第19節・鉄腕の老戦士
胸壁では壁を越えようとしてくる大公軍とそれを阻止しようとする辺境伯軍の戦いが激化していた。
大公軍の兵士は梯子を使い次々と登って来ており、登り切った兵士を辺境伯軍の兵士が槍で突き殺す。
既に乱戦になりつつあり、そこら中で両軍の兵士がぶつかっていた。
私は壁に乗り込んできた敵兵に向かって突撃しながら剣を真っ直ぐに構えた。
此方に気が付いた敵は手斧を横に振り、迎撃をしようとするがそれを姿勢を低くして躱す。
そしてそのまま剣を突き出し敵兵の喉を貫く。
剣を引き抜くとすぐに横から別の敵が来ていることに気が付き、飛び退くと鼻先を刃が掠めた。
着地と同時に踏み込み剣を振るい敵を叩き斬ると周りを見渡す。
遠くで弓を構えていたエルに敵兵が襲い掛かっているのが見えたが彼女は番えていた矢を手に持ち、敵の首に突き刺して殺した。
そしてすぐにその矢を放ち、城壁の外の敵兵を倒している。
エドガーやウェルナー卿、ガンツ兵士長も胸壁で敵を迎撃しておりクロエは持ち前の防御力と怪力を活かして敵の梯子を押し倒していた。
(私の家臣たちは優秀ね……!!)
将兵の質は大公軍に勝るとも劣らないと思っている。
このまま雑兵どもだけならば敵を十分に押し返すことが可能だろう。
そう思った瞬間、近くの兵士たちが一斉に吹き飛ばされた。
「!?」
何事かと兵士たちが吹き飛ばされたほうを見ればまるで獅子のような鎧を身に纏い、身の丈程ある戦槌を持った大男が立っていた。
「我こそはクルーべ侯爵が家臣、”鉄腕”のゲルデロートである!! さあ、さあ!! 腕に覚えのある者よ! 掛ってくるがよい!!」
クルーべ侯爵家は武勇に秀でた家臣を多く持つ武闘派の貴族だ。
”鉄腕”のゲルデロートと言えばクルーべ侯爵配下の中でも特に有名な男だ。
その異名通り剛力の持ち主であり、過去に熊を素手で仕留めたという噂を聞いたことがある。
(厄介な奴が出てきたわ……!!)
三人の兵士たちがゲルデロートに飛びかかるが敵はそれを一撃で粉砕し戦槌によって砕かれた兵士たちの血肉が飛び散る。
「弱い!! 雑兵では話にならん!! 誰か腕の立つものはおらんか!! ……ん?」
ゲルデロートと目が合った。
彼は此方をじっと見つめると「おお!!」と言い、フルフェイスの兜で表情が見えないが恐らく笑顔になった、と思う。
「そこにいらっしゃるはルナミア様とお見受けする!! このようなことになってしまい残念だが人生とはそういうもの。割り切って戦うしかありませんな!!」
な、なんというか豪快な人物だ。
悪い人間ではないというのはなんとなく分かるが今は敵だ。
敵の勢いに呑まれず、警戒をしなければいけない。
「ふむ? ルナミア様は武芸に秀でると聞く。敵の大将よ勝負いたせいッ!!」
ゲルデロートが武器を構える。
それだけで鳥肌が立つような圧迫感だ。
間違いない。
この男、相当強い。
周囲の兵士が私を守ろうと前に出るが「下がりなさい」と言う。
城の兵士じゃ相手にならない。
ここは私が……。
『ちょおっとまったぁ!!』
「む?」
鉄塊が飛び込んできた。
大盾を持ったクロエが私とゲルデロートの間に割って入り、敵と相対する。
『鉄腕だか剛腕だがなんだか知りませんがぁ! ルナミア様には指一本触れさせませんよぉ!!』
「クロエ!? 貴女も下がりなさい!! この男は……!!」
『強いんですよね? そのくらいウチにも分かりますぅ。でも、ウチはコーンゴルドの盾!! ……になる予定ですのでぇ、退けません!!』
クロエの覚悟は固そうだ。
私は近くにいたウェルナー卿と目を合わせると彼は頷く
。
「……分かった。任せます。でも絶対に死んでは駄目よ」
『お任せください!』
ゲルデロートの相手はクロエに任せて私は胸壁に乗り込んでくる敵兵の迎撃を行う。
大丈夫だ。
あの子の鉄壁さなら”鉄腕”だろうが弾き返してみせる。
そう信じて踵を返すのであった。
※※※
(うっひゃぁー。啖呵を切ったのはいいんですけど、やっぱ怖いですねぇ!!)
目の前にいるのは大きな獅子のような男。
血の付いた戦槌を見るだけで身が竦みそうになる。
でも、負けない!!
「小娘……」
獅子がじっと此方を見つめた。
思わず喉を鳴らして唾を飲み、盾を構える。
「……見事な覚悟だ!! ガァッハッハッハッ!! 爽快壮快! 女なれど素晴らしい忠誠心だ!!」
『あ、ども。ありがとうございますぅ』
「うむ! いやはや、この戦、気乗りせなんだが楽しめそうだ!! 小娘! ワシを止めるというその覚悟、今も変わりあるまいな!!」
『ええ! 来るなら来い! です!!』
ゲルデロートは満足そうに頷くと戦槌を力強く握りしめる。
一気に背筋が凍った。
先ほどまでの砕けた雰囲気は既にない。
あるのは鋭い闘志と殺意。
(……来る!!)
そう思った瞬間には敵が踏み込んできていた。
戦槌が縦に振り下ろされ、慌ててそれを大盾で受ける。
盾越しに凄まじい衝撃を受け、手が痺れそうになる。
(凄い衝撃……そして早い……!!)
敵は此方と同じように重い鎧を身に纏っているにも関わらず、巨大な戦槌を容易く振り回している。
戦槌による攻撃は途切れること無く、ひたすら盾で防ぎ続けている。
「……ぬぅ。固いな!」
『それが売りですのでぇ!!』
大盾と鎧のお陰で敵の攻撃を防げている。
だが防げているだけで全く反撃できない。
(守るだけじゃ勝てません!! だから!!)
戦槌が大盾に叩きつけられる瞬間に、大盾を手放した。
敵は攻撃を空振り、その隙を突いて相手の懐に飛び込む。
手を伸ばし、戦槌を持っている敵の両腕を掴むとそのまま全力で相手を押していく。
「おお!? なんという怪力!!」
『ごはん一杯食べてますからぁ!!』
このまま壁際まで押し込んで壁から突き落としてやろう。
そう思い足に力を入れるが敵も腰を落として踏ん張り始めた。
「力比べか!! それも良い……が!!」
『!!』
此方の動きが止まった。
相手を押せなくなり、逆に相手から押し返されそうになる。
「力の入れ方が単調だ!! 小娘! 力とは加え続ければ良いというものではない。大事なのは……緩急だッ!!」
敵が一瞬力を抜き、思わず前のめりになる。
その瞬間に思いっきり押された。
『わ!? わわ!?』
鎧の重さ的には此方の方が上の筈なのに簡単に突き飛ばされ逆にこちらが壁際まで押されてしまった。
どうにかギリギリのところで踏みとどまりホッと息を吐くがその直後、胴に戦槌を叩き込まれた。
「戦で気を抜くではないわ!! 出直して参れ!!」
その一撃で一歩下がってしまい足を踏み外す。
そしてそのまま胸壁から落下し、地面に叩きつけられてしまった。
仰向けに、地面に少し埋め込まれるようになった状態で空を見上げ、思わず『う、うう……。恥ずかしい』と顔を覆ってしまうのであった。
※※※
ゲルデロートは鎧娘が落下するのを見届けると戦槌を構えなおした。
まだまだ未熟であったが中々愉快な小娘であった。
あれは光るものがある。
もしこの戦を生き残れたらきっと良い戦士に成長するだろう。
(さて、次は……)
ルナミア辺境伯と戦おうか?
そう考えていると目の前に若い騎士が立っていた。
「ほう? 次はお主か?」
「ああ。仲間が世話になったようだからな。その礼をしに来た」
若い騎士が剣を構えると刃から静かな闘志が伝わってくる。
この青年、若いがかなり腕が立つ。
修羅場をいくつも潜り抜けてきた戦士が放つ気を持っている。
「若造、名は何という?」
「コーンゴルド騎士団副団長、エドガーだ」
「ということはあのウェルナー卿の後任か……。相手にとって不足なし!!」
そう大声を出すのと同時に踏み込むのであった。
※※※
エドガーは振り下ろされた戦鎚を体を捻って避けると戦鎚が床を叩き割る。
そのまま敵の側面に回り込み敵に斬撃を叩き込むが敵も強引に体を捻って戦鎚を横薙ぎに放って来た。
剣と戦鎚が激突し、火花を散らせて弾き合う。
その凄まじい衝撃で剣を手放しそうになるがどうにか堪えて敵から距離を離した。
(とんでもない力だな……)
クロエと力勝負が出来るわけだ。
この男の攻撃をまともに受けていたらいつか剣が折られる。
攻撃は躱すことを重視すべきだろう。
お互いに牽制し合い、飛び込むタイミングを計る。
互いにジリジリと近づき合い……飛び込んだ。
此方の飛び込みに対して敵は戦鎚を横に構えて放って来る。
それを躱そうと立ち止まると敵は戦鎚を振るのをやめ、体を反対に捻ると石突き側を叩き込もうとしてくる。
(フェイントかっ!!)
咄嗟に剣で戦鎚の柄を受けるが敵がそのまま体重を乗せて来たため押し飛ばされてしまった。
どうにか転倒せずに済んだが体勢を大きく崩されてしまった。
その隙を見逃してくれる敵では無く、敵は蹴りを放って来た。
無防備になっていた腹に蹴りを喰らい地面を転がってしまう。
そして転がり終わるのと同時に眼前に戦鎚が迫っているのが見えたため慌て横に転がって回避する。
「良く避けたなッ!!」
ゲルデロートは愉快そうに笑うが此方は冷や汗が全身から噴き出る。
今のは危なかった。
あと数秒反応が遅れていたら自分の頭は割れた西瓜のようになっていただろう。
立ち上がり剣を構え直すと荒れた息を整える。
悔しいが相手の方が強い。
力もそうだが咄嗟の判断力にも長けている。
豪快さと冷静さを併せ持つ戦士だ。
「うむ。力の差を理解しつつも折れぬ闘志。良いぞ!」
「自画自賛か? 慢心は足元を掬われるぞ?」
「ガッハッハッハッ!! 一人前の騎士を前に慢心などせぬわ!!」
(慢心してくれると助かるんだがな……)
そう思いながら剣を握りなおした。
心は折れてはいない。
むしろこんな敵と戦えて高揚している。
経験豊富な戦士に若い騎士がどう戦うか見せてやろう。
(行くぞ……!!)
意気込み突撃する。
そして互いに武器を振るい、火花を散らすのであった。
※※※
私は胸壁の敵を倒しつつエドガーの方を時折確認していた。
あのゲルデロートという男。
かなり強い。
クロエを軽くあしらい、エドガーを追い込んでいる。
今すぐに助太刀をしたいが……。
「ルナミア様! 集中していないとご自身が危ないですよ!!」
ウェルナー卿が敵を切り裂きながらそう言う。
彼は片腕で巧みに剣を操り、先ほどから何人もの敵を倒している。
流石はコーンゴルド随一の騎士。
隻腕であってもその実力は遺憾なく発揮されている。
「……分かってはいるのだけれども、ね!」
後ろから襲い掛かってきた敵兵を振り向くのと同時に斬り捨て、額に浮かんだ汗を腕で拭う。
エドガーのことは信頼している。
彼ならばどんな敵を相手にしても大丈夫だろうと。
だがそれでも心配なものは心配なのだ。
「まあ、相手が相手だ。本当にヤバそうなら俺が行きますよ」
「ええ、頼むわ」
それにしても大公軍め。
倒しても倒しても次々と押し寄せてくる。
ゲルデロートの登場により敵は勢いづいており、味方の被害が増えている。
また、先ほどから何度か魔導障壁が抜かれており後方に火の玉が着弾しているのが見えた。
(被害が大きくなる前に退く判断をすべきか……)
なるべく三層街の城壁で粘りたい。
だが三層街に固執して味方に大損害を出してしまっては意味がない。
引き際は見誤らないようにしなければ……。
そう考えていると正門に大きな衝撃が生じた。
「!?」
慌てて正門の方を見ると巨大な丸太の杭……破城槌を持った兵士たちが正門に張り付いており、門を攻撃し始めている。
「いつの間に!! 弓兵隊! アレを止めなさい!!」
弓兵たちが慌てて正門を攻撃している兵士たちに矢を放つが敵の弓兵隊や銃兵隊が味方の弓兵たちに攻撃し、思うように矢を放てないでいる。
(正門を抜かれたらマズいわ……!!)
門を抜かれたら敵がなだれ込んでくる。
そうなれば三層街を放棄せざるおえなくなるだろう。
「門を守れ!!」
下にいた兵士たちが正門に集まり抑え始める。
破城槌が門を攻撃するたびに門が軋み、反対側で押さえていた兵士たちが押し飛ばされそうになっているのが見えた。
『門は突破させません!!』
クロエが門に体当たりするように張り付いた。
『名誉返上ですぅ!!』
「馬鹿!! 名誉挽回だ!! 返上するな!!」
門はクロエたちが必死に押さえてくれている。
ならば……。
「油を!!」
私の言葉に兵士の一人が油の入った壺を持ち上げ胸壁から破城槌を持った兵士たち頭上に落とした。
壺は破城槌にぶつかり割れると中の油を兵士たちに浴びせる。
「火矢を放ちなさい!!」
敵兵が油を浴びたのを見たエルが弓兵隊に指示を出し、弓兵たちが一斉に火矢を放つ。
火矢は敵を射抜き、あっという間に炎上させる。
正門前は瞬く間に火の海となり、火達磨になった敵兵が断末魔の叫びをあげながら転げまわっていった。
破城槌が炎上したことにより敵軍が動揺したのが分かった。
私はすぐに「押し返せるわよ!!」と剣を掲げると味方の兵士たちが喊声を上げる。
まだ三層街は持ち堪えられる。
そう確信しながら私は再び壁を越えてくる敵兵に斬りかかるのであった。
※※※
ゲルデロートは感心していた。
この若い騎士、戦いながら此方の癖を見抜こうとしている。
どんな戦士にも癖というものがある。
自分の得意な戦い方、パターンというものがあり、それを繰り返してしまう。
癖は隙となる。
隙は弱点となる。
この若い騎士は冷静に此方の弱点を探し、反撃の糸口を探しているのだ。
(このような良き騎士と出会えるとはな……)
この戦、あまり気乗りしなかった。
ルナミア・シェードランがラウレンツ様と結託してレクター大公を討とうとしていたなど眉唾ものだ。
親殺しの男の為に我が戦槌を振るいたくは無かったが主であるクルーべ侯爵が参陣した以上戦わざるおえない。
最初はある程度武功を立てたらさっさと退こうと思っていたのだが……。
(辺境伯家、気概のある者が多いな!!)
先ほどの小娘と言い、この騎士と言い気持ちのいいくらい真っすぐな連中だ。
皆、領主であるルナミア・シェードランを信じて力の限り戦っている。
彼らと共に戦うのではなく刃を交えることになってしまったのは残念であるが戦士として強敵と戦える喜びを感じている。
戦槌を振るう。
上から、横から、下から。
高速で様々な方向から攻撃を放ち続け、その度に敵は躱し、弾き、踏み込んでくる。
踏み込んできた騎士に対して戦槌を振り下ろし叩き潰そうとすると騎士は咄嗟に後ろに跳んだ。
そして此方の攻撃が空振るのと同時に再度踏み込んできた。
まっすぐに放たれた騎士の突きを身体を捻って避けると敵の刃が此方の鎧を掠め、僅かに火花が散る。
すぐに戦槌を前に押し出し、敵を突き飛ばそうとするが敵は既に此方から距離を離していた。
十数回目の仕切り直しだ。
お互いに息を整え、次の攻撃のタイミングを計る。
さあ、若き騎士よ。
次はどう来る?
どのようにしてこのゲルデロートを倒す?
お前の力、全てを出し切ってみせよ!
自然と口元に笑みが浮かび、じっと敵の動きを観察する。
そして━━動いた。
若い騎士が此方の側面に回り込むように駆け出し、左側面に移動すると地面を蹴って跳んだ。
それに対して此方も迎撃のために戦鎚を降ろうとしたーーように見せかけて向かってくる敵に踏み込んだ。
こちらから敵の間合いに突然飛び込むことにより意表を突く。
一瞬でも動揺すれば致命的な隙が出来るのだ。
だがこの若い騎士は……。
(動じぬか……!!)
敵は動揺せず、むしろ突撃の速度を早めた。
すぐに戦鎚を横に薙ぐが敵はそれを屈んで潜り、此方の横を抜けて背後に回り込んだ。
それに対して此方も急いで振り返った瞬間、何かが視界を横切った。
それは鞘だ。
剣の鞘が投げつけられ、顔の横を通過する。
振り返った直後に鞘が視界に入ったため、ついそちらに一瞬だけ目を奪われてしまう。
戦いにおいてはその一瞬が致命傷になる。
「してやられたわッ!!」
直後、鞘が通過した方向とは反対側から剣の刃が迫り、頭に叩き込まれるのであった。
※※※
ヴォルフラムは後方から破城槌が炎上するのが見えた。
最初はうまく正門に貼り付けたのだが敵はすぐに対応してきた。
破城槌がやられたことにより敵は士気が上がり、味方の士気は下がっている。
クルーべ侯爵家の猛将が城壁に乗り込んだそうだが敵の反撃の勢いは衰えていない。
乗り込んだあと苦戦しているのか、それとも既に討たれたか……。
いずれにしろ━━。
(そろそろ退く時だな)
既に日が沈み始めている。
夜になる前に味方を後退させ、休ませた方が良いだろう。
この一戦で確信した。
辺境伯家は手強い。
将兵の質は高く、結束力がある。
対して此方は数は多いが士気も低い烏合の衆だ。
力押しでは被害が増えるだけであろう。
「閣下、味方に後退の下知を」
そうレクターに言うと彼は不機嫌そうに眉を顰めた。
彼が文句を言う前に空を指差し、「間もなく日が沈みます」と言う。
「夜間の戦闘は同士討ちを引き起こしかねません。日がまだ登っている間に退き、城を包囲しましょう。そして明日、味方の援軍が到着し次第攻撃を再開するのです」
明日には投石機も完成する。
投石攻撃により敵兵を減らしてから正門の突破を試みるのだ。
(問題はいつ反大公軍が来るかだな)
バードン伯爵は必ずルナミアを助けようとするはずだ。
劣勢の反大公軍からしたら正統なアルヴィリアの子孫であるルナミアは旗印として喉から手が出るほど欲しい存在だ。
数日後には救援に駆けつけるだろう。
いや、もしかしたら……。
「斥候を放ち、反大公軍の援軍を警戒しておきましょう」
「来たら従妹と一緒に叩き潰すだけだ。……まあ、いい」
レクターはため息を吐くと近くの騎士に後退を指示する。
後退の角笛が鳴り響き、味方が慌てて城壁から離れていくのが見えた。
さて、仕切り直しだ。
今日は小手調べ。
明日が本番だ。
そう思いながらレクターと共に後方の陣へ退がるのであった。
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