第9話 モチヤマヨウスケとカワムラマコト

 「ところで皆さん、入校準備は大丈夫そうですか?」 

 イヌカイが呼び掛ける。


 「けっこう用意するものがあるんですよ。なにしろ1ヶ月間の入校ですから。入校要綱を見てください。洗面器、ピンチハンガー、サンダル、ゼッケンにする白い布。

 ジャージや行動服、靴とスニーカーは現地支給されるみたいですけど、下に着る紺色Tシャツは各自数枚は用意することですって。

 あっ、なにこれ! 女性は派手な下着を慎み、透けるなどして扇情的にならぬようにすることだって。昭和の中学校みたい。ふふふっ。

 マジマさん、私達は気を付けないと」


 イヌカイは笑いながらマジマに話を振る、


 「私、地味なのしか持ってないんで大丈夫です」

 

 「あー、なんかそんな気するわ。なぁアダチ」


 マジマは悪いかよと言った表情で男二人を見る。


 「下着はともかく、細かいものがたくさん必要ね。せっかくだし、今から皆で買い出しに行きませんか? 100円ショップで十分だと思います」


 イヌカイの提案に乗り新入団者4人で店へ向かう。


 「楽しみですね、入校するの。

 私、学校が大嫌いだったんです。小学校も中学校も高校も。みんな楽しそうだったけど、私はつまらなくて……。あんまり良い思い出ないんです。

 でも、いい大人になって経験する学校って違うんじゃないかなって……」


 イヌカイが呟くように言う。


 「俺も良い思い出ねぇな」

 「私も……」


 ナガヤマとマジマは苦虫を潰したような顔で応える。学校のことはあまり思い出したくないようだ。


 「マジマさんは学級委員長。ナガヤマさんは不良生徒。アダチさんは平凡な生徒。私はどうしようかな。」


 「変な妄想はやめましょうよ。俺もいい大人なんでチンピラなことはできませんよ」


 他愛のない会話をしているうちに100円ショップに到着し店内へ入る。


 「マグカップも必要だな」

 「充電ケーブルも予備を買っておこう」


 少年が二人、楽しそうに商品の選別をしている。

 平日の昼下がり、客層は主婦が主であり、高校生くらいの二人の少年、しかも片方は金髪の今や珍しいヤンキー風、もう一方は髪の毛がボサボサで分厚いレンズの眼鏡をかけたオタク風と妙な取り合わせが4人の目を引く。

 

 「あれ、あのガキ二人、市役所にいたな。

 おいっ、お前ら第六分団だろ? 」


 ナガヤマの声かけに驚きつつも二人は笑顔で反応する。


 「そうっす。市役所にいましたよね。そこで挨拶した方が良いかなって思ってたんですけど、静かにしてないとダメな空気出てたんで。すみませんでした。」


 とヤンキー少年が意外としっかりとした返事をする。


 「よろしくお願いします。僕ら入校の買い出しに来たんですけど皆さんもですか?」


 とボサボサ頭の少年。


 「そうよ、考えることは同じね。これで同期が全員集合。嬉しくなってきちゃった。

 買い出し終わったらコーヒー飲みに行きましょうよ。」


 あれが必要これは要らないと1時間半も悩みけ、ようやく喫茶店で同期会を開くことができるようになった。


 「俺、モチヤマヨウスケって言います。こっちはカワムラマコト。俺たち同じ中学だったんすよ」


 ヤンキー風のモチヤマ少年が自己紹介をはじめる。


 「そうはいっても、僕もモチヤマ君もあんまり学校に行ってなかったから話したことはなかったけどね」


 「俺、中学出たら働こうって決めてたんで。なんか途中で学校行くのがバカバカしくなっちゃって。

 みんな二年の終わりくらいから受験だなんだ言ってさ。俺関係ねぇし、俺さ不良って訳じゃないんだけど、教師も俺にいてほしくないようだったし。」


 「僕も二年の途中で学校に行かなくなっちゃって。うまく輪に入れなかったっていうか、空気みたいな存在になっちゃったっていうのか、されちゃったっていうか。

 別にイジメられたって訳でもないんだろうけど。カーストの下になったっていうか。とにかくクラスの連中が嫌になったっていうか。よくわかんないけど」


 「そんで、この前から建築関係っていうか解体の仕事が多いんすけど、働きはじめたんですよ。

 そしたら親方に妖防団員になってくれないかって言われちゃって……。ゼネコンっていうの、よくわかんねぇけど仕事を割り振ってる会社が、妖防団員がいる会社を優遇するみたいで。俺も下っ端だからしょうがないっていうか、ちょっと面白そうだったし」


 「僕は親がうるさくて。いつまでも引きこもりみたいな生活するんじゃないって言うんですよ。通信制でも高校行くか働くなりなんなりしろって。姉貴と兄貴がいるんですけど二人とも優秀で比較されてしまって……。

 このままじゃダメだっていうのも自分でもわかっていて、ちょうど近所の人が市役所で働いていて妖防団を受けて見ればって言われて。

 なんか公務員になれるかもしれないからって」


 歳の差はあるが入団動機は似たようなものだった。


 「みんないろいろあるけどね、今日から大事な仲間、同期。

 仲良く頑張って行きましょう。

 とりあえずの第一目標は、県妖防学校妖防団員初任課程を無事終わらすこと! 」


 「えー、さっきも話したけど俺達中卒だから勉強できねぇし、卒業できるかわからないっすよ。」


 「おう! 心配すんな俺は高校中退だから。1年の5月で退学だから、中卒と変わらねぇからさ」


 「なんかナガヤマさん、いかにもって感じすね。」


 「私、ナガヤマさんが一番危ないと思う」


 「おっとマジマちゃん、辛口キャラになろうとすんなよ」


 「してねーわ!」

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