第109話 カーネ商会

赤虎の冒険者が完全に立ち去ったのを確認するとダリルは深いため息を吐き出し、そして無事にミスリル鉱石を持ち帰ったレナ達に感謝した。



「お前等……よくやってくれた!!これでうちの商会は潰れずに済む!!お前等のお陰だ!!」

「ダリルさん、安心するのはまだ早いですよ。この鉱石を加工してミスリルにしないと……」

「ああ、そうだな……じゃあ、早速だが工場区へ向かおう!!うちと契約を結んでいる鍛冶師にミスリルの加工を依頼しないとな」

「工場区?」

「ほら、僕が少し前に説明したでしょ?この都市の南東に存在する区画だよ。大勢の小髭族の鍛冶師が店を開いているから工場区と呼ばれてるんだよ」

「へえ、小髭族はあたしも見た事ないや。どんな奴なのか楽しみだな」

「基本的に頭の固い人ばかりだから、態度は気を付けた方が良いと思うよ」



ミスリル鉱石を工場区に運び込むため、まずはダリルは剥き出しになっているミスリル鉱石を隠すために大きな袋を用意する。


移動の際には馬車も何もかも売り払ってしまったので徒歩で移動するしかないらしく、結局はレナがミスリル鉱石を持ち上げて工場区へ向かう事になり、全員で移動を行う――





――王都の南東に存在する「工場区」は文字通りに工場のように無数の鍛冶屋が提携し、巨大な建物が並んでいた。ミナによればこの場所で大量の魔法金属が加工され、それをヒトノ国中に送り付けているため、この区画には数百人の小髭族が暮らしているという。


ダリル商会と契約を交わしている鍛冶師は工場区の隅の方に存在し、店自体は小さいが腕は確かという事でダリルは店主と交渉して専属契約を行う。だが、到着早々にレナ達は店主である小髭族の老人から店を追い出されてしまう。



「帰ってくれ!!もうあんたの依頼は受けられないんだ!!」

「ど、どうしてだ!?契約はまだ破棄されていないはずだろ!?」

「いいから出てってくれ!!もううちはあんたの所の仕事は受けられない!!」



鍛冶屋の店主はダリルを突き飛ばし、店の外へ放り出す。それを見たレナ達は慌てて駆けつけ、どうしてこんな真似をするのかを尋ねる。



「おい、爺さん!!何も突き飛ばす事はないだろ!?だいたい何で仕事を断るんだよ!!」

「うるさい!!いいからもうここへは来るな、もうお前の商会とは契約を切らせてもらう!!」

「それはないだろう!?あんたとは短い付き合いだが、お互いに上手くやっていたじゃないか!!なあ、頼むよ。何が不満なのか教えてくれよ!!」

「ふん、お前の所よりも高額な給金で契約を結びたいという商会が現れたのじゃ。だから、罰金は支払うからお前の商会との契約は打ち切らせてもらう!!」



店主はそういうと小袋を取り出してダリルに放り投げ、店の中へ戻ろうとした。だが、その態度を見てレナは気に入らず、店主が扉を閉める前に引き留める。



「待ってください、それはどういう意味ですか?」

「離せ、小僧が……な、何っ!?」



見た目は小さいとはいえ、人間よりも膂力がある小髭族の老人は扉を掴むレナの両手を振り払おうとしたが、付与魔法の力で重力操作を行って扉を抑えつけているレナを振り払う事が出来ずに戸惑う。


小髭族は人間と比べると小柄ではあるが、その腕力に関しては人間とは比べ物にならない。彼等は身体が小さくとも筋力は恵まれているのでいくら年老いた小髭族だろうと人間のしかも子供に力負けするはずがない。


だが、付与魔法で重力を操作する事が出来るレナにそもそも力勝負を挑むことが無謀であり、どれだけ力を込めようと振り払う事が出来ない。



「こ、このガキ……!!離せ、離さんかっ!!」

「いいから出てきてください!!」

「うおっ!?」



レナが強制的に扉を開くと小髭族の老人の方が外に飛び出してしまい、即座に他の3人が取り囲む。武器を手にしたミナとコネコ、更に憤怒の表情を抱いたダリルに取り囲まれた老人は顔色を青くする。



「おい、爺さん!!黙って聞いていれば調子に乗りやがって……誰のお陰で潰れかけたあんたの店が持ち直したと思ってるんだ!?うちの商会が仕事を回したお陰だろうがっ!!」

「ひぃっ!?そ、それは感謝している!!だが、儂にはもうどうしようもないのじゃ……!!」

「どういう意味だよ?だいたい、なんで今まで仕事を引き受けていたのに急に断るんだ?」

「さっきの話だと、ダリルさん以外の所の商会と契約を結んだとか言っていたけど……」

「そ、そうじゃ……お主の所よりも良い条件で儂を雇っくれる商会が現れた。だからお主の仕事は引き受けられんのだ……」

「何でだ!?何処の商会があんたを雇うと言ってきた!?」

「か、カーネ商会じゃ……お主も名前を聞いた事があるだろう?この王都で最も大手の商会だと……!!」

「カーネ商会が……!?」

「カーネ商会!?あの有名な!?」



カーネ商会という言葉にダリルとミナは呆然とした表情を浮かべ、店主を手放す。しかし、レナの方はカーネ商会と言われても何の話なのか分からず、首を傾げる。


他の人間の反応から察するに相当に有名な商会のようだが、王都から離れた場所から来たレナとコネコはダリルとミナがそこまで驚く理由が分からず、ミナに尋ねた。



「ミナはカーネ商会の事を知ってる?」

「知ってるも何も……この王都で一番大きくて有名な商会だよ?沢山の有名な冒険者を雇い入れてるし、ヒトノ国とも繋がりを持つ凄い商会だって聞いてるけど……」

「マジかよ!!そんな凄い商会にこの爺さんは契約を結んだのか?」



ミナの説明を聞いてレナとコネコは驚き、目の前に倒れている老人を見下ろす。だが、話を聞いたダリルは頭を抑えてカーネ商会の目的を悟る。

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