第83話 倉庫の道具
「ふぎぎぎっ……駄目だ、持ち上げるだけできつい!!」
「だからコネコちゃんには無理だってば……この槍は僕が使うよ。自分の武器は持ってきてなかったから丁度良かった」
「仕方ないな……なら、あたしは適当にこの短剣でいいか。これなら問題なさそうだし、他の武器なんて使った事ないし……」
ミスリル製の槍は諦めたコネコは無難に机に並べられていた短剣の中で比較的に綺麗な代物を選び、どちらも防具は身に着けるつもりはないのか二人はレナに視線を向ける。レナの方は別に自前の装備だけでもいいと思ったが、この際に倉庫中の道具を確認していく。
倉庫の中には様々な道具が用意され、中にはどのように扱うのか分からない物も多く、半分は興味本位で調べていく。道具の中には人間だけではなく、他の種族が扱える物も多かった。
「ここ、本当に色々な武器があるね。見慣れない物も多いし……あれ?」
「どうかしたのか兄ちゃん?」
「いや、この腕輪が何なのか気になって……」
「それって、もしかして魔法腕輪マジックリングじゃないかな?確か、魔石を装着させる事で魔法の効果を強化する腕輪だよね」
机の上に置かれていた銀色の腕輪を発見したレナは不思議に思って持ち上げると、隣からミナも覗き込む。その際に彼女の豊かな胸元が腕に当たり、レナは頬を赤くする。
改めて年齢の割には随分と発育が良いミナを意識してしまい、それを誤魔化すようにレナはミナに質問した。
「ま、魔法腕輪?それって魔道具の小杖みたいな物?」
「そうそう、魔術師の人が魔法を使うときは基本的に魔石の力を借りるでしょ?だけど、手掴みで魔石を使う訳にはいかないから普通の人は杖や腕輪に装着して身に着けてるんだよ」
「兄ちゃん、魔術師なのにそんな事も知らなかったのか?変わってるな……」
「うっ……それを言われると否定できない」
魔術師の職業である自分よりも二人が魔術師の知識がある事にレナは冷や汗を流すが、そもそも自分以外の魔術師と会った事などアイリぐらいしか存在しなかったので知らなかったのも無理はない。だが、これから魔法学園に通う以上はそういう常識的な物も身に着けなければならない。
試験に合格すれば持ち出した代物の所有権を移るらしいのでレナは魔法腕輪を選ぶ事に決め、現在は魔石を所有していないので腕輪の効果を発揮する事は出来ないが、他に必要な装備は見当たないのでこれだけを選ぶ。
「ミナの姉ちゃん、他に高そうな道具とかないのかよ?これだけいっぱいあるんだから一つぐらいは凄く高価な道具とかないの?」
「う~ん……僕もそんなに武器や防具に詳しいわけじゃないから自信はないけど、それならこれが一番高いと思うよ。この壁に立て掛けてある大盾かな」
「それはあたしでも見ればわかるよ!!これってどう見ても巨人族用の盾かなんかだろ!?」
ミナは壁際に飾ってある「円盤型」の大きな盾を指差し、倉庫の道具の中では最も手入れが行き届いているのか新品のように磨かれた状態で保管されていた。
大きさ、重さ共に倉庫の道具の中で一番を誇るのは間違いなく、中央部には宝石のように輝く水晶が埋め込まれていた。
「多分、この盾に埋め込まれているのは反晶石という名前の魔石だと思う。確か魔法の力を跳ね返す効果を持つ水晶だと思うけど……色が透明になっているから効果はもう失われていると思う」
「え?魔石が透明になると使えないの?」
「うん、魔石は蓄積されている魔力が消失するとこんな風に色を失くしちゃうんだよ」
「兄ちゃん、それぐらいは常識だぞ……」
「ううっ……世間知らずでごめんなさい」
コネコの呆れる言葉を耳にしながらもレナは大きさが1メートルを軽く超える盾に視線を向け、円盤の形をしている盾を見てレナはある事を思いつく。
「あ、もしかしてこれなら……」
試験の前にある方法を思いついたレナは円盤型の大盾に両手を伸ばす――
――それから30分後、特別訓練場にレナは戻ると、そこには既に武装したゴロウが待ち構えていた。彼は鎧を身に着け、左腕に大盾を装着した状態で既に待機していた。その様子を見たレナは緊張感を抱き、これから自分がここで彼と戦う事を意識する。
「準備は出来たようだな……だが、なんだその背中の物は」
「あはは……色々とありまして、この盾と腕輪を持ってきました」
ゴロウはレナの姿を見ると訝し気な表情を浮かべ、今のレナはいつもの装備と倉庫から回収した魔法腕輪、そして例の円盤型の大盾を所持していた。
腕輪はともかく、背中の盾に関してはあまりにもレナに不釣り合いに感じられ、ゴロウはため息を吐きながら忠告する。
「確かに試験を合格すれば倉庫の代物は持ち帰ってもいいと言ったが……俺の忠告を聞いていなかったのか?身の丈を超えた装備を身に着けても役には立たんとな」
「分かっています。でも、これを選んだ事は間違いだと思っていません」
「ほう……何か考えがあるというのか?」
レナの自信たっぷりの言葉にゴロウは興味を抱き、彼が何をするつもりなのかは分からなかったが、少なくとも物欲に負けて大盾を選らんだのではない事を知る。
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