なレナと、魔法科の自称最強を名乗るウカンの試合は興味を惹かれる。



「但し、今回の試合は勝敗に関係なく、双方の戦績には追加しない。どちらが勝とうと団体戦には何の影響もないと考えてくれ。そうしなければ平等とは言えないからのう」

「なるほど……俺は構いませんよ。というより、そっちの方が願ったりかなったりだ」

「……こっちも問題ありません」



意外な事にマドウの提案をウカンは受け入れ、彼の立場からすればわざわざ戦う必要もない試合に出場する事になるのだが、あっさりと引き受けてしまう。一方でレナの方も引き下がるわけにはいかず、ウカンが受けるのならば自分も引き受けることを告げる。


両者の合意を得られるとマドウは闘技台に上がった代表者たちに戻るように命じ、レナとウカンに闘技台へ移動するように告げた。二人は闘技台に上がると、ウカンはレナに対して意味深な笑みを浮かべ、彼にだけ聞こえる声量で話しかけてきた。



「逃げるなよ、腰抜けが」

「……そっちこそ」



軽い挑発にレナは適当に返すと、ウカンは笑みを浮かべて闘技台を駆け出してレナの傍から離れる。その様子を見てレナは一度だけ仲間たちの元へ振り返る。



「兄ちゃん、絶対にあんな奴に負けるなよ!!」

「絶対に勝ってねレナ君!!」

「負けるんじゃないぞ!!」

「……がんばっ」



戦績には関係ないのでこの試合に勝利したとしても対抗戦に支障はないのだが、コネコ達はレナの事を応援しながら見送ってくれた。皆のためにレナは負けない事を誓い、闘技台の中心部へ向かう。





――その一方でレナを見送った後、シノは魔法科の生徒の方へ視線を向け、何か考え込む素振りを行い、試合が始まる前に彼女は観客席へ向かう。





それからしばらく経過すると、監視水晶を通して闘技台の両者の準備が整ったことを確認したマドウは試合開始の合図を行う。



『これより、特別試合を行う!!試合、開始っ!!』

地属性エンチャント



試合が開始されるとレナは即座に行動を起こし、まずは武器として装備した両手の闘拳に付与魔法を施す。そして靴を脱ぐとその場で裸足になって動きやすい恰好になると、闘技台の各所に設置されている土塊に身を隠しながら移動を行う。



(先に見つけ出せれば俺が有利になる……魔法を撃つ前に決着を着けてやる)



基本的な戦法はレナも他の騎士科の生徒と変わらず、相手が魔法を発動させる前に仕留める方針だった。相手の選手が気付く前に先に位置を確認できれば一気に優位に立てるため、レナは土塊を掻い潜りながらウカンの姿を探す。


裸足になったのは万が一の場合を想定し、いざという時は魔法学園の入学試験でも使用した「瞬間加速」を発動させるために敢えてレナは裸足になった。付与魔法の重力を利用すればレナは瞬間的に戦闘職の人間よりも早く動けるため、この方法を利用して相手との距離を詰めて魔法を発動させる前に仕留める自信はあった。



(何処に隠れて……なんだ!?)



しかし、移動の際中に闘技台に振動が走り、何処かから強烈な光が放たれた。最初はウカンが攻撃を仕掛けてきたのかと思ったが、光はすぐに消えてしまい、地面の振動も収まる。いったい何が起きたのかとレナは戸惑うと、光が差した方角から有り得ぬ声が聞こえてきた。




フゴォオオオッ――!!




その声を聞いた瞬間、レナは呆気に取られて鳴き声の方角を振り向く。そして土塊を掻い潜り、土煙を巻き上げながら接近してくる物体を発見してレナは驚愕する。ここに存在するはずがない生物の登場に動揺を隠せず、大声を上げてしまう。



「ボア!?」

「フゴォオオオッ!!」




――闘技台上に巨大な猪の姿をした魔獣が出現し、レナの姿を発見すると鼻息を鳴らしながら突進してきた。

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