千億の光、遍く世界を見守り
マツヒラ カズヒロ
銀河人類史 三国均衡時代
『英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ』 (ベルトルド・ブレヒト)
天暦一〇六五年、オリオン腕に所属する惑星オルベールにて一つの君主制国家が誕生した。
のちに汎人類星間帝国と呼ばれるその帝国は代を重ねるごとに拡張を繰り返し、二十六代皇帝フリードリヒ二世征服帝の代になるとオリオン腕の全域をその支配下におさめるに至った。
時を同じくして、サジタリウス腕にて一つの共和制連邦国家が誕生することとなる。銀河連邦と名付けられたその国家は同じく拡張を繰り返し、サジタリウス腕の人類居住地のほとんどをその主権下におさめることとなった。
両国が初めて接触したのは天暦一三四二年、オリオン腕方面にて生命体の調査を行おうとしていた連邦の調査船が帝国軍に接収されるという形で邂逅を果たした。
これにより帝国と対等な国家の存在を知ることになった三二代皇帝アマデウス二世は連邦を帝国の意に従わぬ異端の教えに服す蛮族として討伐軍を編成、サジタリウス腕方面へと向かわせた。皇弟カール大公を総司令官とした総勢六万三千二百隻の大艦隊は後にドーヴァー回廊と呼ばれる回廊部からサジタリウス腕への侵入を試みたがサン・ピエール星域にて待ち受けていた司令長官セバスティアン・ノリエガ大将と参謀長バン・チュンミン中将率いる連邦軍宇宙艦隊三万三千隻の奇襲攻撃にあい壊滅、連邦を帝国と正面から対抗できる国家として認識させるに至った。
自由と民主主義を国是に掲げ、身分の差なく誰もが生きられる世界である連邦。その存在とそこから流れ込む種々諸々の文物は帝国の平民たちの政治的意識を高め、帝国内に身分制の是正や憲法の制定、諸権利の保障などを求めた政治運動の炎が燃え広がった。
帝国に革命の危機来る。サン・ピエールの惨敗により鬱病を発症したアマデウス二世に代わって政務を執っていた当時の摂政アウグスト皇太子はこれに対して警察力を総動員した過激な弾圧でもってそれに答えたが、それでも炎が完全に消え去ることはなく、中には武装して抵抗するものもあらわれる始末であった。
そんな中、とある過激思想を掲げた一団が貨物船を奪取し、帝国政府の弾圧から逃れる事件が発生した。
貨物船はやがて未開の蛮地と呼ばれるペルセウス腕に侵入、帝国の主権の及ばぬとある惑星に着陸した。
彼らは帝国の略奪に苦しむ現地人の協力のもとコミューンを建設し、惑星の開拓や現地有力者との同盟や戦争などを行い、ついには惑星そのものを手中に収めるに至った。
天暦一三六六年、彼らの思想である結集主義に基づく国家、統合共同体のもととなる国家が惑星ウルティマにて産声を上げた。この国家は後にペルセウス腕にその影響力を拡大させ、三大勢力の一角を占めることとなる。
ここに、宇宙を三分する勢力が立ち並ぶこととなった。それは、帝国が二つの蛮族、すなわち連邦、共同体の二か国と恒常的な対立状態に突入するのと同じ意味を含んでいた。
連邦や共同体もまた、対立状態とは言わないものの、一種の嫌悪状態に陥ることは確定事項であった。民主共和制と全体主義的結集主義は、帝国という共通の敵を持つものの思想的には相いれないものであったからであった。
こうして三勢力均衡時代と呼ばれる時代が始まり、一五〇年の時が数多の血と土とともに過ぎていったのであった。
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