第27話 武具と防具の装備

「鎖帷子?でも、これって重くないんですか?」

「大丈夫さ、僕の知人の小髭族が作った物なんだけど、非常に軽いのに頑丈なんだ。それにこれだと服の下に着込めば目立たないだろう?」

「なるほど、じゃあ着てもいいですか?」

「ああ、いいとも」



レナはキニクの言葉を聞いて納得し、早速装着する事にした。キニクの言葉通り、とても金属で構成されているとは思えない程に軽く、体型も合っていたので問題なく今のレナでも装備できた。


但し、今は大丈夫でも後々にレナが成長して身体が大きくなればいずれは着込めなくなるだろう。最も将来の事を心配するより、今は自分でも身に付けられる装備があった事をレナは喜ぶ。



「あ、凄い良い感じです。でも、どうしてこんなに良いのが売れ残ってたんですか?」

「それは元々は大柄の小髭族用だったからね。人間の男性が着込むには小さいし、かといって普通の小髭族の人には少々大きすぎたんだよ」

「なるほど」



現在のレナは140センチ程度の大きさだが、小髭族の平均身長は120センチ程度であり、確かに普通の小髭族が着込むには大きすぎるサイズだろう。他の種族の場合では子供の体型の大きさしか存在せず、基本的には大人しか存在しない冒険者や傭兵は見向きもしなかったのかもしれない。


鎖帷子は思っていたよりも悪くはなく、動きやすさという点においても普通の金属の鎧よりは楽に動けた。また、いざというときは付与魔法の力で軽量化させる事を考えれば問題はないのでレナは購入を決意した。



「あの、これいくらですか?」

「いや、代金はいいよ。これは僕からの選別さ、ダリルさんにはいつもお世話になっていたからね。友達からの差し入れとして受け取ってくれ」

「でも、こんな良い物を無料で受け取るなんて……」

「う~ん、正直に言えば僕としてもその品物は頭を悩めていてね。素材は悪くないんだけど、誰も購入する人が居なくて困ってたのさ。だからレナ君が引き取ってくれるとこちらとしても有難いんだよ」



キニクは言いにくそうに事情を答えると、確かに品物は良質だとしても購入する人間の幅が限られている(140センチの大柄な小髭族、あるいはレナのような冒険者を志す小柄な子供)以上は今後店に置いていても売れるか分からない。そう考えたらレナに引き取ってもらった方が店側としても都合が良いらしい。



「じゃあ、有難く頂きます」

「ああ、遠慮しないでいいよ。但し、次からはお金を払って購入して貰うからね」

「はい。なら、早速何ですけど武器の方も見繕って欲しいんですが……」

「ふむ、どういう武器が欲しいんだい」



無料で鎖帷子を購入出来た事は嬉しく、余った予算でレナは武器を求めるが、そもそも自分に適した武器が何なのかが分からなかった。


無難なのは剣や槍を選ぶべきだが、残念ながらレナはどちらも今まで使った事はない。次の試験が始まるまでの一か月で武器を使いこなせる自信もない。


一番使い慣れている武器と言われればレナは自分の「拳」に視線を向け、冒険者を目指す決意を浮かべたあの日、廃墟の壁を拳で壊した事を思い返す。魔法の力を利用すれば重力の魔力を纏った拳で強烈な攻撃が出来ると思い込んで今までは魔法を磨く事に集中してきた。しかし、格闘家の称号持ちであるバルと相対してその自身も打ち砕かれてしまう。



(少し前までは素手だけで十分だと思っていたけど、本当の格闘家の人と比べると俺の拳はまだまだ甘いんだ。でも、今更他の武器を手にしたとしても一か月で使いこなせるのかな?)



新しい武器を購入しても指導者も無しに技術を磨く事は難しく、この街の中では残念ながらレナに教えを与えるような人間に心当たりはない。


思い悩むレナは店の中を無意識に見渡すと、壁に立てかけられている「腕鉄甲」のような物に気付く。



「あれ……あの腕鉄甲、前に来た時にありましたっけ?」

「ああ、それは最近に入荷したばかりの物だよ。格闘家の称号を持つお爺さんが訪れた時、自分はもう引退して使わないからと格安で売却してきたんだ。それと正確に言えばこれは腕鉄甲じゃなくて「闘拳」と呼ばれる武具なんだ」

「闘拳?」

「腕鉄甲の場合は腕を覆い込む防具なんだけど、この闘拳は拳の部分しか装着しないだろう?手首も自由に動かせるし、あくまでも防御ではなく攻撃用に開発された改造型の腕鉄甲とでも言えば良いのかな」



キニクは説明しながら闘拳と呼ばれる武具を取り上げると、実際に装着してどのように動くのかを見せつける。


闘拳は本来は両手に装着する武具のようだが、壁に立てかけられている闘拳は右手用の一つしかなかった。売却の際、片腕用しかなかったのでキニクは安く買い取ったという。


闘拳を見たレナは興味を抱き、彼に頼んで自分も装着してみる事にした。拳のサイズが合うのか不安だったが、少し調整すれば自由に装着できるらしく、レナは右手に取り付けた闘拳を見て自由に指や手首も動かせる事を確認する。



「へえ、思っていたよりも軽くて動かしやすいですね」

「だけど非常に頑丈な素材で出来ているね。長年の間、使用されているようだからきっと良い金属をつかっているんだろうね」



キニクの言葉にレナは納得し、よくよく確認すると闘拳の表面にはいくつもの戦闘によって生み出された傷跡が若干残っていた。

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