第110話 カーネ商会の企み

「くそ、カーネ商会の奴らめ……そんなに俺が気に喰わないのか!!」

「カーネ商会だけではない、儂の所にくる冒険者の奴等もお前の仕事を断るように言いつけられておる。もしも破れば二度とここへは来ないとな……」

「何だと!?」

「じゃあ、やっぱり冒険者ギルドも今回の件に絡んでいるのか……」



カーネ商会だけではなく、王都の冒険者ギルドがダリル商会を排除しようとしている事が発覚し、鍛冶師の老人は申し訳なさそうな表情を浮かべながらもカイに頭を下げる。



「すまん……ここで儂がお前の仕事を引き受けるとカーネ商会どころか冒険者ギルドの奴等にも目を付けられる。そうなれば儂はもうここでは働けなくなるのだ。どうか理解してくれ、お主には色々と助けてもらったが今回ばかりはどうしようも出来んのだ」

「爺さん……くそ、分かったよ!!もういい、他の奴等に当たってみるよ!!」

「いや、それも止めておいた方が良い……残念だが、他の鍛冶師の所へ赴いてもお主の仕事を引き受けてくれるような奴等はおらんだろう。事前にカーネ商会と冒険者ギルドが根回しをしているだろう」

「何だって!?」



ダリル商会と契約を結んでいた鍛冶屋だけではなく、工業区に存在するほぼ全ての鍛冶屋はカーネ商会と契約を結んでいるか、冒険者ギルドの世話になっている。


老人によると事前に他の鍛冶屋にも連絡が届いているらしく、ダリルの依頼を引き受けてくれる小髭族の鍛冶師はいない事を告げた。


ミスリル鉱石を加工できるだけの技術を持つのは小髭族だけなので、王都に存在する小髭族の鍛冶師の協力は必要不可欠だった。それを見越してどうやらカーネ商会は先手を打ってきたらしく、ダリルは悔し気に歯を食いしばる。



「ダリルよ、これがカーネ商会のやり方なのじゃ。奴等は冒険者ギルドと組み、工業区の鍛冶屋に仕事を分け与えている。残念だが、何処に頼もうとお前の依頼を引き受けてくれんだろう。逆らえばカーネ商会に目を付けられ、廃業に追い込まれるのは目に見えているからな」

「なんて酷い奴等だ……」

「けど、それならこのミスリル鉱石はどうしたら……」



折角大迷宮で入手したミスリル鉱石も加工する手段がなければ意味はなく、3日後までに加工を終えて契約に記された量のミスリルを用意しないとダリル商会は解散してしまう。


どうにか加工する方法はないのか考えるが、ミスリルの加工のためにはどうしても小髭族の鍛冶師の力が必要だった。しかし、この王都にはもうダリルに協力してくれる小髭族はいない。



「それだったらさ、この王都以外の街の鍛冶師に頼んで加工して貰ったらどうだ?それならカーネ商会も関係ないだろ?」

「無理だ、カーネ商会はこの王都だけではなく、周辺の街にも影響力を持つ。第一にここから近い街でも馬車で移動しても何日も掛かるんだぞ?そもそも鉱石を加工してミスリルを作り出すのにも時間が掛かる、不可能だ……」

「それならミスリルを所有している人達に交渉してミスリル鉱石と交換して貰うとか……」

「それも難しいな……ミスリルを取り扱っているような商会は殆どがカーネ商会の傘下だ。仮に商人以外の人間に交渉するとしても探し出すのも難しいな」

「う~ん……本当に他に方法はないんですか?」

「……強いて言えば実は工房なら、うちも所有しているんだ。うちの屋敷の地下に実は工房があるんだよ」

「え?あそこ、宿屋じゃねえの?」



ダリルの言葉にレナ達は驚き、外観はどう見ても宿屋にしか見えなかったがダリルによると地下に工房も存在するという。



「あの建物は元々は小髭族の夫婦が経営していたんだよ。夫の方は地下の工房で働いて奥さんの方は宿を経営していたらしい。だが、年を重ねて営業も難しくなった老夫婦から俺が買い取って商会の屋敷にしたんだ」

「そんな経緯があったんですか……なら、工房があるのなら鍛冶師さんを連れてくるだけでいいんですか?」

「ああ、工房の方は万が一の時も考えて普段から整備してるんだ。もしも流れ者の鍛冶師と出会えたら、そいつを雇ってうちの専属の鍛冶師として働いて貰おうと思ったんだが……」

「生憎だが儂は引き受けられんぞ……儂はこの店を手放すつもりはない」



小髭族の老人はダリルの話を聞いても仕事を引き受ける様子はなく、今度こそ店の中へと避難する。事情を知った以上はレナ達も彼の行動は止められなかった。


彼に仕事を断られたらレナ達の方が困るのだが、老人の方もここでの生活のためにカーネ商会に逆らうわけにはいかず、扉を閉める間際に忠告を行う。



「……ダリル、カーネ商会はお前が頭を下げれば許してくれるだろう。今後はカーネ商会の指示に従うというのであれば商会の解散などという強硬手段は取らんはずだ。お前一人が謝ればそれで済む話だぞ」

「ふん、生憎だが俺にも商人としての意地がある!!例え、捕まる事になろうと俺はこんな卑怯な真似をする商会の奴等に従ったりするか!!」

「ふん、商人らしからぬ発言だな……忠告はしたぞ」



老人は今度こそ扉を閉めるとレナ達はダリルに視線を向け、大見得を切ったのは良いがこれからどうするつもりなのかを尋ねる。



「ダリルさん、他に鍛冶師に心当たりは?」

「……ない」

「ありゃりゃ……」




――結局、その後も何軒か工場区の鍛冶屋を尋ねてみたが、既にカーネ商会と冒険者ギルドの根回しが行われいたらしく、門前払いで誰一人としてまともに話も取り合ってくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る