第24話 付与魔法の特徴

「これは……もしかして重くなっている?いや、というより重量が増している?」



レナは地面に突き刺さったナイフを引き抜き、地面に残された痕跡を確認して不思議に思う。観察した限りではナイフが突き刺さったのは紅色の魔力を宿った瞬間に重量が増加し、地面に突き刺さったようにしか見えなかった。


ナイフをどうにか地面から引き抜き、握り締めた状態でレナは周囲を見渡す。そして都合が良い大きさの石を発見して試しに付与魔法を施した状態のナイフを構える。今度は落とさないように気を付けながら覚悟を決めてナイフを振り翳すと、一気に振り下ろす。



「はあっ!!」



石に目掛けてナイフの刃が触れた瞬間、石はその場で砕け散り、周囲に破片が飛ぶ。その様子を確認したレナは驚いた表情を浮かべてナイフを覗き込み、砕け散った破片に視線を向けた。



「これは……切ったというより、叩き壊したみたいだ」



衝突した際に砕け散った石の破片を拾い上げ、切断というよりは砕けたという表現が正しく、振り上げたナイフの重量に耐え切れずに石が砕けたように見えた。


どうやら「地属性」の魔法を付与した物体は重量が増加するらしく、何となくではあるがレナは付与魔法の性質を見抜く。



「なるほど、多分だけど「重力」を操作して物体の重量を変化させる事が出来るのか。今の状態は重量を増加させたようだけど、もしかしたら逆に軽くする事も出来るのかな?」



今までもレナはダリルの屋敷に世話になっていた時は、付与魔法の力で重い荷物を運ぶ手伝いをした事がある。しかし、その時の場合は物体の重量その物を変化させたわけではなく、あくまでも手元の重力を操作したに過ぎない。


感覚的には荷物を運ぶ時に押しかかる重量に対し、レナは手元の重力を弱める事で重い荷物を持ち上げていた。この方法だとレナの場合は軽くなったように思えるが、他の人間が荷物を持ち上げようとしても重量は変わっていないので重い荷物は重いままである。


だが、魔法の力で重力を完全に操作を出来るようになるのならば、物体の重量その物

を増加させるだけではなく、逆に重量を軽くさせる事が出来るのではないかと考え、試しにレナはナイフに触れた状態で今度は重量を軽くするように念じる。



「軽く……羽の様に軽く……こんな感じかな?」



恐る恐るレナはナイフを地面に近付け、1メートル程度の高さでナイフを手放すと、今度は勢いよく地面に突き刺さる事もなく、ゆっくりとナイフは地面に降下していく。


どうやら上手く重力を操作して物体の重量を変化させる事に成功したらしく、レナは歓喜する。



「やった!!上手く行った……あれ!?」



だが、ゆっくりと降下していたナイフは途中で全体を覆い込んでいた紅色の魔力が消え去ると、一気に降下の速度を上昇して地面に落ちてしまう。どうやら途中で魔法の効果が切れて通常の重量に戻ったらしく、この事からレナは魔法の効果時間が「30秒」程度だと判断した。


落ちたナイフを拾い上げたレナは刃の部分を確認すると、何時の間にか刃毀れを起こしている事に気付き、どうやら地面に落ちた時と石を砕いた際に刃が破損した事を知る。重量を増したからといって刃物その物まで強化されているわけではないらしく、ナイフの硬度まで変化するわけではないようだった。



「なるほど、物体に「付与魔法」を発動させると重力を変化させて重量を変化出来る。効果の時間は30秒程度、後は普通に魔法を使うよりも体力の消耗が抑えられるか……地面や岩を変形させるときは魔力を送り込み続けないといけなかったからなぁっ……」



普通に魔法を使用するよりも物体に魔法を付与させる方が魔力の消耗を抑えられるとレナは判断しかけたが、すぐにある疑問を抱く。



「いや、待てよ……もっと大きい物に付与魔法を発動させたらどうなるんだろう。同じぐらいの魔力が消耗するのかな?」



ナイフよりも大きい物体にレナは魔法を発動させた場合はどうなるのかを確かめるため、何かないかと周囲を見渡すと、都合が良い事に建物の裏に放置されている壊れた壺を発見した。


恐らくは水を保管するために使用していた物のようだが、底の方に罅が入っているらしく、宿屋の人間が処分するために建物の裏に放置していたのだろう。


壺の大きさは50センチほどでナイフよりもかなり大きく、レナは壺を持ち上げた状態で付与魔法を発動させようとするが、やはりナイフと比べるとかなり重く、よろけてしまう。



「おっとと……結構重いな。よし、地属性エンチャント!!」



気合を込めて壺を抱えた状態でレナは魔法を発動させると、瞬時に壺の全体に紅色の魔力が纏わり、外見は紅色の壺に変化した。


今現在の状態だと壺の重量は変わらないが、先ほどのナイフのようにレナは「軽量化」を強く念じると、先ほどまで重かった壺が嘘のように軽く持ち上げる事が出来た。



「なるほど、やっぱり物体に付与魔法を発動させると重量を変化させる事が出来るみたいだな」



レナは壺を持ち上げた状態で手放すと、先ほどのナイフのように壺はゆっくりと地面に落ちていく光景を確認する。


やがて地面に降り立つ途中で魔法の効果時間が経過したらしく、壺は元の重量に戻ったのか地面に勢いよく墜落してしまう。幸いにも壊れる事はなかったが、お陰で底の罅割れが深まってしまう。



「この魔法、使い道が難しいけど、やり方によっては戦闘でも役立つかもしれない」



地属性の付与魔法の性質を知る事が出来たレナは拳を握り締め、ここからはどのように魔法の性質を利用して戦闘に生かすかを考える必要があった。

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