第77話 能力制限は無し

「おい、兄ちゃん!!こんなに言われてるのになんで言い返さないんだよ!!まさか、本当に……」

「…………」



黙り込んだレナに対してコネコは不安を抱いた表情を浮かべると、そんな彼女の顔を見てレナは決心したようにゴロウの元へ向かう。


その姿を見てミナ達はレナが棄権を申し込むのかと思ったが、レナの発した言葉は予想外の言葉だった。



「すいません、質問していいですか?」

「……何だ?」

「さっきの試験を見た限り、能力の使用は制限されていないと考えてもいいんですか?」

「えっ?」

「能力だと?」

「……どういう意味だ?」



レナの言葉に他の者達は呆気に取られるが、質問をされたゴロウはレナの言葉に考える素振りを行い、コネコに視線を向ける。


先の試験では既に彼女が能力を使用した上で合格を認めた以上、他の者が能力の使用を禁じるのは不平等だと考えたゴロウはレナの言葉に頷く。



「ああ、問題はない。試験中は特に能力の制限は課せられていない、質問はそれだけか?」

「もう一度だけ確認します。本当に能力の制限はない、間違いないですか?」

「……問題ないと言っただろう?どれほど能力を使おうと、咎めはしない」

「に、兄ちゃん?」

「レナ君……?」



念押しして能力の制限がない事を確認したレナは安心したように頷くと、これならば自分でも走り抜ける自身はあった。だが、用心のために最後の質問をする。



「あの、試験中は裸足でも構いませんか?」

「問題はないが、今から走るのは街道だぞ。草原のように柔らかな地面ではない、それに何か落ちているかも分からんぞ」

「大丈夫です、気を付けて走りますので」

「……そうか、好きにしろ」



裸足で走る事の許可を得たレナは靴を脱ぎ、裸足で走る準備を行う。そのレナの行動に他の者達は疑問を抱きながらも横に並ぶと、開始の合図を待つ。


全員が横一列に並ぶと本当に裸足の状態になったレナが横に並ぶのを見て双子は笑みを浮かべ、ミナは眉を顰める。裸足になったところで足が急激に早くなるわけではなく、逆に怪我をしてしまう可能性が高まるだけなのに素足で挑もうとするレナに双子は声をかけた。



「おい、レナ君よ。きつかったらすぐに棄権しといた方がいいぜ、それと俺達にすぐ追い越されないように頑張って走れよ」

「はははっ!!走り終わった時には日が暮れてないと良いけどな!!」

「……気を付けるよ」

「レナ君……本当にいいんだね?」



双子はレナをからかうのに対し、ミナの方はレナの決意が固い事を知ると止めるのを止め、自分が試験に受かる事に集中する。彼女が再三レナに警告するように注意していたのは決して意地悪をするわけではなく、レナの身を案じての言葉だった。


しかし、当のレナは他の人間の言葉など気にせず、一か月近くも馬車で移動し続けて身体が訛っていたので今回の試験は久しぶりに全力で身体を動かせる事に嬉しく思う。



(よし、あの走法を試す時が来た……練習通りに上手く行けばいいけど)



レナは自分の足元に視線を向け、裸足になった今の自分ならば出来る方法で試験を突破するために精神を集中させる。そして遂にゴロウの号令の元、体力試験が開始された。



「では……試験、開始!!」

「おらぁっ!!」

「邪魔だっ!!」

「うわっ!?」



試験が始まった瞬間、レナは左右に立っていた双子に突き飛ばされ、先を走られてしまう。レナは開始の合図と同時に地面に転び、それを見たコネコは怒り狂う。



「あ、あいつら!!くそ、待ちやがれ!!この卑怯者!!」

「へへ、追いつけるもんなら追い付いて見な!!」

「ほらほら、早く来いよ!!」

「くそっ……あれ、ミナさんは?」



レナは起き上がった時、ミナの姿が見えない事に気付き、先ほどまで一緒にいたにも関わらずに彼女が何処に消えたのか探す。


ミナの性格ならば不正を行った二人組に対して怒鳴りつけてもおかしくはないのだが、何故か先ほどまで存在したはずなのに姿見えず、彼女の姿を探しているレナにゴロウが前方を指差す。



「奴なら先頭を走っている。開始と同時に最も前に出たのはあの娘だ」

「えっ……あ、もうあんなに遠くに!?」



ミナは既に開始の合図と同時に駆け抜けていたらしく、コネコにも劣らぬ速度で先頭を走り、既に最初の曲がり角を移動して姿を消す。


その様子を見たレナは慌てて3人の後を追いかけようとしたが、予想以上に背中の錘が重く、思う様に上手く走れない。



「頑張れよ兄ちゃん!!あんな卑怯な奴等に負けんなよ!!」

「くっ……頑張る!!」



だが、子猫の声援を受けたレナは諦めずに走り抜け、まずは3人に追いつくために体力の温存を考えずに最初から全力で走り込む。今回の試験は3分に1キロは走り切らないと合格は出来ず、最初のスタートダッシュで遅れてしまったレナは他の者達と大きな差が生まれてしまう。


まずは体力が続く限りは全力で後を追いかけ、身体を先に温める事に集中する。勿論、このまま走り続けても他の人間に追いつくどころかいずれ体力が尽きてしまう事は分かり切っていたが、それでもレナは構わずに自分が限界と判断するまでは走り続けた。



(走り込みなら普段からしていた!!村に住んでいた時もよく山の中を駆け回っていたから体力には自信はある!!)




幼少期からカイに連れられて山へ何度も赴き、普通の子供よりも体力はあったレナは更に冒険者になってからキニクやバルの指導を受けて身体を鍛え、筋力はともかく体力の方は自信があった。やがて徐々に前方を走る双子との距離が縮まり始め、声が届く距離まで接近する。



「待て!!」

「げっ!?もう追い付いてきたのか!?」

「へえ、中々足が早いじゃねえか!!」



二人はレナが自分達に迫ってきている事に驚いたが、それでも余裕は崩す様子はなく、先ほどの非礼も詫びずに先行する。

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