神猫書籍発売記念SSキャットタワー(置き場)

にゃんたろう

ミーちゃん、料理コンテストに出場する。

 朝のお勤めが終わり朝食をとりに宿に戻った時のこと。


 食事が終わったら話があると宿の主人であるドガさんから言われた。


 なんでしょう?



「み~?」



 食事が終わり、お茶で一服。ミーちゃんはミネラルウォーターを飲みながら前脚で顔を洗っている。



「相談がある」


「お金ならないですよ?」


「「……」」


「みぃ……」



 お約束です。


 ドガさんと女将さんが俺の前に座り話始めた。女将さんはミーちゃんをモフモフしてるけどね。


 ドガさんの話は、毎年この時期に行われる領主主催の料理コンテストのことだった。


 料理コンテストは出たいからといって出られるものではなく、ここクアルトの領主からコンテストへの参加の招待状が送られてきた者しか参加できない。


 その招待状が『憩いの宿木ヤドリギ亭』、すなわち主人のドガさんに届いたそうだ。



「ネロのおかげで客足も上々で評判が上がったからね。ご領主様の耳にも届いたんだろうさ」


「正直、ぽっと出の俺が優勝できるとは思っちゃいねぇ。だがよ、出るならやっぱり上位を狙いてぇじゃねぇか」


「そこで、ネロの腕と知恵を借りたいってわけさ」



 なるほど、料理コンテストか面白そうだね。どうする? ミーちゃん。



「み~!」



 もちろん、即決だね。



「喜んでお手伝いしますよ」



 招待状にはコンテストのルールが書かれており、スープ、メインディッシュ、デザートの三品を作る。食材は各々が持ち込むことになるが、領主様から金貨三枚が支給され、その金貨三枚以内で食材を集め三品作ることとなる。


 コンテスト日は四日後。町の中心の広場で開催される。


 その夜にドガさんと息子さんと打ち合わせをおこない料理を決めて、食材はドガさんと息子さんが明日集めることになった。俺とミーちゃんは明日の仕事に備えて就寝。寝不足は毛艶の天敵だからね。


 次の日、朝の仕事を終えレインとプルミを連れ立って、朝食をとりに宿に戻るとドガさんが食堂でうなだれていた。



「誰かが手を回しているようでよ。肉が手にはいらねぇ……」


「マジですか……」


「みぃ……」


「それ、シュヴァインだぜ。おそらく」



 シュヴァインとは五年前から領主主催料理コンテストで優勝している高級料理店のことだ。でも、ここ数年、裏でコンテストに出る者への妨害工作をしているとの黒い噂もある。



「酷い奴らなのです! 猫様もそう思いません!」


「み~!」



 まあまあ、落ち着いて。それだけ相手がドガさんを認めてるってことだよ。でも、お肉が手に入らないのは不味い。



「店で使う分は問題ない。高級な肉は使ってねぇからな。野菜は農家から直接仕入れているから問題ねぇ」



 となると、コンテストで使うメインディッシュ用のお肉だね。



「よし。レインに個人依頼を出す。二日以内に高級肉を手に入れてくるのだ!」


「お、おう。乗り掛かった舟だ。手を貸してやるぜ。で、いくら出せる?」


「十五万レトだな」


「わかった。仲間にも声をかけてみる」



 レイン、任せた。じゃあ、次はプルミだな。鶏がらとオッギ牛のモンスターの仔牛の骨を買ってきて欲しい。



「猫様のお世話で忙しいのです~」


「さっさと買ってこい。ミーちゃんに嫌われるぞ」


「み~」


「い、行くです!」



 さて、ドガさん。お肉以外は準備できるんですよね?



「おう。野菜や玉子などは取引のある農家に頼んである。俺の友人でもあるから裏切ることはねぇ。それより、嬢ちゃんに買いに行かせたのはなぜだ?」


「我々が動くと妨害される恐れがあるので、第三者に行かせればお店の人も妨害しないでしょう。我々が対象なのですから」


「み~♪」



 ネロ君、あったま良い~♪ ってミーちゃん、照れるよ~。


 プルミが帰って来るまで食堂でひと眠り。夜も仕事だからね。テーブルにバスタオルを敷いてあげると、ミーちゃんも可愛い欠伸をして眠りにつく。


 一時間ほど寝たところでプルミが大きな袋を抱えて戻ってきた。



「猫様~。疲れたです~」



 ミーちゃん、まったく起きる気配がないね。プルミもドガさんに荷物とお釣りを返して、ミーちゃんの横で寝てしまった。



 さて、じゃあやりますか。


 ドガさんと厨房に移動して、鶏がらとオッギの骨を丁寧に洗う。ここて手を抜くと美味しいスープができない。


 洗った後、湯引きして再度洗い、寸胴鍋に鶏がら、生姜とねぎと水を入れて火にかける。そしてこまめに灰汁をとる。これ大事。


 その間に、オッギの骨をオーブンで焼いて、これも寸胴鍋に入れて各種野菜を炒めてりんごなどの果物、香草なども適度に入れ最後にトマトピューレを入れて火にかける。これもこまめに灰汁を取るのが大事。


 両方とも一度沸騰させて灰汁を取ったら、その後は水を足しながら沸騰させずにじっくり火にかけて出汁を取るのが秘訣。とドガさんに言ってお任せ。


 最後にデザートの付け合わせに、果物を蜂蜜で作ったシロップに漬けておく。


 鍋を確認すると、いい感じだ。でも、まだまだ煮込まないとね。この後は、ドガさんと息子さんが交代で鍋の番をしてくれることになった。


 明日と明後日は休みをもらっているので俺も手伝える。今、作っているものが完成すれば、必ず上位に食い込めるのは間違いない。焦らずじっくりといこう。


 あとはレインがいい獲物を狩ってくるかにかかっている。頼むぜ、レイン。


 夜の仕事も終わりドガさんと火の番を代わる。ミーちゃんは女将さんと寝るそうだ。大丈夫かな~?


 鍋の中身は灰汁取りをしっかりとしてくれれたようで、いい状態になっている。そろそろ、いいかな?


 ドガさんに手伝ってもらい。火を止めてざると布でこす。出来上がったのは黄金色のスープと茶色いスープ。そう、ブイオンとフォン・ド・ヴォーの出来上がり。


 ドガさんと息子さんに両方とも味見をさせる。



「これ、すげぇな……」


「こんな調理法もあるんだな……」



 俺も飲んでみる。ブイオン、まあ鶏がらスープのことだけど、これでラーメンを作ったら美味しいだろうな。醤油がないのが悔やまれるね。


 フォン・ド・ヴォーも出汁がよく出ていて十分に合格点を与えれる。これにひと工夫加えればいいソースが作れる。


 取り敢えず、今日はここまで。三の鐘がさっきなったので、少し寝よう。ドガさんたちは少し仮眠してから朝食の準備だそうだ。ご苦労様です。


 四時間ほど寝て朝食を食べに食堂に行くと、ミーちゃんが飛びついてきて顔をペロペロされる。俺もそれに応えてチュッチュッしてあげた。


 ミーちゃんとの朝のご挨拶が終わったと思ったら、なにやら外が騒がしい。



「あんた!? 大丈夫かい!」



 そこにはボロボロにされたドガさんと、そのドガさんを支えているガイスさんの姿があった。



「裏路地で急に襲われ……ガイスに助けられた……」


「けっ、あんな奴らに引けを取るとは。ドガも腕が落ちたな」


「面目ねぇ……」


「せっかく最近料理の腕が上がって、まともな飯が食えるようになったっていうのによう。また、不味い飯は食いてくねぇっての。この落とし前は付けさせてもらうぜ」



 口は悪いがガイスさん、ドガさんが襲われたことに腹を立ててる様子。意外と良い人?



「み~?」



 ドガさんは朝の仕入れに行った時に襲われたようだ。ドガさんはボロボロだけど、目的の品物は死守したそうで無事だ。料理人の鑑だね。


 死守したものは胡椒。残りのお金のほとんどを使って買ってもらった。これがあるとないとでは、大きな味の差となる。


 ドガさんには、ミーちゃんのミネラルウォーターを少しだけ普通の水と割って飲ませて、休んでいてもらう。酷い場合はミネラルウォーターをそのまま飲ませるつもりだ。



「み~!」




 厨房に入り冷えたブイオンに浮かんでいる油を取っていたら、食堂の方でレインの声が聞こえた。戻って来たようだ。成果はどうかな?



「ネロ。狩ってきてやったぜ!」



 おぉー。なにやら凄い自信だ。



「み~?」


「モシャッコとオオギュウを狩ってきたぜ!」



 モシャッコとオオギュウはコッコとオッギの上位種でお肉の味も上位種の名に恥じない美味しさなんだそうだ。これは期待できそう。



「み~」



 ミーちゃん、レインにお誉めのペロペロをしています。 ちょっとテレ顔のレイン。特別に俺も褒めてやろう。



「うむ。褒めて遣わす。ついでに今日はここに泊まって、夕飯を食べることを許す」


「み~!」


「お、おう。なんで上から目線なんだ?」



 レインはモシャッコはまるまる一羽、オオギュウは解体してヒレとサーロインの部分を持ってきた。残りは肉屋に売って、一緒に狩りに行った仲間と依頼料と一緒に分けたそうだ


 明日、使う分を取り分けて、残りは夕飯にニンニク油で焼いて食べてみた。



「うめぇ~」


「おいひぃれふ」



 なぜか、プルミも夕食を食べている。レインがギルドに依頼達成報告に来たのを見ていたので、お肉が食べれると予想してギルドを抜け出してきたそうだ。パミルさんの怒り顔が目に浮かぶ……。


 お肉は少し固いが旨みはオッギの比ではない。どうしても野生のお肉なので固いのはしょうがない。熟成させればよくなると思うけど時間がない。そこは工夫でどうにかしよう。


 明日の準備を済ませて休む。今日は宿に泊まっているハンターさんたちが、善意で交代で店を警備してくれるという。どうやら、外に怪しい者たちがいるそうだ。


 翌日、俺は料理コンテストの準備をして、ドガさんとコンテスト会場の中央広場へと向かう。


 さあ、出陣だよ。ミーちゃん!



「み~!」



 宿のほうは息子さんが残る。今日は料理コンテストがあるのでどうせ暇だけど、それでも客が来たら食事を提供するのが仕事だと言っていた。将来いい料理人になれると思うよ。


 コンテスト会場は既に大賑わい。多くの屋台が軒を並べ領主の私兵と依頼を受けたハンターさんたちが警備についている。


 広場には大きなステージが組まれており、更に一段高い場所に領主や賓客、そして審査員が陣取るのだろう。


 今回、料理コンテストに出場するのは五組。去年の上位三組と今話題になっている店の二組になる。


 係の人に案内されたブースに来て準備を始める。ドガさんは特別に作ったコック服の一張羅。俺は私服に白のエプロン。



「ネロ。ミーちゃんに着せておやり!」



 女将さんが袋を渡してきたので出してみると、小さなコック服と縦長のコック帽だ。


 ミーちゃん、着るの?



「み~!」



 というわけで、ミーちゃんは料理長にクラスチェンジした!


 いいのだろうかと思いながらも、ミーちゃん用のお立ち台をブースのテーブルの上に作り、ミーちゃんを乗せる。か、格好良い!?


 準備してる間に領主様の挨拶があり、コンテスト開始の合図が出された。


 最初に作るのはスープ。俺がスープを完成させる間に、ドガさんにはオオギュウのサーロインをできるだけ薄く切ってもらう。


 俺のほうは事前に作ってきていた、モシャッコのミンチと刻んだ野菜、卵白を混ぜたものにブイオンを加えて火にかける。ここでタマネギのの皮を入れる。食べるんじゃないよ。色付けのためだよ。


 沸騰して卵白が浮いてきたら、とろ火で一時間ほど煮る。料理時間は二時間なので仕上げにはちょうどいい時間になる。


 次はドガさんが切ったお肉を重ね、間に脂身を少し挟んミルフィーユ状態にして小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて準備Ok。あとは揚げればビーフカツレツの出来上がり。


 鍋に小麦粉バターを入れて焦がさないようにかき回していく。いい色になったところで、フォン・ド・ヴォーをこしながら投入。ワインビネガーや胡椒、塩で味を調えればデミグラスソースの完成。カツレツにかければ美味いこと間違いなし!


 デザートはプリンアラモード。牛乳で作った濃厚なカスタードプリンにシロップに漬けていた果物とクッキーを添える。彩りもよく美味しそう。


 そんなこんなで時間も迫ってきました。仕上げに入りましう。


 火にかけていたブイオンをこして胡椒、塩で味を調えば黄金色のコンソメスープの出来上がり。今までに飲んだことのない極上のスープになった。自分の才能が恐ろしい。


 ドガさんがカツレツを揚げている間に、今回の超高級食材を焼く。


 そう。オオギュウのシャトーブリアンだ。ヒレのの中でも最も高級で全体の三パーセントしか取れない希少部位だ。


 焼くといってもレア。味付けも塩、胡椒のみ。これだけでも、超級の一品。逆に手を加えたほうが味を損ないかねない。


 ドガさんもカツレツを揚げ終わった。デミグラスソースは食べる時にかけてもらう。


 さあ、完成です。



「み~!」



 他の組も完成のようで審査が始まる。審査される順番はくじ引き。うちらは一番最後になった……。


 他の組の料理を見ているとどうやら、昨日レインたちが肉屋に売ったオオギュウの残りの部位を使っているようだ。そんな中、シュヴァインだけはメインディッシュを魚料理のポワレにしたようだ。


 海のないクアルトで魚料理を持ってくるとは、金がかかっているのじゃないか? 本当に金貨三枚でやり繰りしているのだろうか? 怪し過ぎる。


 やっと、俺たちの番が回ってきた。カツレツにデミグラスソースをかけて審査員たちに出す。


 さすがに、今まで少量とはいえ四組分の料理を食べてきたからお腹も膨れているだろう。順番とはいえ厳しいね。


 そんな場を和ませるかの如く、ミーちゃんは審査員たちを見回して召し上がれ~と満面の笑みで鳴く。


「み~」


 ご領主様を含めた審査員一同、ミーちゃんに見惚れてぽわわぁーとなった後、キリリとした表情に変わり料理を食べ始める。ミーちゃん、魔性の女か!?



「こ、この肉凄いぞ……」


「な、なんだ、この透明なスープは」


「肉汁が溢れてくるぞ!」


「み~」



 おっ、なかなか高評価じゃない? ミーちゃんも審査員の言葉に満足顔。



「それでは結果発表に入ります。では、クレアーレからです。七点、六点、八点、五点、六点、合計三十二点。続いて……」



 結果発表が始まった。正直、この中でうちらの相手になる組はいない。去年の優勝者のシュヴァインですら、たいした腕を持っていなかった。質と調理法ともにすべてうちがまさっている。自画自賛じゃないよ? 事実ですから。



「それでは、去年の優勝者であるシュヴァインの点数をどうぞ! 八点、九点、八点、八点、九点、でました今回最高得点四十二点です!」



 やはり、肉をメインにした組の中で魚をメインにしたのはインパクトがあったのかな? 



「それでは、最後になりました、子猫の料理店の点数をどうぞ!」



 子猫の料理店? どこそれ? うちは憩いの宿木亭なんですけど?



「十点! 十点! 十点! 十点! 十点! で、でました! 料理コンテスト始まって以来、初めての十点満点です! 今年の優勝者は子猫の料理店だぁ!」


「み~!」



 だから……憩いの宿木亭だってば。ミーちゃんは嬉しそうだけどね。



「なんか、納得いかねぇ……子猫のぶつぶつ……」



 まあまあ、ドガさん優勝したんだからいいじゃないですか。ついでに宿の食堂は子猫の料理店にしません? ロイヤりティーも欲しいです。



「イカサマだ! どんな手を使った! こんな小汚い猫に騙されおって!」


「みぃ……」



 シュヴァインのお前! ミーちゃんは小汚なくないぞ! 毎日お風呂に入ってるし、初級万能薬兼初級回復薬のミネラルウォーターを飲んでいるんだ。真っ白で可愛いい神猫なんだぞ! 神様のペットだけど。


 それに汚いのはお前のほうだろう。心の奥まで汚れきってるだろうが!



「さて、イカサマはどっちだだろうな?」



 おぉっと、ここで厳ついヒーローの登場だ! ガイスさんは悪役ヒールであって癒しヒールにはなれないけどね。



「み~!」



 うまいこと言った~♪ ってミーちゃんに誉められました。


 どうやら、今回の下手人を捕らえてしょっぴいてきた模様。シュヴァインの責任者の顔が青くなっている。ざまぁ!



「み~」



 ミーちゃん、一件落着、悪は滅びるの~って顔してます。


 ちなみに優勝者には金貨三十枚が授与された。俺とミーちゃんで金貨二枚頂きました。ドガさんと女将さんは半分くれると言ったけど、ミーちゃんが受け取りませんでした……。俺は欲しかったよ……。


 余談ですが、来年からは料理コンテストに加えモフモフコンテストも行われるそうだ……。



「み~」



 となると、ミーちゃんの可愛さ無双で優勝じゃん!



「み~!」



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