閑話 〈レナはどうやって重力を知ったのか?〉
※この物語の主人公であるレナがどうして「重力」に関わる知識を得たのか今更ながらに説明を入れます。プロローグにも追加していますが、改めて読む方のためにも投稿しました。
――まだレナが義両親と暮らしていた頃、カイの友人であるダリルが家に訪れる。彼はカイから子供を拾ったという話を聞いており、文字の読み書きを行えるような道具が碌にないと不便だと思い、レナのために街で販売している絵本を持ってきた。
「ほ~ら、レナ!!今日は絵本を持ってきてやったぞ!!」
「絵本?絵本ならうちにもあるよ。ばーばがいつも読んでくれるんだ」
「ふふふ……この絵本は普通の絵本じゃないぞ!!異界から訪れた勇者様を題材にした絵本だ!!」
「ゆーしゃさま?」
ダリルの言葉にレナは不思議に思うが、彼はいくつかの絵本をレナに手渡し、軽く内容を説明する。
「レナは大昔にこの世界を救ってくれた勇者様の事を知っているか?」
「うん、知ってる!!前にばーばとじーじが言ってた!!イセカイ?という場所からきた人達でしょ?すっごく強くて、悪い魔物や人をたくさんこらしめたって教えてくれた!!」
「この絵本はな、その勇者様がどんな活躍をしたのかが書かれているんだ。興味あるか?」
「本当に?読みたい読みたい!!おじさん、読んで!!」
「悪いがおじさんはもう帰らないといけないんだ。ばーばかじーじに読んでもらいな」
「え~……すぐに読みたいのに」
カイとミレイはこの時は村の集会に立ち寄っていておらず、ダリルがここへ訪れたのもカイからレナの様子を見てきて欲しいと言われたからである。だが、馬車を待たせているのでダリルもそろそろ戻らなければならず、大量の絵本を前にして頬を膨らませるレナにダリルは頭を撫でながら笑いかけた。
「そうかそうか、そんなに読みたいのか?だったらレナも他の人に読んで貰らうばかりじゃなく、自分だけで読めるようになるように文字の読み書きを勉強しないといけないな!!」
「う~……」
「ほら、少しだけならおじさんが教えてやるから一緒に絵本を読もう。まずはこの「重力の勇者様」のお話から読むか」
「じゅうりょく……なにそれ?」
聞きなれない単語にレナは戸惑い、これまでの生活で「重力」という言葉を耳にした事はないレナはダリルに尋ね帰す。だが、ダリルの方も困った表情を浮かべて絵本を開く。
「いや、おじさんもよく分からないんだが……重力というのはな、例えばリンゴが高い所から手を離したら地面に落ちていくだろ?」
「うん」
「別にリンゴでなくても大抵の物は高い所から落とせば地面に落ちていくんだが……ともかく、どうして高いところから物を落としたら落ちていくと思う?」
「え?それは……高いところから落としたからでしょ?」
「その通りだ。だが、この絵本によると高いところから物が落ちてくるのはこの大地に引き寄せられているからだそうだ。そういう力を重力というんだ」
「ええっ!?よく分かんないよ……」
「す、すまん……俺も自分で言っていてよく分かっていない。だが、この絵本を読めるようになれば重力の事も分かるはずだ!!」
「え~……」
ダリルの大雑把過ぎる説明にレナは不満を漏らすが、ダリルは絵本を差しだして無理やりに話を終わらせ、とりあえずは冒頭部分を朗読してレナに文字の読み方を教えた――
――それからしばらく年月が経過すると、レナの部屋にはたくさんの絵本が飾られるようになり、遂に文字を完全に覚えることが出来たレナは毎日のように読書を行う。そして、毎日のようにレナはダリルに最初に与えられた「重力の勇者」の絵本を読み込み、物語に登場する勇者が扱う重力魔法に強い興味を抱く。
「かの勇者は大きな岩を浮かばせたり、逆に重くして地面に沈めたり、空中に停止させた。これを見た人々は彼が風の魔法を利用して岩を操作しているのだと考えたが、勇者は否定した。これは「重力」だと……」
絵本には勇者があらゆる物を操作する場面が描かれ、その力を使って災害の被害を受けた人々を救い出したり、凶悪な魔物を退治する描写が存在した。人々は勇者が風属性の魔法を使っているのだと思い込んでいたが、一貫して勇者は自分は「重力」という魔法を使っているのだと強く否定する場面が記されていた。
「う~ん……重力って、何だろう。気になるな……」
最初はレナも勇者が風属性の魔法で物を浮かばせていると思った。しかし、絵本の挿絵では他の勇者が風属性の魔法を扱う時は「渦巻き」のような描写があるにも関わらず、こちらの重力の勇者に関してはそのような描写はなく、勝手に物が動いたり飛んでいるようにしか見えない。
極めつけにこの勇者は地中に埋まっているはずの大きな金塊を重力の力で地上へ出現させるという行為を行っていた。これを見たレナは地面に埋まっている物をどうして風属性の魔法で取り出す事が出来るのか不思議に思う。
「この人の絵本、一つしかないのが寂しいな……」
絵本を読んでも重力という存在を掴み切れず、レナはため息を吐き出す。だが、この日の翌日にレナはカイと共に山へ狩猟を出かけ、そして村を失う事になるとは予想も出来なかった。
――さらに月日が流れ、レナは村を逃げ出した後にダリルの元で世話になり、彼の商会で働くようになった。この頃は仕事が終えればダリルから計算の仕方を教えて貰い、掛け算や割り算なども覚えた。また、仕事の給金も少なからず貰えたため、よくレナは本を購入しては知識を広めていた。
そんな折、書店に立ち寄ったレナは本棚の片隅に置かれていた書物を発見し、題名が「重力の勇者の記録」と記されていた。それを見たレナは驚いて本を手に取り、中身を読む。
「これ……もしかして絵本の人が書いた本なのか?」
書物の内容は過去に召喚された勇者が残した「重力」に関わる知識が記されており、執筆者の名前も確認すると間違いなく絵本に記されていた勇者の名前と同名だった。レナは驚いて書物をまじまじと見つめていると、書店の店主である老婆が話しかける。
「あんた、その本を買ってくれるのかい?」
「え?あ、はい……買います」
「そりゃ有難いね!!やっとその本を買ってくれる人が現れたよ。うちの婆様の代から存在する本なんだけど、誰も買ってくれなくていつもそこの本棚に置いていたのさ。料金はいらないから持って行っておくれ」
「あの……この人の本はこれだけですか?」
「ああ、それだけだね。あたしも若い頃にその本を読んだ事があるけど、内容がちんぷんかんぷんだから捨てようかと思ったぐらいだよ。一応は100年以上前に出版された本だったんだろうけど、きっと全く売れなかったんだろうね。今ではその本を売っている店はここ以外はないよ」
「そうなんですか……」
レナは自分の手にした本に視線を向け、今の自分ならば内容を理解出来るのではないかと思い、購入を決意した――
――それからさらに月日が経過し、魔法学園に通うようになってからもレナは勇者の残した書物を愛読書にしていた。彼は異世界から訪れた勇者が残した「重力」の知識を学び、自分の地属性の付与魔法の正体が「重力」である事を見抜く。
「ふむふむ……やっぱり、重力の勇者という人も俺と同じ付与魔術師だったんだな」
書物を読み解いて分かった事は実は過去に召喚された勇者と呼ばれる存在にはレナと同様に「付与魔術師」の称号を持つ人間もいたらしく、この勇者が残した書物は次世代の人間のために残した本だと判明する。
重力の勇者と呼ばれた人間は残念ながら他の勇者と違って知名度は低く、彼を題材とした本も少ない。しかし、彼の残した貴重な知識は今の時代に有効に扱う人間も存在し、レナは今日も付与魔法の研究に勤しむ――
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