第148話 大盾に付与魔法を施すと……
「むうっ……囲まれた」
「警備兵に変装するなんて……大胆な事をするな」
「へっ……おい、やれ!!」
兵士の一人が合図を出すと、弓を所持していた兵士達が矢を構え、一斉掃射を行おうとした。だが、それを見ていたレナは左手に魔力を集中させ、シノビの方は短刀を引き抜くと迫りくる矢を全て弾き返す。
「反発!!」
「てりゃっ」
「な、なんだと!?」
レナの重力の衝撃波とシノビの目にも止まらない速度の斬撃によって矢は全て弾かれ、その光景を確認した兵士達は動揺する。しかし、すぐに最初に合図を出した男の兵士が鎖を用意すると、レナとシノビに向けて投げつける。
「これならどうだ、喰らいやがれっ!!」
「うわっ!?」
「回避」
「よし、少年の方は捕まえたぞ!!」
放たれた鎖に対してシノビは回避する事に成功したが、レナは右腕と左腕に別々の鎖が巻き付き、そのまま兵士達は数人がかりで引き寄せてレナを拘束しようとした。投げ縄の要領で器用に鎖を巻き付けてきた相手を見てレナは何らかの戦闘職の称号を所持している人間も交じっていると判断した。
鎖に巻き付かれた両腕が数人がかりで引き寄せられ、レナの身体が引っ張り出されるが、彼等の行動に対してレナは笑みを浮かべると両手の闘拳と籠手に付与魔法を施し、逆に勢いよく兵士達を引っ張る。
「このぉっ!!」
『うわぁあああっ!?』
「そんな馬鹿なっ!?何してんだお前等っ!?」
「おおっ……凄い怪力」
重力を操作すれば数人程度の兵士の腕力ではレナを抑えつける事は出来ず、逆に巨人族に引っ張り出されたかのように兵士達が引き寄せられ、大勢の人間が転倒してしまう。その際に大盾を背中に抱えていた兵士が倒れた時に大盾が外れてしまい、地面に投げ出された。
自分の足元に転がり込んできたレナは大盾に視線を向け、盾の裏側に腕と固定する金具が存在する事に気付き、この状況でレナは妙案を思いつく。構想自体は大分昔から考え付いていたが、付与魔法を上手く扱えなかったせいで結局は過去に挑戦したときは失敗に終わってしまい、諦めていた付与魔法の「移動法」を思い出す。
昔と比べて格段に付与魔法の応用と操作が磨かれた今のレナならば上手く行くかもしれず、レナは大盾を拾い上げると本来は腕を固定する部分に自分の足を装着し、周囲を牽制しているシノビの声を掛ける。
「シノビ!!俺の背中に掴まって!!」
「っ……!?」
「おい、何の真似だ!?」
「何かする気だぞ!!そいつを早く捕まえろ!!」
レナの言葉を聞いてシノビは躊躇したが、周囲の兵士達がレナが何か行動を起こす前に捕まえるために動き出し、それを見たシノビは覚悟を決めたようにレナの背中に張り付く。
「どうする気?」
「しっかり捕まってて……
『うわっ!?』
地面に横たわった大盾にレナは付与魔法を施した瞬間、大盾が唐突に浮き上がり、兵士達を吹き飛ばして上空へ浮上する。
レナにしがみ付いていたシノビは驚愕の表情を浮かべるが、レナは振り落とされないようにしっかりと大盾にしがみ付き、意識を集中させて操作を行う。
(よし、上手く行った……今ならこれぐらいの大きさの物なら自由に動かせる!!)
レナは普段から銀玉や弾丸などの武器は付与魔法を施して重力を操作する事で自由自在に浮上させる事が出来る。この方法を利用してスリングショットや魔銃を利用して使用した弾丸の回収を行っているが、大きい物程操作するのにはかなりの集中力を必要とした。
まだ冒険者になりたての頃は重力操作も上手くできず、人が乗れる程の大きさの板を用意して移動を試みたことが何回かあった。だが、しっかりと足元を固定させる道具がなければ空中を移動する際に簡単に落ちてしまい、移動中もバランスを取るのが難しくて何度も失敗してしまう。
しかし、成長して付与魔法を更に極めた現在のレナならば大盾を乗物として利用し、しっかりと足元を金具で固定させれば空中を飛行する事もできるようになった。かなりの集中力を必要とするが、自分だけではなくシノビを背負いながらも移動する事に問題はなく、鳥の様に空を飛ぶ感覚にレナは軽い感動を覚えた。
(やっぱり付与魔法は最高だ!!)
希少職ではあるが戦闘には向かない職業だと認識されていても、レナは自分が「付与魔術師」として生まれてきた事に感動する。
この移動方法は決して他の魔法使いには真似できず、土属性の付与魔法しか使えないレナだからこそできる芸当だった。
「ひゃっほうっ!!」
「おおっ……これ、気持ちいい」
建物の屋根の上を移動し、大盾をまるでスノーボードのように利用しながらレナは降下を行い、やがて大迷宮へ繋がる街の広場へと辿り着く。広場の近くの建物の屋根の上にレナは大盾をゆっくりと下降させ、無事に着地に成功した。
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