第7節・首領館の脱出戦
夕方。
孤児院のマザー・カルラは頭を抱えながら椅子に座っていた。
シアが拐われてから時間が大分経った。
知り合いに片っ端から助けを求めたが皆ドンに逆らうのは無理だと首を横に振った。
自分一人ではどうにもならないため途方にくれていたのだ。
シアはどうなったのだろうか?
無事でいるだろうか?
酷い目にあわされていないだろうか?
考えれば考えるほど不安になってくる。
「マザー! たいへん! また怖い人たちが!!」
外にいた子供たちが孤児院に飛び込んできたため、すぐに窓の方に行く。
外を見れば遠くに何人か男たちが立っているのが見えた。
ドンの部下たちが戻って来たのだろうか……?
「いいかい。他の子たちと一緒に二階に隠れているんだよ」
「マザーは?」
「私はお前たちを守らないといけないから。ほら、行きなさい」
子供たちが二階に行くのを見届けると台所から包丁を取ってくる。
そして一度深呼吸をすると外に出た。
「孤児院は渡さない! 近づいて来たら容赦しないよ!!」
包丁を構え、男たちにそう言うと彼らの背後から「マザー! 落ちつけって!」と見覚えのある顔が現れた。
ゼーグだ。
彼は慌てて此方に近寄ると「話を聞いてくれ」と言ってくる。
「話を聞けですって? アンタのところの傭兵が……!!」
「分かってる。うちのボリバルが迷惑をかけたから来たんだ。拐われたシアの方もある連中が救出に向かっている」
その言葉に目を丸くするとゼーグは頷く。
「さっき赤毛の自由騎士が来てな。シアを救いに行くから孤児院のことを頼むって頼み込まれた。謝らなきゃいけないのはこっちだってのにあの若造必死に頭を下げてな……。こんな大金まで渡してきやがった」
ゼーグは此方に袋を渡し、受け取った瞬間ズシリとした重みを手に感じた。
恐る恐る袋を開けてみると中には大量の金貨と銀貨が入っており、あまりの量に思わず袋を落としそうになる。
「マザー。その金貨はアンタが貰っておきな。これから何かと金が必要になるだろうからな」
「……それはいったいどういう意味だい?」
「分かってるんだろう? この町でドンに逆らえば大変なことになる。しかも今回はドンの館に侵入しているんだ。シアたちが館から脱出したら顔に泥を塗られたドンは怒り狂うだろうよ」
当然この孤児院にもドンの部下たちが押し寄せてくりだろう。
孤児院が壊されるだけならまだいい。
もし子供たちに手を出されたら……。
「マザーがこの孤児院を大切にしているのは分かっているつもりだ。だが、それ以上に子供たちが大切なんだろう?」
「でも、ここを離れたらどうすれば……」
この町を出ても頼れる場所なんてない。
か弱い子供たちに当ての無い旅をさせるのは不可能だ。
「コーンゴルドだ。あの自由騎士はコーンゴルドに向かえと言っていた」
コーンゴルドとは確かアルヴィリア王国にある土地のことだ。
だがそこに行ったとしてもコーンゴルドの人々が見ず知らずの自分たちを受け入れてくれるだろうか?
「自由騎士から紹介状を貰った。領主のルナミア・シェードランに紹介状を渡し、シアの……リーシェ・シェードランの関係者だと言えば絶対に助けてくれるそうだ」
「シアがシェードラン……」
「あまり驚かないんだな?」
首を横に振る。
驚いてはいる。
だが以前から感じていたシアの育ちの良さ。
幼い頃から教わってきた礼儀や立ち振る舞いは記憶を失っても忘れない。
もしかしたら貴族に関係する人間だったのかもしれないと思っていたがまさかシェードランとは……。
「俺たちもコーンゴルドに行く。この町にはもう居られないだろうからな」
孤児院の方を見る。
二階の窓から子供たちが心配そうに此方を見ているのが見え、ゆっくりと目を閉じた。
思い入れのある孤児院を手放すのは身を引き裂かれるように辛い。
町の外にでて新天地に向かうことを考えると不安で押しつぶされそうだ。
だが子供たちが無事ならば。
あの子たちに明るい未来を与えられるなら……。
「荷造りをします。少し時間を」
「ああ、分かった。男手が必要なら声をかけてくれ」
ゼーグに感謝の言葉を述べると孤児院の方に向かう。
そして一度立ち止まると目に焼き付けるように孤児院を見つめるのであった。
※※※
地下牢から階段で館に移動するとボリバルの案内を受けながら慎重に廊下を進んだ。
先頭にロイが、その背後にボリバル、私、ミリ。
そして殿にヘンリーがいる。
ミリには風を読む力があるらしく彼女は時折耳をピクリと動かし進む先に敵が居ないかを確認している。
そして何度目にかになる柱の陰に隠れるとロイが「妙だな……」と呟いた。
「いくら何でも警戒が薄すぎないか?」
「確かに……。ここまで全く人を見ないね……」
私がそう言うとミリがボリバルに「こっちで合っているんでしょうね?」と話しかける。
「あ、ああ。このまま行けばもうすぐエントランスだぜ。館は馬鹿みたいにデカい壁で覆われているから正門から出るしかねぇ」
「……と、なるとエントランスや正門に警備が集中している可能性がありますな」
ヘンリーがそう言うとロイは「みんな、戦いの準備を」と言う。
エントランスに出たら一気に正門まで駆け抜ける。
ドンの部下たちが此方に気が付き、集まる前に突破する予定なのだ。
再び歩き始め、扉の前に辿り着く。
ボリバル曰くこの扉の先がエントランスらしい。
私は双刃刀を握りなおしてみんなと顔を見合わせた。
そしてロイが「いくぞ!」と言うと扉を開ける。
エントランスには明かりが灯って、先ほどまで薄暗い廊下に居たため眩しさから目を少し細めた。
そして警戒しながら中に入ると辺りを見渡す。
「……誰もいないな」
ロイの言う通りエントランスには誰もいなかった。
二階にも人の姿は無く不気味なほど静かだ。
ボリバルとヘンリーが外に繋がる大扉に向かい、私たちは周囲を警戒し続ける。
そしてボリバルが大扉の前に辿り着き、ドアノブを回そうとすると……。
「ぎゃあ!?」
ドアノブに触れたボリバルが何かに弾かれ吹き飛んだ。
大扉を見れば何か薄い光のような膜が張られており、恐らくそれがボリバルを吹き飛ばしたのだ。
「これ、魔術障壁!?」
ミリがそう言った瞬間、エントランスに次々と武装した男たちがなだれ込んでくる。
そしてあっという間に私たちを取り囲むと「動くな!」と怒鳴ってくる。
「……やはり罠でしたな」
ヘンリーが冷や汗を掻きながら呟くとエントランスの二階から男が降りてくる。
派手な服を着た中年の男。
あの男、何度か姿を見たことがある。
「ドン・マルコ……」
私がそう呟くとロイが「あいつが……」と言い、私の横に立つ。
「全く……人の家でこそこそと。薄汚い鼠どもめ」
ドン・マルコはそう言うと私の方を見て「”隠者”め。目を離した隙に逃げられおって」と眉を顰める。
そして私たちを見回すと鼻を鳴らして笑った。
「貴様らが私の館に侵入したことなど地下水道の時点で気付いていた。あそこに捨てていた出来損ないを倒すとは思わなかったがな」
ドンは口元に笑みを浮かべ「さて」と言う。
「こう見えて私は平和主義者でな。無駄な争いは好まんのだ。だから、おいそこの赤毛。貴様、いくら欲しい?」
「……は?」
「金だよ、金。そのゼダ人を置いて今すぐ出ていくのなら大金を払ってやろう。金貨百枚なんてどうだ? んん? もっと欲しいか? じゃあ二百枚」
「に、二百!?」とボリバルが目を見開いているがこいつ裏切ったらしばき倒そう。
「悪いが興味ないね。俺の目的はリーシェを連れて帰る事だけだ」
ロイがそう言うとドンは彼のことを観察するように見つめ、「成程」と頷く。
「そいつは貴様の女だったか。だがすまんな。その女は私たちにとっても必要なのだ。ゼダ人が好みだと言うならば私が良い奴隷をお前にやろうか?」
ドンの言葉にロイは「下衆め」と吐き捨てると剣を構える。
それに合わせて私たちも身構えるとドンはやれやれという風にため息を吐く。
「状況も理解できぬ馬鹿共め。おい! ユキ! 仕事だ!!」
此方を取り囲んでいる男たちの背後から孤児院の前で戦った顔を布で覆った黒衣の女性が現れた。
ミリが「あいつ、"工場"の!」と言う。
女性は私たちを見ると何故か一瞬嬉しそうに目を細めるとドンの方を見る。
「ドン・マルコ。貴様、嘘をついたな?」
「ゼダ人の娘のことか? すまんなあ、こちらにも色々事情があったのだよ」
「……そうか。ドンよ、貴方には恩があった。深傷を負い、行き倒れていた私を救ってくれたことには感謝する。この数か月、恩を返すため無償で護衛を引き受けてきた」
黒衣の女性は顔を覆っていた布を解く。
「な!?」
「え、嘘!?」
ロイたちが彼女の素顔を見て驚愕する。
私とボリバルが首を傾げると黒衣の女性は私たちを見て微笑む。
そして私たちを守るように振り返ると懐から二本の苦無を引き抜く。
「……どういうつもりだ」
「ドン・マルコ。貴方に貴方の事情があるように私にも私の事情が御座います。貴方には確かに恩がある。本日をもって貴方との契約を解除とさせていただきましょう」
黒衣の女性━━ユキノがそう言うとドン・マルコは不愉快そうに顔を歪め部下たちに「そいつごと侵入者を始末しろ!!」と怒鳴りつける。
すると彼の部下たちがゆっくりと包囲を狭め始め、私たちも壁を背に半円に陣を組む。
「ちょっと! あとで色々聞かせてもらうからね!?」
ミリがユキノにそう言うとユキノは「ええ、勿論」と頷く。
そして敵の一人が動いた瞬間、此方も一斉に動き出し、エントランスで乱戦が始まった。
※※※
眠っていると廊下の方が騒がしいことに気が付いた。
沢山の人が廊下を走っているようであり、聞き慣れない金属同士がぶつかるような音も聞こえてくる。
何が起きたのだろうかと不安になり、耳を澄ますと部屋の前で誰かが立ち止まった。
『おい! もっと兵隊を集めろ!! あいつら手強いぞ!!』
『このままじゃ俺たちがドン・マルコに殺されちまう!!』
男たちはそう言うとまた何処かに向かって駆け出す。
今、父の名前が出た。
お父様に殺される。
父は都市長になったのではないのか?
確かに私が病に罹るまでは裏社会で生きていたが私の為に足を洗い、真っ当に生きていると言ってくれていた。
そして都市長になり、私を治すために様々な苦労をしてくれている。
その……はずだ……。
「お父様……」
動けない身体がもどかしい。
見えない目が不安を募らせる。
私の知っている父は優しい人だ。
だが私の知らないところの父は?
以前、父が悪いことをしていると言っている人たちが居たがやはり本当のことなのではないだろうか?
もし、もしそうならば私は父を止めたい。
私の為に悪事を働いているのならばそんなことをしなくていいと、父と静かに最期まで暮らせればそれでいいと言いたい。
「誰か……。私は、どうしたら……?」
『人は見えぬものを恐れる。人は己の知らぬことに不安を感じる』
「だ、誰!?」
突然聞こえてきた声に驚く。
この部屋には自分しかいなかったはずだ。
なのに急に男の人の声が聞こえてきた。
『ああ、すまないね。驚かせてしまって申し訳ない。私は……そうだな、君の父親の協力者だ。君が元気になる様に薬をつくっているのだよ』
「……お医者様なの?」
そう訊ねると男は『そうとも言える』と笑った。
何故だろう。
この人の声、とても不安になる。
声色は優しげだがそこに何もない。
喜びも怒りも、憐れみも侮蔑も。
全く何もなく、道端の小石に話しかけるかのような声だ。
『成程。見えぬことにより真実が見えることもある、か』
男はそう言うと私の方に近づいてくる。
「ち、近づかないでください。人を呼びます!」
『残念ながら今君が叫んでも誰も来ないよ。皆、それどころではないのだ。君の父親もね』
物音がする。
これは……男が椅子に座ったのだろうか?
『さて、君は私に訊きたいことがある筈だ。答えられる限りのことは答えてあげよう』
私の知りたいこと……。
今、私が一番知りたいのは館で起こっていることではない。
父が私に嘘を吐いているのではないか?
それだけだ。
『そうだな。君の父は嘘を吐いている。君の父は確かに都市長だが同時に闇社会のドンだ。彼は他の自由都市と戦争し、毎日のように誰かを不幸にしている』
その言葉は胸を締め付けるように苦しかった。
息が詰まりそうになる。
全身に冷たい汗を掻き、空気を求めるように口をパクパクと開く。
『君も薄々気が付いていたのではないのかね? 自分の父が裏の仕事から足を洗ってなどいないことに。だが信じたくなかった。目を失い、耳も塞げばそこにあるのは自分にとって都合の良い”真実”だけだ。君にとってこの部屋は楽園だっただろう。だが、楽園から一歩足を踏み出せば……』
「や、止めて!!」
私はそう叫ぶが男は喉を鳴らして笑う。
『君には真実を知る責任がある。なぜならば君の父の悪行は君の為であったのだから……』
「………え?」
男が立ち上がった音がした。
彼は私の横に立ち恐らく見下ろしているのだろう。
『君の父は私と契約したのだよ。君を治すため多くの人間を人体実験に使うと。ああ、それは沢山だ。君の為に私は何十という人間を化け物に変えた』
「い、いや……」
奈落に堕ちたかのような感覚に陥る。
男が私に訊かせる言葉はどれも信じたくないような話だ。
父は私の為に多くの人を殺した。
そしてこれからも多くの人を殺すと。
いやだ。
いやだいやだいやだ!!
私はそんなことを望んでいない!!
『君が望まなくとも君の父親は進み続けるさ。なにせ最愛の娘を救うためだからな。君が感知するまであの男は決して止まらない。素晴らしい! 娘思いの良い父親じゃないか!』
「…………」
もはや言葉は何も出ない。
昨日までの日常は全て崩れ去り。
父との温かかった思い出は血塗られたものとなった。
頬を熱いものが伝う。
これは……涙だろうか?
「お父様を……どうやったら止められますか?」
『先ほども言った通りドン・マルコを止めるには君が完治するしかない。もしくは……』
「私が死ねば、お父様は止まりますか?」
『恐らくね。だが私としては君のような心優しい少女には死んでほしくない。だから━━』
男が私に何かを持たせた。
これは……薬だろうか?
『まだ臨床試験を済ませていない薬だ。この薬なら君を治せるかもしれない。だが死ぬかもしれない。さあ、どうするかね?』
それは悪魔の囁きだ。
私を破滅へと誘う死の誘惑。
だが父を止められるのならば。
私が愛した優しい父に戻ってくれるなら。
私は━━━━。
※※※
エントランスでの戦いは数的な劣勢もあり徐々に私たちが押し込まれ始めていた。
正面から来る剣を持った男を蹴りで吹き飛ばすと直ぐにしゃがむ。
すると頭上を斧が通過し背後を見ずに双刃刀を後ろに突き出し、石突側の刃で敵の腹を突き刺した。
そして立ち上がるのと同時に目の前から別の敵が襲い掛かってきたがそれをロイが叩き斬る。
「まだ無事か!!」
「うん! でもちょっと厳しいかも!!」
倒しても倒しても次々と来る。
いったいどれだけ館に部下を置いていたのだろうか。
右の方を見るとユキノが複数の敵に囲まれていたが彼女は右から来た敵をジャンプで踏みつけると跳び、別の敵の頭に踵落としを叩き込む。
そして着地と同時に苦無で近くにいた敵を斬り付け倒していた。
「あの人強いね! 何者?」
「……メイド!」
メイド……え?
メイドってあんなに強いものだっけ?
「武術はメイドの嗜みですわ」
ユキノが私の横に来ると苦無に付着した血を払い構え直す。
「ごく自然に人の心を読まないで欲しいなぁ……」
そう言うとユキノは嬉しそうに口元に笑みを浮かべる。
「とても懐かしく感じます」
「……前にもこんなやりとりを?」
ユキノは頷く。
私も記憶に無いが懐かしさを感じている。
ここを切り抜けたら昔のことを聞こう。
そう考えているとヘンリーが突然「危ない!」と叫んだ。
直後、エントランスに轟音が鳴り響き、近くの壁に穴が開く。
「な、なに!?」
ミリが慌てて弓を構えるとエントランスの二階に何やら長い筒のようなものを持ったドンの部下たちが並んでいた。
「……銃、ですね」
ユキノが呟くとヘンリーが頷くと。
銃?
魔導砲とは違う武器なのだろうか?
「火薬を使い、鉛の玉を発射する武器です。まだあまり出回ってない新兵器ですが……」
ヘンリーは余裕の笑みを浮かべているドン・マルコを睨みつける。
「私は商人でもあるからなぁ。金になりそうな兵器ができたのなら調達するのは当然のこと。銃は素晴らしいぞぉ? 今はまだ命中性に難があるがいずれは弓に変わる武器になる筈だ。銃はいずれ戦の在り方そのものを変えるだろうよ」
銃と言う武器の威力。
壁に開いた穴を見ればかなりのものだと言うのが分かる。
アレを一斉に撃たれたらひとたまりも無いだろう。
(……どうする?)
こちらは敵に囲まれ、周囲に遮蔽物は無い。
万事休すかと思っているとボリバルが突然前に出た。
そして彼は一度此方を見るとドンの方を向いた。
「ドン・マルコ! 取引をしませんか!!」
※※※
これは賭けだった。
どう見てもシア達に勝ち目は無い。
万が一この窮地を脱したとしてもドンの顔に泥を塗った以上、今後彼の影に怯えながら生きていかなければ行けない。
そんなの真っ平ゴメンだ。
「……取引だと? 今更お前と何の取引をするというのだ?」
「俺は死にたくねぇ! アンタに忠誠を誓う! タダ働きでなんでもするし、何だったら今すぐコイツらと命がけで戦う!!」
「ボリバル!!」
シアが睨みつけてくるが気にしている余裕は無い。
半ば土下座をするような格好でドンに頭を下げ、必死に頼み込む。
「被験者を拐う仕事だっていくらでもやる! アンタの部下すらやりたがらない汚い仕事を率先してやるさ!」
死ぬよりはマシだ。
這いつくばって、ゴミと罵られても生き残ることが重要なのだ。
生きて、生きて、生き残って!
相手が一瞬でも隙を見せるのを待ち続ける?
そしていずれは足を掬ってやるのだ。
「ボリバルよ。お前のその小者っぷりは称賛に値するな。正直嫌いではない」
「じゃ、じゃあ……」
「━━だが駄目だ」
銃声が鳴り響いた。
胸に激しい痛みを感じ、己の胸元を見てみれば穴が開いていた。
穴からは血が吹き出し、そして喉から熱いものがこみ上げてくる。
そして口から真っ赤の血を吐き出すとその場に倒れるのであった。
※※※
「ボリバル……!!」
ボリバルがドンの部下に銃撃され、倒れるのを見た。
彼は血を吐き出し、その場に倒れると痙攣しながら血溜まりを広げていく。
恐らく致命傷だ。
「さて! これで銃の威力は分かっただろう? この武器の前では鎧を着た騎士も容易く殺せる。降参したまえ。今なら命までは取らないでやる」
「降参したってどうせ人体実験に使われるんでしょう? アンタみたいな悪党の考えることはお見通しよ」
ミリが睨むとドンは高圧的な笑みを浮かべる。
「人体実験が嫌なら女は商品になってもらってもいいぞ? まあどの道そちらでも長生き出来ないだろうがな」
「下衆がっ!!」
前に出ようとしたミリをユキノが止める。
下手に動けば蜂の巣にされてしまうだろう。
どうしたら切り抜けられる?
どうしたらみんなを助けてられる?
「……みんな、私を盾にして」
私がそう言うとロイが「何を言ってるんだ!?」と驚く。
「ドン・マルコの狙いは私。私を生きて捕らえないと意味がない。だから……」
「リーシェ様を盾にすれば無闇に銃撃をしてこない。確かに合理的ではありますが……」
ユキノは躊躇いながらロイの方を見る。
そしてロイはゆっくりと息を吐くと……。
「俺は……」
「お父様……?」
突如、エントランスに少女の声が響いた。
「ば、馬鹿な……。アマリア……?」
エントランスの二階。
そこにはいつの間にかにネグリジェを着た少女が立っていたのであった。
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