11月11日はポッキーゲームの日って知ってた?

川木

ポッキーゲーム

「ねぇ知ってる? 今日ってポッキーゲームの日なんだよ」

「は? ああ。今日11日か。勝手にゲーム、とかつけんなよ。ポッキーの日でしょ」


 今日も今日とて部室でだらだらしていると、春日命(かすがめい)がショートカットの毛先を振るように上半身をぐらぐらさせながら、相変わらず頭の悪そうなことを言いだした。

 ポッキーを食べているので思いついたのだろうけど、女三人しかいない部室で何を言っているのか。


 それにしても、ポッキーゲームって、グルコの細長いお菓子のポッキーからきてるけど、実際には他にも細長い系お菓子ならなんにでもつかえそう。合コンとかで実際にするときはやっぱポッキーにこだわって用意してんのかな。

 とかどうでもいいこと考えていると、命は私の反応が気に入らなかったのか、机をたたいて抗議してくる。


「ポッキーゲームの日なの! と言う訳で、流行にのってポッキーゲームしようよ!」

「しないってば。ばーか」


 ポッキーを一本いただき、椅子を引いて向かいにすわっている命からやや距離をとる。机の上に身を乗り出しているので、鼻先にポッキーを突きつけられてうっとうしい。

 昔から先端っぽいものを突き付けられるのが苦手なのだ。からかわれたくないので言わないけど。


 私の連れない態度に、命はぶぅっ! とわかりやすく頬を膨らませた。


「もー、いーもん。きーちゃんは相変わらず、ノリ悪いんだから。ね、なっちゃん!」

「へ? 私? ごめん、聞いてなかった」


 私、猪端記理子(いのはたきりこ)に断られた命は、私の隣で黙々と読書していた榎本涙(なつもとなみだ)にそう声をかけたけど、全く聞いていなかったらしく大きく肩を揺らして顔をあげた涙に問いかけられている。

 私たち三人はいわゆる幼馴染で、幼小中高とずっと同じ学校だ。家も近く親同士も知り合いなので、空気を読めない馬鹿の命、真面目な優等生の涙、そしてちょっとやさぐれて髪をそめている私と言う全然タイプの違う三人だが何だかんだつるんでずっと一緒にやってきている。


「もー、なんで聞いてないのー? 私より本が大事なの!?」

「そんなことないよー。命ちゃんが一番だよー」


 一番と言いながらまた本に視線を落としている涙だが、その返事に満足したようで命はうんうんと大げさに腕組をして頷いた。


「そうでしょうそうでしょう。そんななっちゃんには、私とポッキーゲームする権利をあげまーす」


 相変わらず馬鹿だな、と思いながら半目になって、どうせスルーするんだろうな。とつっこまずに見ていると、私が思っていた以上に涙は話を聞いていなかったらしい。


「んー? ポッキー? もらーう」

「うんうん。じゃああーんして」

「あー……!?」


 本を下して言われるまま口を開けた涙に、命は自分がポッキーをくわえたまま近づき、先端をいれた。

 さすがに普段そう取り乱すことのない涙も、目を大きく見開いて驚いたようだが、すでに口の中までいれられているからか、3秒ほど固まってから口を閉じた。

 にんまり笑みになった命は、ぽりぽりとゆっくり食べ進めていく。涙は戸惑っていたようだが、あれでいて負けず嫌いな涙なので自分も食べだした。


「……」


 そしてほんのわずかだけが残った状態になり、さすがに涙はとまった。至近距離で見つめあった状態だが、こんなの食べ折ってしまえばいいと言うのに、お互いに負けず嫌いすぎだろう。


「んふふっ」

「んっ」


 そして楽しそうに命が笑ってから、勢いよくかじりついて押し付けるように涙とキスをした。


「ふっふーん。私の勝ちだ!」


 命は立ち上がってガッツポーズをとったが、いやこれそもそもどうなったら勝ちなの。女同士でなにやってるんだ。


「……」


 と、涙が無反応だ。てっきり、今ので勝ちなの? とか文句を言うと思ったのに。もしかしてキスされてショックだったり、まさかのブチ切れてたりするのだろうか。

 恐る恐る、背もたれにもたれるのをやめて軽く涙の顔を覗き込んで確認する。


「……、知らなかった。キスって、気持ちいいねぇ」


 涙はうっとりした顔をしていた。え、予想外すぎる。涙は読書家で感激やなので、お気に入りの本を読んだあとなんかはこんな風にうっとりとろけた顔をすることは珍しくないけど、キスで? しかも命なんかバカとのふざけたキスでそんな顔しちゃうの!?

 え、え? どうなの? え、キスってそんなやばいの?


 命をみるときょとんとしていて、全然キスの気持ちよさに目覚めた感はない。ただ不思議そうな顔で自分の唇に人差し指をあててふにふにしだした。


「え、まじで? 全然意識してなかったからわかんない」

「そうなの? もったいない。もっかいしよっか?」

「えっ!?」

「あ、いいの? じゃ、しよっか。ポッキーまだあるし」


 いやいやいやいやいや!? え、なに!? いや女同士だしふざけてやったの見て別にあっそーって感じだったよ!? でもじゃあもう一回ってなったらそれ意味変わらない!?

 涙が普通に提案するのもおかしいし、なに当たり前みたいに命はポッキーくわえてまた机にのりあがって準備してんだ!?


「あ、と言うかやりにくいだろうし、隣に行くね」

「あ、うん。ありがと」


 なに涙は席移動までしてんの!? さっきまで本に夢中だったじゃん。本閉じちゃってるし。

 え、てか命も命で、なにちょっと照れてんの? あんたそんな可愛い顔できたの?


 二人は私から机をはさんだ向かい側で、向かい合うよう椅子を並べて座りなおし、当たり前みたいに命がポッキーを口にくわえた。


「じゃ、いくね」

「うん」


 いやこれちょっと雰囲気さっきまでと変わってない!? って思うけど突っ込める雰囲気じゃない気がして、私は黙ってじっと息をのんで見守るしかない。ごくり。


「……あーん」

「ん」


 二人が両端からポッキーをかじり始める。

 ポリ、ポリ、とさっきより大幅にゆっくりとかじりすすむ音が、狭い部室にひびく。じ、じらしすぎでしょ。こんなの、まるで今からするキスが特別なことみたいじゃん。いや日常行為では絶対ないけど。


 二人の視線はまっすぐに交わっていて、見つめあっている状態で、少しずつ近づくたびに頬が赤くなっていく。こ、これ、ほんとにしちゃうの?

 この流れでしちゃって、関係変わらない? 私とめなくていいの? 今冷静になれって言えるの私だけじゃないの? で、でも変にとめたら、それこそすでにしたキスが変だったってなって、それで関係変わってもあれだし。ていうか私の考えすぎで笑われても嫌だし。嫌でも絶対二人の雰囲気いつもと違うし。え、どうしよどうしよどうしよ!?


「……ん」


 混乱する私の頭が結論を出すより早く、二人は唇をあわせた。


「……」


 それからしばらく、時間が止まった。私の頭もとまって、世界が静止してから、多分五秒とかくらいたってから二人は顔を離した。はっ、わ、私も息とめてた!


「……ほんとだ、キスって気持ちいいね」

「でしょ? 気持ちいいよねぇ」


 二人はいまだいつもより至近距離で見つめあった状態のまま、そう微笑みあった。命までいつもと違う感じで、え、これ、私が見てもいいやつ? もしかして私が知らないだけで二人ってそういう関係なの?


「ねぇ、記理子ちゃん」

「ふぇ!? み、見てないよ!?」

「? 何言ってるの?」

「あ、う、ほ、ほんとにね。じゃなくて、二人って、その……」

「?」


 付き合ってるの、と、言葉が出ない。

 だって、二人とどれだけの付き合いだと思っているのか。ずっと一緒だったのに。何をするにも一緒で、放課後も休日も一緒だったのに、いつのまにか、付き合っていたなんて。それをずっと知らされなかったなんて。そんなみじめな話があるだろうか。どれだけお邪魔虫だったのか。


「きーちゃん、なにもじもじしてんの? それよりきーちゃんもキスしてみなよ。気持ちいいよ!」

「えっ!?」

「うん、記理子ちゃんもしようよ。私、二人の違いも知りたいな」


 は、はー!? 絶対この二人付き合ってないわ! 今めっちゃ瞬間的に心配したのに!

 ていうか何を普通に誘ってんの!? しかも涙に至っては自分の知的好奇心じゃん。なにをキスにまで真面目に取り組もうとしてんの!?


「ば、馬鹿じゃねーの!? しねーっての!」

「えー、なにキレてんの? 感じわるー」

「そっか。嫌ならしょうがないよね。じゃあ、命ちゃん、もう一回しよっか」

「うん、するするー」


 え、ちょ、だから! おかしいでしょ!? 恋人でもないことはわかったし、もうこれとめていいよね!?


「ちょ、ちょっと待ってよ。おかしいでしょ。ふたりとも。キスってそんな軽くするものじゃなくて、好きな人とするものでしょ」

「やだな。なにを心配してるの? 私は命ちゃんも記理子ちゃんも好きだよ」


 じゃなきゃ、キスが気持ちいいって言ってもしないよ。とあっさり涙に流された。いや、ええ? 好きって、そういうのじゃなくない?

 涙は真面目な優等生だけど時々天然、って思ってたけどこれってそういうレベルじゃないでしょ!?


 め、命は!? 命は馬鹿だけど、そういうところはわかってるよね?

 私は助けを求めるように、いつものような穏やかな笑みを浮かべている正気な涙から、命に視線を動かす。命は私と目が合うと、ばちこーんと音が出そうなくらい派手にウインクをした。


「もちろん私も、二人とも愛してるぜ!」

「馬鹿!」


 誰が告白の催促をしたか! てか二人してなんなの。別にそんな、そりゃ私だって二人が好きだしそんなの当たり前でそうじゃなきゃこうしてつるんでないけど、改まってこの流れで言われたら照れる!


「えー、なに赤くなってんの? 別に私、愛してるとか何回か言ってるじゃん。なにー、意識してんのー? かーわいー」

「馬鹿命、ほんとやめろって」

「でも本当に可愛いと思うよ。まぁ、普段から記理子ちゃんは可愛いけどね」

「な、涙まで。なんなの。なに、これ、夢?」


 思い切って自分の頬をつねってみる。痛い。いや、でも考えたらこの間夢の中で執拗に肩パンされて痛い! ってなったことあるから、これが現実とはまだ断定できないのでは!?


「ふふ、記理子ちゃんはそう言うところが可愛いよ。でも、もちろん、強制はしないからね。キスしたくないなら、いいよ。じゃあ命ちゃん」

「う、うん。へへ。改まると照れるね」

「そうだけど、気持ちいいし」

「そだねー」


 そうしてあっさりと二人はまたキスをした。え、いや、おま。え、ええぇ。ほんとにしてる。もうポッキー一切関係ないし、しかもちょっと、長くない?


「……」

「……」

「……いやちょっと! いい加減にしてよ!」


 耐えられなくて机を回り込んで二人の肩をつかんでやめさせる。友人として当たり前のことをしているはずなのに、二人は不満そうな目を向けてくる。


「もー、記理子ちゃん、とめないでよ」

「いや、とめるでしょ!?」

「なんで? とめる必要ある? きーちゃんは嫌だって言うからしないのはわかるけど、でも私となっちゃんは好きでやってるんだから、よくない? ね?」

「まあそうだねぇ」


 え、なに、私? 私がおかしいの? だって二人は恋人じゃなくて、私だけのけものだったんじゃなくて、三人一緒の幼馴染って関係でずっとやってきていたままで、その通りで、だから……

 でも、恋人じゃないのにキスするのは変だけど、でも変だからって、本人たちがしたくてしてるのを邪魔するのは、たしかに、話が別かもしれない。でもそんな、目の前でされて。いやでも、じゃあ、隠れて、別の場所でするよって言われても嫌だし。

 あれ、でもそれは、何で嫌かって言ったら、私だって二人の幼馴染なのに……?


「……する」

「え?」

「きーちゃん声ちっちゃ。もっとでっかい声で言ってよ」

「わ、私も、する……混ぜてよ」


 幼馴染で恋人でもないのにキスするなんて変だ。だけど、二人とも気持ちよさそうで、同じ幼馴染の私をおいて二人だけで楽しんでいつもと違うこと体験してって、それは、絶対嫌。私だけ別とか、嫌だ。ずっと一緒にいたし、これからも一緒がいい。それがおかしいとしても、二人がそうするなら、一緒がいい。


「……むふふ。もー、きーちゃんは相変わらず素直じゃないですねー」

「うん。でも、そう言うところも可愛くて好きだよ」

「ま、私もね、ツンデレと言えばきーちゃんってとこあるし? 好きですけど?」

「う、うっさい。それはもういいから!」

「はいはい、じゃあしよっか」


 イエスって言ってるんだからこれ以上褒め殺す必要ないでしょ。命の肩をどついてやめさせると、命は肩をすくめて立ち上がる。

 そして私と正面から向き合って、にこっと笑ってからそっと私の両肩をつかんだ。


 う。あ、改めて真顔向けられると、命でも照れる。普段からふざけて頬ずりしてくるくらい距離近い馬鹿の命のくせに。


「あ、待って」

「ん、なに?」


 隣でたちあがった涙が、小さく挙手しながら私たちをとめ、そして命の右手をつかんでおろさせて私の左肩をつかんで自分に向けさせた。


「私、先がいい」

「え? なんで」

「記理子ちゃんのファーストキス、私がほしい」

「え」


 ふぁ、ファーストキスって、いやそうだけど! でも幼馴染同士でやるのにカウントするの!? それますますガチっぽくなっちゃうっていうか、いやそうでもするけど。


「えー、なになに、なんで?」

「んー、記理子ちゃん、可愛いし。折角だから」

「そんなん言われたら、私も欲しい!」

「じゃあ、じゃんけんする?」

「そうしよっか」


 いや私の意志は!? と思ったけど、私に聞かれても困るな。どっちと先にしたいかとか言われても困るっていうか。ていうか、折角だしってなに。そんな軽く人のファーストキスを。

 私の戸惑いをよそに、二人は私の肩をはなして向かい合って腕を構える。


「最初はぐー」

「じゃーんけーん」

「ぽん」


 最後に残ったお菓子誰が食べるー? じゃんけーん、くらいのノリで私のファーストキスじゃんけんが行われた。なんだこの状況は。冷静になると頭がおかしくなりそうだ。

 勝負は一発でついた。涙だ。涙はぱっと表情を明るくさせて小さくガッツポーズする。


「やった。私の勝ち」

「ぐぬぬ。手に入らないと思うとなんかきゅーに悔しいー!」


 いつものお菓子でも同じ反応なのに、私のキスでの反応だと思うと、無性に照れくさい。


「じゃあ、するね」

「う、うん」


 涙はそっと私に向き合い、両肩に手を置いてきた。正面から涙の顔を見る。珍しくないいつもの顔だ。

 ちょっとたれ目気味のおさげが似合う地味顔。ごく普通だ。頭突きしたりして至近距離で見るとか普通に今まであった。


 だけどどうしてだろう。はにかんだような顔でそっと近づいてくる涙は今までにない、可愛い顔をしていて、ドキドキしてきてしまう。

 と、ふいにその後ろにいる命が視界に入った。不満そうに唇をとがらせた子供っぽい顔。睨み付けるように、もの言いたげで、それが私のファーストキスが手に入らない顔なんだ。


「っ、あ、あのさぁ。やっぱ、ファーストキスの相手をじゃんけんで決めるとかおかしくない?」

「え、そうかなぁ? でもだとしたら、じゃんけんしてる段階でとめてほしいんだけど」

「なになに! それって私とファーストキスしたいってことだよね! なっちゃんより!」

「えー、それは納得いかないかも」

「そ、そうじゃなくて」


 当たり前だけど、二人とも私にとっての親友で、どっちがいいとかどっちがより好きとかない。全く同じだ。だから、どちらかを選べと言うなら私の選択は最初から一つしかない。


「二人とも同じだけ好きだから、一緒がいいんだけど……へ、変かな」

「一緒にって三人で? やっば、面白そうじゃん」

「変じゃないよ。それじゃあ、同時にしようか」


 受け入れられたことにほっとして、無意識に力が入っていた肩の力を抜く。さっきまで、女同士のただの幼馴染でキスするとか変って言っていたので、言い返されてしまうと思っていた。

 だけど二人とも何でもないみたいに笑顔で頷いてくれて、私はなんだか落ち着かなくなってもぞもぞしてしまう。


「動かないで。できないよ」

「じゃあ、いっくよー」

「わ、わかってる」


 三人で円陣を組むみたいに寄り合って、頭突きをするように頭を寄せ合う。その間抜けな構図になんだか少し笑えてしまう。

 二人もそうなのか、笑いを我慢するような微妙な顔をしている。だけど一様にその表情はどこか恥じらいを帯びていて、少しずつ唇が近づくたびに笑いが消えていく。

 吐息が唇同士でぶつかり合う距離で一度止まり、それぞれと視線をあわせる。そしてゆっくり目を閉じて唇をあわせた。


「……ん」


 声を漏らしたのは誰だったか。唇が触れた感触に頭が支配されてわからない。

 やわらかい。熱い。鼻息がうるさい。くすぐったい。無意識に押し付けあっていた体もぶつかって狭苦しいくらいだ。

 だけど妙な興奮が私の体をめぐる。なんだこれ。私は今、涙と命とキスしているんだ。気持ちよくて、だけどもっと気持ちよくなりたくて、唇をすり合わせるように動かしてしまう。


「んん」


 不思議だ。唇一つとっても二人は違う。目を閉じていてもちゃんとわかる。命は少し荒れていてより熱いけど動きは弱い。涙は綺麗に整っていてすべすべで命よりは少し温度が低いけどぐいぐい押し付けるような動きだ。

 こんな風に、さっきも二人でキスしていたんだ。そう思うと、どうしてか悔しいような気にさえなる。


「……」


 キスを終えて、ゆっくりと目をあける。始めるタイミングも終わるタイミングもちょうど同じで、やっぱり私たちは幼馴染なんだなって当たり前のことを実感する。

 二人ともキスする前より真っ赤になった顔で、どこかうっとりした熱があるような顔で、きっと私もそんな顔をしているんだろう。いや二人より余裕のない顔かもしれない。だって、ファーストキスだったし。


「ふふっ」


 と、自分の顔が気になって鏡を出そうかと思っていると、不意打ちに涙が私にキスをした。

 軽くついばむようなキスだ。だけど突然で、二人だけのキスはさっきとまた違っていて驚いてしまう。


「え、な、なに」

「だってじゃんけんで勝ったのは私だから、せめてセカンドキスは欲しかったんだもん」

「じゃあ私も、ん!」

「ん! い、勢い強すぎ」

「え、ごめん、痛かった?」

「いや、気持ちいいけど、あ、う……うん、まぁ」


 奪うような命のキスに思わず文句を言うと普通に謝られて調子がくるって、素で応えてしまった。き、気持ちいいって言ってしまった。本当だけど、キスが気持ちいとか、なんか、恥ずかしい。


「……ねぇ、あのさぁ、私、ちょっと、思いついちゃったんだけど……言ってもいいかな? 引かない? 二人とも引かない?」


 と恥ずかしさで俯いていると、いつになくしおらしくネガティブな声音で命がそう問いかけてきた。

 顔をあげると、私たちの表情を窺うように顎をひいてちらちら見てきている。


 子供のころからちっとも変わらないそのしぐさに、涙と顔を見合わせて笑ってから頷いて見せる。


「なに、命らしくない。言ってみなよ」

「うんうん。何、言ってみて」

「キスするときさ、舌だしたら、もっと気持ちいいかなって思うんだけど、ちょ、ちょっとえっちかな? 駄目かな?」


 恥ずかしそうにそう言う命に、私と涙は同時にキスをした。


 この日から私たちは、毎日キスをする幼馴染になった。

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