第71話 入学試験

「なら、コネコは魔法学園に入学が決まってるの?」

「決まってる?あたしはここへ向かうように指示されただけだよ。試験に合格すれば入学費用も学費も無料で払ってくれるていうからここへ来たんだよ」

「あれ?」



レナの場合は当初は魔法学園に入学する事が確定していたが(ムノー魔導士の独断で取り消されたが)、コネコの場合は試験を受けるようにだけ言い渡されたらしく、その試験に合格する事が出来れば学費と生活費をヒトノ国が負担してくれるという。


魔術師の称号を持つレナの場合は検査を受けるだけで魔法学園への入学決まっていたが、コネコのような戦闘職の人間の場合は試験を受けさせられるらしく、彼女はそのために王都へ訪れたと説明する。



「けど、あたしとしてはそんな変な学校に通って世話を見て貰うより、とっとと大金を稼いで孤児院に仕送りしたいのにさ、何処も雇ってくれないんだよ。くそう、どいつもこいつも人を見かけだけで判断しやがって……あ、そうだ!!兄ちゃんからまださっき助けた時のお礼を貰ってなかった」

「うっ、そういえば……」

「へへん、兄ちゃんは白銀級の冒険者なんだろう?ならたんまり稼いでいるんじゃないのか?全部とは言わないけど、半分ぐらいはくれるよな?」



金銭を催促してくるコネコに対してレナは仕方なく自分の巾着袋の中身を確認し、先ほど引き渡した賞金首の分も含めて多めにコネコに支払う。



「ほら、これぐらいでいいかな?」

「ちょ、待っ……こんなに!?兄ちゃん本当に金持ちなんだな!?」

「それなりに稼いではいたけどね。別に金持ちというほどでもないよ」



出発前に冒険者ギルドの皆から頂いた祝い金は殆ど使っていなかったため、コネコは銀貨30枚と金貨が2枚ほど受け取って嬉しそうな表情を抱く。日本円に換算すると「50万円」近くも入手した事になる。



「へへへっ……こんだけあれば仕送りもたっぷり出来るな!!ありがとな兄ちゃん!!」

「こっちこそお礼を言う番だよ。さっきは助けてくれなかったら本当に危なかったよ」

「でも、兄ちゃんは白銀級の冒険者なんだろ?それなのにあんな奴等に負けるのなんて不味いんじゃないの?」

「うっ……言い返せない」



自分よりも階級が上の白銀級の冒険者にも関わらずに追剥ぎに捕まえられそうになったレナにコネコが注意を行うと、確かにレナは身体が不調だったとはいえ、コネコが助けなければ殺されていた事を思い出す。


対人戦に関してはバルやキニクを相手に何度も訓練をしてきたのにあっさりと不意打ちを受けて倒れてしまった事に落ち込む。



(相手が魔法使いとはいえ、勝てない相手じゃなかったよな。装備無しの状態だと遠距離攻撃が出来ないのがやっぱり問題か……)



万全な装備を身に着けて居たらレナも相手が魔法を使う前に仕留める自信は出来たが、冒険者は常に危険を伴う職業のため、何時如何なる時も気を抜いてはならないというバルの言葉を思い出す。今後の事を考えれば装備を身に着けていない状態で戦う術も身に着ける必要があった。


付与魔術師であるレナは残念ながら遠距離に対応した魔法は生み出せない。だが、付与魔法を利用して遠距離攻撃を行う事自体は「弾腕」で既に実践している。しかし、装備無しの状態で遠距離の相手に攻撃を行うとなれば手段は限られる。



(コネコは自分は力が弱いから実戦ではあんまり役に立てないと言っていたけど、あの素早さは十分に実戦でも通用するよな。早く動けば相手との距離を詰めたり、攻撃を回避する事も出来るし、そういう意味では「暗殺者」も戦闘職に適した職業なんだな)



コネコの戦闘ぶりを思い出したレナは彼女の素早さは学ぶべき点が多い事を察し、自分もあのように素早く動いて相手が攻撃を仕掛ける前に先手を打てないのかを考える。


しかし、魔術師であるレナは戦闘職の人間と比べれば身体を鍛えようとどうしても身体能力に差が生じてしまう。



(どうにか付与魔法を利用して早く動ける方法はないかな……それとも、別の方法を探してみるか)



レナは考え込んで歩いていると、唐突にコネコがレナの服を掴んで引き留める。何事かとレナは顔を上げると、何時の間にか大きな建物の前に自分が立っている事に気付く。


こちらの建物が王都に存在する冒険者ギルドらしく、イチノ街の冒険者ギルドの敷地も建物の大きさも3倍近くの差があった。



「うわ、ここってもしかして王都の冒険者ギルド!?へえっ、やっぱり王都ともなると冒険者ギルドも立派なんだな」

「ん?兄ちゃん、ここに用事があるから歩いてきたんじゃないのか?。兄ちゃんもあたしと一緒に試験を受けに来たんだろ?」

「え?試験?」

「ほら、ここに壁紙が貼ってあるだろ?」



コネコが扉の前に張り出されている壁紙を指差すと、そこには「魔法学園の入学希望者募集中!!」という文字が刻まれていた。


詳細を確認すると、どうやらこの屋敷の中で魔法学園の入学希望者の試験を行っているらしく、受付と試験料を支払えば一般人でも入学出来る旨が記されていた。コネコがこの冒険者ギルドの建物まで歩いてきたのはここで試験を引き受けるためだという。

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