第82話 実技試験

――結果はともあれ、体力試験を無事に突破したレナとミナだったが、残りの二人に関しては残念な結果に終わった。彼等は途中でレナと賭け事を始めた時点から体力の配分を考えずに動いてしまい、更にレナに抜かれた事で完全にやる気を失ってしまう。


双子は普通に走れば十分に体力試験を突破出来る事は出来たが、途中から一気に走って体力を使い切ってしまった事、競争を初めてしまったレナとミナの二人組に何度も追い抜かれた事によって心が折れたらしく、結局は途中で辞退してしまう。



『やってられるかこんな事!!』

『俺達は帰るぞ!!』



職員の制止も振り切って双子は逃げるように帰ってしまったらしく、結局は体力試験を突破したのはレナ、ミナ、コネコの3人だけだった。


試験が終了次第、10分程度の休憩の後に3人は試験官のゴロウの案内の元で今度は冒険者ギルドの地下に存在する「特別訓練場」と呼ばれる場所へ移動していた。



「これからお前達には実技試験を行ってもらう。試験の内容を説明する前にお前達が所持している所持物を返却する」

「こちらが皆様の荷物です。どうぞ、お受け取り下さい」



職員が試験の前に預かっていたレナ達の所持品が入った袋を持ち込み、全員が荷物を受け取るとゴロウは試験の内容を発表する。



「これからお前達はこの俺と実戦方式で戦ってもらう。試験の内容は俺から一撃を与えれば合格だ。また、試験中は俺は防御に徹して攻撃を行わない事は約束しよう」

「え?試験官と戦うんですか?」

「端的に言えばそうだ。また、実技試験は1人につき10分とさせてもらう。装備に関しては自前の物も使用してもいいし、こちらで貸し出した武器と防具を使ってもいい。仮に試験に合格すれば借りた道具に関しては持ち帰っても構わん」

「マジで!?それって貰ってもいいという事!?」

「試験に合格すればな」



ゴロウの言葉にコネコは目を輝かせ、試験を合格すれば武器と防具も提供するという随分と太っ腹な対応にレナ達も驚く。



「武器と防具に関しては倉庫に管理されている物ならば何でも持ってきてもいい。試験に合格さえすれば選んだ道具はヒトノ国が変わりに代金を支払い、購入する。所有権はお前達にあるので好きに使って構わん」

「じゃあさ、いっぱい持っていってもいいのか!?あとで1人1つまでとか言わないよな!?」

「そんな事は言わん」

「よし、兄ちゃんと姉ちゃん!!すぐに倉庫へ行こうぜ!!」

「あ、ちょっと……コネコ!?」

「もう行っちゃった……倉庫の居場所も聞いていないのに」



コネコは即座に行動を起こし、慌ててレナとミナも彼女の後に続こうとすると、後方からゴロウが忠告を行う。



「必要ない装備は身に着けない方が身のためだぞ。余計な荷物を抱えれば試験に支障をきたすだけだ。あの小娘にそう伝えておけ」

「あ、はい」

「……お前達も必要だと判断した物があれば持ってこい。最初の試験の相手はお前身からだ。30分後にここへ戻って来い」

「わ、分かりました」



自分から試験を始めるという言葉に緊張し、一応は装備は取り戻したとはいえ、念のためにレナは倉庫へ向かってどのような武器や防具があるのかを確認するためにコネコの後を追う――




――冒険者ギルドの倉庫の方では様々な武器や防具が用意されていたが、そのどれもが使用済みと思われる状態だった。恐らくはかつて冒険者が使用していた道具をギルド側が用意していたと思われ、どれも年季を思わせる物ばかりだった。



「何だよ……全部ボロボロじゃん!!こんなの貰っても二束三文にもならないじゃん!!」

「でも、中には使い込まれているけど役立ちそうな物もいっぱいあるよ?ほら、この槍とかは刃先が賭けているけど、貴重なミスリルで構成されるし……」

「ミスリル……って、あの魔法金属の?そんな希少な素材で作られた武器まであるの?」



コネコは倉庫に入って早々に落胆してしまうが、壁に立てかけられていた槍をミナは取り出すと、青色に光り輝く刃が「ミスリル」と呼ばれる金属で構成されている事を見抜く。




――こちらの世界には魔法金属と呼ばれる特殊な金属が存在し、ミナが手にした槍の刃を構成する「ミスリル」とは鋼鉄の数倍もの硬度と耐久力を誇り、しかも魔法に対する強い耐性を誇る。


魔法金属を加工出来るのは小髭族だけだと言われ、金属の素材に関しては特別な地域にしか手に入らない程に希少な金属だった。




ミスリルは魔法金属の中では最も一般に流通しており、冒険者が自分の武器の素材に使用する事が多く、鋼鉄よりも頑丈で魔法耐性があるミスリルは素材としても人気が高い。但し、ミスリル製の武器はある特徴を持つ。



「じゃあ、その槍をくれよ姉ちゃん。売れば儲かるかもしれないんだろ?」

「う~ん……この槍はコネコちゃんが使うのは無理じゃないかな」

「大丈夫だって、最初の内だけこの槍を使って戦えばいいだけだろ……うわっ、重っ!?」



ミナから槍を受け取ろうとしたコネコだが、刃を構成するミスリルの重量があまりにも重く、彼女では持ち上げるだけで精いっぱいだった。


ミスリルは普通の金属と比べると重量が大きく、ミスリル製の武器は例外なく重量感があるため、非力なコネコでは扱う事は出来なかった。

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